準備金・剰余金の資本組入れとは?払込みなしで資本金を増やす方法【B/S図解・登記】

結論
株式会社は、新たにお金を払い込んでもらわなくても、これまでの出資や利益のうち資本金になっていない金額を、帳簿の上で資本金に振り替えることで、資本金を増やすことができます。これを準備金・剰余金の資本組入れといいます。
純資産の部の中で金額を移すだけなので、会社の現金や純資産の合計額は増えず、新しい株式も発行しません。手続としては、会社は原則として株主総会の決議を経て、資本金の額の変更登記を申請する必要があります。
資本組入れとは?純資産の部の中で金額を移す手続
資本組入れで金額が動くのは、貸借対照表の純資産の部の中だけです。
貸借対照表(B/S)は「資産=負債+純資産」という関係で成り立ちます。資本金は純資産の一部であり、資本剰余金や利益剰余金とは別の項目です。資本組入れの元手(原資)になり得るのは、純資産の部のうち、次の2つのグループに含まれる4つの項目です。
資本剰余金
資本準備金/その他資本剰余金
利益剰余金
利益準備金/その他利益剰余金
このうち、準備金(資本準備金・利益準備金)を減らして資本金にする場合は会社法448条1項、その他資本剰余金・その他利益剰余金を減らして資本金にする場合は会社法450条によります。
新株を発行する増資と比べると、違いは次のとおりです。
新株発行による増資
会社が出資を受けるため、原則として会社の資産・純資産が増えます。新株を発行するので、株主ごとの持株比率が変わることもあります。
準備金・剰余金の資本組入れ
純資産の部の項目の間で金額を移すため、会社の現金・純資産の合計・株式の数は変わりません。
B/Sで見る:資本準備金を資本金に組み入れる例
資本金300万円の会社が、資本準備金300万円のうち200万円を組み入れ、資本金を500万円にする例で考えます。
資本準備金は、例えば株式を発行したときに、払い込まれた額のうち資本金として計上しなかった部分から生じます(会社法445条3項)。次の図は、その残高の一部を資本金へ移す前と後の貸借対照表です。
200万円を
資本金へ
※仕組みを説明するための単純化した架空の貸借対照表です。組入れ自体による変動だけを表示しています。
この場合の手続は、会社法上は準備金の額の減少です。まず条文を確認してみましょう。
会社法448条1項(準備金の額の減少)
株式会社は、準備金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 減少する準備金の額
二 減少する準備金の額の全部又は一部を資本金とするときは、その旨及び資本金とする額
三 準備金の額の減少がその効力を生ずる日
この例では、株主総会で「資本準備金を200万円減少し、その全額を資本金とする」こと(1号・2号)と、効力発生日(3号)を定めます。減少させるのは資本準備金300万円のうち200万円だけでもよく、残りの100万円は資本準備金のまま残ります。
B/Sで見る:その他利益剰余金を資本金に組み入れる例
資本準備金だけでなく、決算で確定したその他利益剰余金を原資にして資本金を増やすこともできます。
資本金200万円・資本準備金100万円・その他利益剰余金300万円の会社が、その他利益剰余金から200万円を資本金へ組み入れる場合は、次の図のようになります。
剰余金
200万円を
資本金へ
※仕組みを説明するための単純化した架空の貸借対照表です。組入れ自体による変動だけを表示しています。
こちらは、剰余金の額を減少して資本金の額を増加する手続です。条文は次のとおりです。
会社法450条1項・2項(資本金の額の増加)
株式会社は、剰余金の額を減少して、資本金の額を増加することができる。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 減少する剰余金の額
二 資本金の額の増加がその効力を生ずる日
2 前項各号に掲げる事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
利益準備金やその他利益剰余金を資本金に組み入れることは、会社法の施行(2006年(平成18年)5月1日)から2009年(平成21年)3月末まではできませんでしたが、同年4月1日施行の会社計算規則の改正によって、再びできるようになりました(『商業・法人登記500問』Q249)。現在の会社計算規則25条1項2号は、会社法450条により剰余金の額を減少する場合に、その減少額に相当する額だけ資本金の額が増加すると定めています。
その他利益剰余金などを450条で資本金に組み入れると、剰余金の額が減るため、配当などの上限となる分配可能額にも影響します。2つの例を比べると、次のようになります。
2つの例の、分配可能額への影響
※図の架空の例について、ほかの増減・控除項目がないと仮定した比較です。実際の分配可能額は会社法461条2項などに基づいて計算します。
今期の途中までの利益は組み入れられる?
組み入れられる剰余金の額は、会社法446条で計算します。同条1号は、計算の出発点を次のように定めています。
会社法446条1号(剰余金の額)
一 最終事業年度の末日におけるイ及びロに掲げる額の合計額からハからホまでに掲げる額の合計額を減じて得た額
イ〜ホは、資産・自己株式・負債・資本金と準備金などの額です。会社計算規則149条に当てはめて計算すると、この額は最終事業年度の末日のその他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額になります。
期中に出た利益は、事業年度の末日に当期純利益としてその他利益剰余金に計上されるもので(会社計算規則29条1項2号)、試算表上の期中の利益は450条の剰余金に含まれません(『商業・法人登記500問』Q251)。
一方、最終事業年度の末日後に資本金や準備金の額を減少して剰余金に振り替えた場合は、その減少額が剰余金の額に加わります(会社法446条3号・4号)。このように同条で剰余金の額に加わるものは、期中に生じたものでも組入れの原資になり得ます。反対に、末日後に剰余金の配当や自己株式の消却をした場合、すでに剰余金を資本金に組み入れた場合などは、その額が差し引かれます(同条5号〜7号、会社計算規則150条)。期中に組み入れられないのは、決算で確定していない期中の利益です。
例えば、前期末に確定したその他利益剰余金が300万円で、今期は期首から9月末までに500万円の利益が出ている会社では、次の表のとおり、300万円+500万円=800万円をそのまま組み入れることはできません。
なお、会社が期中の一定の日を基準にした臨時計算書類を作成して承認を受けると、その期間の利益を分配可能額に加える仕組みがあります(会社法461条2項2号)。これは分配可能額の計算の話であり、450条で資本金に組み入れられる剰余金の額を増やすものではありません。
本記事の貸借対照表は、会社法上の手続を理解するための例示です。個別の会計処理や組入れ可能額の算定、税務上の影響については、当事務所では判断していません。税理士・公認会計士にご確認ください。
資本組入れに必要な株主総会の決議と、債権者保護手続の要否
準備金・剰余金のどちらを原資にする場合も、原則として株主総会の普通決議(定款で別の定めをしていなければ、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で決める決議。会社法309条1項)が必要です。448条・450条の決議は、特別決議が必要な事項を定めた同条2項に挙げられていないためです。決議で定める事項は、次の表のとおりです。
取締役会の決議だけで足りる?
原則として足りません。準備金の資本組入れは、会社法上「準備金の額の減少」の一つとされているため、減少する準備金の全額を資本金にする場合でも、株主総会の決議が必要です(『商業・法人登記500問』Q250)。剰余金の資本組入れも、会社法450条2項のとおり株主総会の決議によります。
会社法448条3項には、株式の発行と同時に準備金の額を減少し、減少後の準備金の額が減少前を下回らない場合に、取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会の決議)で足りるとする例外があります。ただし、新たな払込みを伴わない資本組入れとは場面が異なります。
債権者への官報公告は必要?
債権者保護手続(債権者異議手続)を定める会社法449条1項は、対象となる場面を次のように定めています。
会社法449条1項本文(債権者の異議)
株式会社が資本金又は準備金(以下この条において「資本金等」という。)の額を減少する場合(減少する準備金の額の全部を資本金とする場合を除く。)には、当該株式会社の債権者は、当該株式会社に対し、資本金等の額の減少について異議を述べることができる。(ただし書は省略)
したがって、準備金を減少してその全額を資本金にする場合は、官報への公告や、知れている債権者への個別の催告は必要ありません。また、450条による剰余金の資本組入れは、資本金・準備金の額を減少する手続ではないため、449条の対象になりません。
一方、準備金を減少して、その一部をその他資本剰余金などへ振り替える場合は、449条1項の手続が原則として必要です。例外は同項ただし書が定めるもので、準備金だけを減少する場合に、定時株主総会で決議し、かつ減少額が欠損の額を超えないときです。手続が必要な場合の公告・催告・期間は、債権者保護手続の解説をご覧ください。
資本金の額の変更登記|添付書類・登録免許税・費用
資本組入れによって資本金の額が増えたら、効力発生日から2週間以内に、本店の所在地で変更登記を申請します(会社法915条1項)。
決議から登記までの主な流れは、次のとおりです。
-
決算書で原資を確認
会社は、貸借対照表や株主資本等変動計算書などで、組み入れる科目がいくら計上されているかを確認します。決算後に剰余金の配当などで残高が変わっていれば、それも確認します。
-
株主総会の決議
適用する条文(448条または450条)に応じて、減少する額、資本金とする額、効力発生日などを株主総会で決議します。
-
変更登記の申請
株主総会議事録、株主リスト、減少する準備金・剰余金の額が計上されていたことを証する書面(商業登記法69条)、代理人が申請する場合の委任状などを添付します。
計上されていたことを証する書面は、会社(代表取締役)が作成する証明書です。資本準備金を資本金に組み入れる先ほどの例では、次の数字を記載します。
資本準備金の額が計上されていたことを証する書面に記載する数字の例
- 当社の資本準備金の額:金300万円(組入れ前の額)
- 資本金に組み入れた資本準備金の額:金200万円
項目名は、法務局の記載例(商業・法人登記の申請書様式の「1-30 準備金・剰余金の額に関する証明書の例」)によります。記載例は、資本準備金・利益準備金・その他資本剰余金・その他利益剰余金の4種類が公開されています。なお、『商業・法人登記500問』Q250の書式の例では、1行目を「【効力発生日】現在の資本準備金の額」と表記しています。
登録免許税は、増加した資本金の額の1,000分の7です。計算した税額が3万円に満たないときは、3万円になります(登録免許税法別表第一第24号(一)ニ)。例えば、先ほどの例のように資本金を200万円増やすと、200万円×7/1,000=1万4,000円となり、3万円に満たないため3万円です。ほかの登記の税額は、商業登記の登録免許税一覧にまとめています。
当事務所にご依頼いただく場合の費用
司法書士に依頼する場合は、登録免許税とは別に報酬がかかります。当事務所の報酬は、料金表の「増資(普通株式)」の料金に準じ、資本金に組み入れる額によって次の表のとおり変わります。
1,000万円を超える部分は、1,000万円に満たない端数も1,000万円として数えます。例えば、1,500万円を組み入れる場合は88,000円〜、2,500万円を組み入れる場合は93,500円〜です。
資本準備金200万円を資本金に組み入れる先ほどの例では、費用の目安は次のとおりです。
当事務所の報酬には、決算書による組入れの原資の確認、株主総会議事録・株主リストの作成、計上されていたことを証する書面の作成、登記申請・進行管理が含まれます。
当事務所の料金が「〜円から」となっている理由(料金表の考え方より)
- 標準的なケースを基準にした金額です。準備金・剰余金の資本組入れの場合は、組み入れる額によって金額が変わります。この金額の区分は料金表に掲載しています。このほか、原資となる科目の数や、決算後の剰余金の変動の確認にかかる作業量などによって、加算が生じることがあります。
- 報酬と実費を分けて表示しています。料金表の金額は、当事務所にお支払いいただく司法書士報酬(税込)です。登録免許税などの実費は法務局等にお支払いいただくもので、当事務所の収入ではありません。
- 確認する事項が多い案件は加算のうえお受けしています。上場会社・上場準備会社、資本金1億円以上の会社、種類株式(優先株式)を発行している会社などが当たります。
- 着手前に総額をご案内します。ご依頼前に、加算や登録免許税などの実費を含んだ費用の総額をご案内し、ご了承をいただいてから着手します。
記載の金額は2026年(令和8年)10月時点のものです。加算の条件を含む最新の料金は、料金表(増資・資本組入れ)をご覧ください。支援の内容は、資金調達・資本政策の登記支援でご案内しています。
主な根拠条文
- 会社法309条(株主総会の決議)
- 会社法445条(資本金の額及び準備金の額)
- 会社法446条(剰余金の額)
- 会社法447条(資本金の額の減少)
- 会社法448条(準備金の額の減少)
- 会社法449条(債権者の異議)
- 会社法450条(資本金の額の増加)
- 会社法461条(配当等の制限)
- 会社法915条(変更の登記)
- 会社計算規則25条(資本金の額)
- 会社計算規則29条(その他利益剰余金の額)
- 会社計算規則149条(最終事業年度の末日における控除額)
- 会社計算規則150条(最終事業年度の末日後に生ずる控除額)
- 商業登記法69条(資本金の額の増加による変更の登記)
- 登録免許税法 別表第一(第24号(一)ニ)
司法書士として実際に確認しているポイント
当事務所では、「資本金をいくらに増やしたいか」だけでなく、資本金を増やす目的(許認可の要件を満たすため、取引先に示すためなど)をお伺いすることが多いです。確認している事項の例は、次のとおりです。
組み入れる勘定科目と金額。確定した決算の後に、剰余金の配当などで残高が変わっていないか。
株主総会の決議の内容、効力発生日、債権者保護手続の要否、登記期限が整合しているか。
議事録・計上されていたことを証する書面・登記申請書の数字が一致しているか。許認可などで確認される指標が、資本金か、純資産などか。
特に許認可では、登記上の資本金の額を確認する制度もあれば、純資産額・基準資産額・現預金の残高などを確認する制度もあります。資本組入れは純資産や現預金を増やす手続ではないため、資本金を増やせば必ず要件を満たせるわけではありません。この違いは、資本金はいくらが目安?でも解説しています。
また、資本金の額は、法人税の軽減税率を適用できるかどうかなど、税制上の判定にも使われます。どの判定に影響するかは会社ごとに異なるため、当事務所では、ご依頼の前に顧問税理士へのご確認の状況をお伺いすることが多いです。
許認可の要件は所管行政庁や担当の専門家に、税務への影響は税理士にご確認ください。当事務所では、確認いただいた要件を踏まえて、会社法上の手続と商業登記をお手伝いします。
よくあるご質問
- 資本組入れは、定時株主総会で決議しなければなりませんか?
-
定時株主総会に限られません。会社法448条1項・450条2項は「株主総会の決議」と定めているだけなので、臨時株主総会でも決議できます(『商業・法人登記500問』Q249)。ただし、減少する額は、効力発生日における準備金・剰余金の額を超えることはできません(会社法448条2項・450条3項)。
- 資本金に組み入れた金額を、あとで準備金や剰余金に戻すことはできますか?
-
戻すには、資本金の額の減少(減資)の手続が必要です。資本組入れと違い、原則として株主総会の特別決議(会社法447条1項・309条2項9号)と、官報公告などの債権者保護手続(会社法449条)が必要になります。
- 資本組入れの登記に、通帳のコピーや払込証明書は必要ですか?
-
必要ありません。新たな払込みを伴わないため、募集株式の発行で使う払込みがあったことを証する書面ではなく、減少する準備金・剰余金の額が計上されていたことを証する書面を添付します(商業登記法69条)。
まとめ|資本金は増えるが、会社の財産は増えない
- 払込みなしで資本金が増える手続純資産の部の中で、準備金・剰余金を資本金へ振り替える手続です。新たな払込みは必要ありません。
- 根拠となる条文準備金からは会社法448条、その他資本剰余金・その他利益剰余金からは450条によります。いずれも原則として株主総会の決議が必要で、期中の利益はそのままでは組み入れられません。
- 変更登記と費用効力発生日から2週間以内に変更登記を申請します。計上されていたことを証する書面を添付し、登録免許税は増加した資本金の額の1,000分の7(最低3万円)です。
関連するご案内
本記事について
本記事は、2026年(令和8年)10月時点の会社法・会社計算規則・商業登記法・登録免許税法をもとに、会社法上の手続と商業登記について説明したものです。事案によって必要な決議・書類・日程は異なります。税務・会計・許認可の個別の判断は、それぞれの専門家にご確認ください。
参考資料:法務局「商業・法人登記の申請書様式」1-30 準備金・剰余金の額に関する証明書の例。参考書籍:『商業・法人登記500問』Q249(準備金・剰余金の資本組入れ)、Q250(準備金の資本組入れ)、Q251(利益の資本組入れ)。
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