貸借対照表(B/S)とは?会社設立・増資・減資を理解するための基礎知識

結論
貸借対照表(B/S)とは、ある時点における会社の財政状態を「資産」「負債」「純資産」に分けて表した書類です。資産=負債+純資産という関係が常に成り立ちます。
会社法務の観点では、B/Sは「会社が何を持っているか(左側)」と「その元手をどこから調達したか(右側)」を並べた表だと考えると理解しやすくなります。借入れは負債、株主からの出資は純資産に入るという違いが、増資・減資を理解する出発点になります。
こんにちは。司法書士の金光です。
会社設立のご相談では「資本金はいくらにするのか」、増資では「払込額のうち、いくらを資本金にして、いくらを資本準備金にするのか」、減資では「資本金を減らすと会社のお金も減るのか」といった話が出てきます。
こうした話を理解するうえで、最初に知っておきたいのが貸借対照表(B/S)の仕組みです。難しい会計用語を覚える前に、「会社が何を持っているのか」と「そのためのお金を、どこから調達したのか」という視点から見ていきましょう。
なお本記事は、簿記や会計を網羅的に解説するものではありません。会社設立・借入れ・増資・減資といった会社法務を理解するために必要な範囲に絞って説明します。
貸借対照表(B/S)とは?「ある時点」の会社の状態を表す書類
貸借対照表は、会社のある一時点における財政状態を表す書類です。決算書として作成する場合は、通常、事業年度末現在の状態を表します。
これに対して損益計算書(P/L)は、事業年度という「一定期間」の経営成績を表します。同じ決算書でも、切り取っているものが「時点」なのか「期間」なのかが違います。
3月決算の会社で見る「時点」と「期間」の違い
2027年3月31日「現在」の資産・負債・純資産を表示します。
2026年4月1日から2027年3月31日までの「期間」の経営成績を表示します。
そもそも「事業年度」とは?
事業年度とは、会社の経営成績や財産の状況を一定期間ごとに区切るための期間です。定款で「当会社の事業年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までとする。」と定めていれば、3月31日が事業年度末になります。
各事業年度に係る計算書類の作成期間については、会社計算規則第59条第2項が定めています。事業年度・決算月そのものの決め方は、次の記事で詳しく解説しています。
なお、事業年度末になった瞬間に決算書ができあがるわけではありません。事業年度が終了した後に決算作業を行い、計算書類を作成します。
設立の場面では、事業年度末を待たずに作成するB/Sもあります。株式会社は、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならないとされています(会社法第435条第1項)。
貸借対照表は「資産・負債・純資産」の3つでできている
貸借対照表を最初に理解するときは、細かな勘定科目よりも「資産」「負債」「純資産」の3つに分かれていることを押さえるのが先です。
会社計算規則第73条第1項は、貸借対照表を資産の部・負債の部・純資産の部に区分して表示することとしています。
資産とは?
資産の部には、会社が保有する財産や権利などが表示されます。現金・預金、売掛金、商品、土地、建物、機械、備品などです。
ここでは「資産=現金だけではない」ということを押さえれば十分です。
負債とは?
負債の部には、借入金、買掛金、未払金など、会社が将来返済・支払等を行う必要のあるものが表示されます。
例えば銀行から500万円を借りれば、会社の現金は500万円増えますが、同時に「借入金500万円」という負債も増えます。
純資産とは?
純資産の部には、資本金・資本剰余金・利益剰余金などからなる「株主資本」のほか、株式引受権や新株予約権も表示されます。
- 純資産の部
- 株主資本
- 資本金
- 資本剰余金
- 利益剰余金
- 自己株式(控除項目) など
- 評価・換算差額等
- 株式引受権
- 新株予約権
- 株主資本
株式会社の貸借対照表の区分(会社計算規則第76条第1項第1号)
会社計算規則第76条は、株式会社の貸借対照表の純資産の部について、株主資本・評価・換算差額等・株式引受権・新株予約権という区分を設けています。新株予約権は「株主資本」そのものではありませんが、純資産の部に表示されます。
株主資本の中身(資本金・資本準備金・その他資本剰余金・利益剰余金の違い)は次の記事のテーマなので、本記事では全体像だけにとどめます。新株予約権・ストックオプションの発行手続については、次のページもご覧ください。
なぜ左右の合計は一致するのか|「何を持っているか」と「どこから調達したか」
B/Sの左右は、同じ会社の財政状態を違う角度から見たものです。左側は「何を持っているか」、右側は「それがどのように形成されたか」を表します。
「何を持っているか」
「どのように形成されたか」
左側は会社が持っている財産、右側はそれが負債・株主からの出資・利益の蓄積などによってどのように形成されたかを表します。同じものを別の角度から見ているので、左右の合計は必ず一致します。
資本金100万円で会社を設立した場合
株主が100万円を出資して会社を設立したとします。
会社は100万円の現金を持っている。その元手は株主からの出資。
さらに500万円を銀行から借りた場合
緑色が動いた部分。現金は600万円になったが、そのうち500万円は銀行から調達したお金。
現金でパソコンを買った場合
設立直後(現金100万円)の状態から、30万円のパソコンを購入し、これを備品等として資産計上する単純な例を考えます。
現金は30万円減ったが、代わりに別の資産を取得している。資産の合計は100万円のまま。
したがって、「現金が減った=会社の資産全体が同額減った」とは限りません。
取得したものを資産として計上するか費用として処理するかは、資産の種類・取得価額その他の事情によって異なります。本記事はB/Sの構造を理解するために、資産計上する前提で単純化しています。個別の会計処理・税務上の取扱いについて、当事務所では判断していません。税理士・公認会計士等へご確認ください。
ケーススタディ|設立・借入れ・増資・減資でB/Sはどう動くのか
ここからは、1つの会社が設立・借入れ・増資・減資と進んでいく流れを、B/SのBefore/Afterで追いかけます。
※以下のケースは、自己株式の処分を伴わない新株発行を前提として単純化しています。
ケース1|資本金100万円で会社を設立する
株主が100万円を出資したので、資産側に現金100万円、純資産側に資本金100万円。
ケース2|銀行から500万円を借りる
現金は500万円増えたが、資本金は増えていない。
銀行借入れは負債であり、株主から出資を受ける増資とはB/S上の位置付けが異なります。会社に入ってくる現金だけを見ていると、この違いが見えなくなります。
ケース3|株主から1,000万円の増資を受ける
投資家から1,000万円の払込みを受け、そのうち500万円を資本金、500万円を資本準備金とする例です。
現金は1,000万円増えたが、資本金の増加は500万円。残り500万円は資本準備金。
ポイントは、「会社に1,000万円入った=資本金が1,000万円増える」とは限らないということです。
会社法第445条は、資本金の額を原則として払込み・給付をした財産の額とし(第1項)、そのうち2分の1を超えない額は資本金として計上しないことができる(第2項)、計上しないこととした額は資本準備金として計上しなければならない(第3項)と定めています。
上の例は払込額1,000万円のちょうど2分の1にあたる500万円を資本準備金としたもので、これが資本準備金にできる上限です。「払込額の大半を資本準備金にして資本金は最低限に」といった設計は、この上限を超えることはできません。
募集株式を発行するときは、払込金額だけでなく、増加する資本金の額・資本準備金の額まで含めて決議内容を整理する必要があります。
ケース4|資本金を減らしたら現金も減る?
資本金600万円のうち500万円を減少させ、株主への払戻しを行わず、その他資本剰余金に振り替える単純化したケースです。
左側の現金は1,600万円のまま。動いたのは純資産の内訳だけで、純資産の合計(1,100万円)も変わっていない。
つまり、「資本金を500万円減らしたからといって、会社から500万円の現金がなくなるとは限らない」ということです。資本金の額の減少に伴ってその他資本剰余金が増える扱いは、会社計算規則第27条第1項第1号が定めています。
このように株主への払戻しを伴わない減資は、実務上「無償減資」と呼ばれます。ただし「無償減資」は会社法の条文上の制度名称ではなく、会社法上は「資本金の額の減少」として手続を行います。
資本金の額の減少それ自体は、株主にお金を払い戻す手続ではありません。資本金の額の減少は、純資産の内訳を変える計数の変動です。株主への財産の交付を伴う場合には、例えば剰余金の配当等の手続を別途組み合わせることになります。実務上、こうした一連の処理を「有償減資」と呼ぶことがありますが、「有償減資」も会社法上の一つの手続名称ではありません。
なお、次のような場合はB/Sの動き方が変わります。これらは第2回の記事でBefore/Afterの図を使って解説します。
- 減資とあわせて欠損の填補をする場合
- 株主への払戻しを伴う場合
- 資本準備金・その他資本剰余金を逆に資本金へ組み入れる場合
貸借対照表は会社法上どのような書類か
貸借対照表は、税務申告のためだけに作られる書類ではなく、会社法上の「計算書類」の一つとして作成が義務づけられている書類です。
会社法第435条第2項は、株式会社が各事業年度について計算書類(貸借対照表・損益計算書等)と事業報告、それぞれの附属明細書を作成することを定めています。あわせて、法人税の確定申告においても貸借対照表・損益計算書等を添付して提出します。
根拠条文
- 会社法第435条(計算書類等の作成及び保存)/第1項=成立の日のB/S、第2項=各事業年度の計算書類
- 会社法第199条(募集事項の決定)/第1項第5号=増加する資本金及び資本準備金に関する事項
- 会社法第445条(資本金の額及び準備金の額)/資本金と資本準備金への振り分け
- 会社法第447条(資本金の額の減少)
- 会社法第449条(債権者の異議)
- 会社法第911条第3項第5号/資本金の額は株式会社の登記事項
- 会社計算規則第59条(各事業年度に係る計算書類)/第2項=作成に係る期間
- 会社計算規則第73条(貸借対照表等の区分)
- 会社計算規則第74条(資産の部の区分)
- 会社計算規則第75条(負債の部の区分)
- 会社計算規則第76条(純資産の部の区分)
- 会社計算規則第27条(その他資本剰余金の額)/第1項第1号=資本金の額の減少
- 法人税法第74条(確定申告)/第3項=貸借対照表・損益計算書等の添付
登記簿と貸借対照表は別のもの
会社法務では、ここが重要です。資本金の額は株式会社の登記事項ですが(会社法第911条第3項第5号)、貸借対照表に表示される数字がすべて登記事項になるわけではありません。
資本準備金、その他資本剰余金、利益剰余金などはB/S上は重要な項目ですが、それぞれの残高そのものが登記簿に表示されるわけではありません。
したがって、「登記簿に資本金1億円と書かれていること」と「会社が現金1億円を持っていること」は、まったく別の話です。
司法書士として実際に確認しているポイント
会社設立や増資・減資のご相談で司法書士が直接確認するのは、会社法上どの手続が必要で、どの数字を登記に反映するのかという点です。
増資(募集株式の発行)のとき
- 払込総額はいくらか
- そのうち資本金としていくら計上するのか(資本準備金にできるのは払込額の2分の1まで)
- 資本準備金としていくら計上するのか
- 株主総会・取締役会等の決議内容と募集事項が一致しているか
- 発行要項、払込みを証する書面、登記申請書の記載が相互に整合しているか
募集株式を発行するときの募集事項には、増加する資本金及び資本準備金に関する事項が含まれます(会社法第199条第1項第5号)。実務でずれが出やすいのは、募集事項では「増加する資本金の額」を決めているのに、払込みの後で「やはり資本準備金を厚くしたい」という話が出てくる場面です。決議した内容と登記する数字は一致していなければならないため、払込み前の段階で振り分けを決めきることが必要になります。
減資(資本金の額の減少)のとき
- 資本金をいくら減少させるのか、減資後の資本金はいくらになるのか
- 株主への払戻しを伴うのか、純資産内部の振替にとどまるのか
- 欠損の填補を予定しているのか(決議要件に影響します)
- 債権者保護手続(会社法第449条)のスケジュールが確保できているか
- 効力発生日と変更登記の申請時期
ここで、減資における「債権者保護手続」と「債権者異議手続」という呼び方を整理しておきます。資本金の額の減少では、会社法第449条に基づく債権者異議手続が必要です。実務上、この手続は「債権者保護手続」と呼ばれることも多くあります。同条第1項は債権者が異議を述べることができる旨を定め、第2項は官報公告および知れている債権者への各別の催告等を定めています。なお、定款所定の公告方法に従い、官報に加えて日刊新聞紙または電子公告による公告をしたときは、同条第3項により各別の催告を省略することができます。
官報公告には申込みから掲載までの日数がかかり、債権者が異議を述べることができる期間も1か月以上確保する必要があるため、「今月中に減資したい」というご相談には日程上お応えできないことがあります。
また、通常の減資では、決議要件は原則として株主総会の特別決議ですが、定時株主総会で欠損の額を超えない範囲の減少を定める場合など、会社法第309条第2項第9号の括弧書きに当たるときは普通決議によることができます。どの決議要件が適用されるかを、株主総会の招集前に確認しておく必要があります。
資本金の額が変わったときは、効力発生から本店所在地で2週間以内に変更登記を申請します(会社法第915条第1項)。
その意味でも、「B/Sのどこが動くのか」と「どの数字が登記されるのか」を分けて考えることが大切です。
本記事では、会社設立や増資・減資等の会社法務を理解するための基礎知識として貸借対照表を説明しています。個別の仕訳、会計処理、法人税その他の税務上の取扱いについて、当事務所では判断していません。具体的な会計処理については税理士・公認会計士等へご確認ください。当事務所では、その確認内容を踏まえて会社法上の手続と商業登記を進めます。
よくあるご質問
- 貸借対照表とバランスシート(B/S)は同じものですか。
同じものです。「Balance Sheet」の略称として、B/S、BS、バランスシートなどと呼ばれます。
- 貸借対照表はいつの会社の状態を表しているのですか。
特定の一時点の状態を表します。決算書として作成する場合は、通常、事業年度末現在の状態です。3月31日決算の会社であれば、3月31日現在の資産・負債・純資産を表示します。
- 資本金100万円なら、会社の銀行口座に100万円残っているのですか。
必ずしもそうではありません。設立時に払い込まれた資金を賃料、仕入れ、設備購入等に使えば、現金・預金の残高は変わります。資本金は「銀行口座に残しておかなければならないお金」という意味ではありません。
- 銀行から1,000万円借りれば、資本金も1,000万円増えますか。
増えません。銀行からの借入れは原則として負債に表示され、株主から出資を受ける増資とは扱いが異なります。
- 純資産と資本金は同じですか。
同じではありません。資本金は、純資産の中にある「株主資本」を構成する一項目です。株主資本には資本金のほか、資本剰余金、利益剰余金、自己株式などがあります。また、株式引受権や新株予約権は株主資本とは別に純資産の部に表示されます。
- 増資で払い込まれた額は、全額を資本金にしなければなりませんか。
全額を資本金とすることもできますが、払込み又は給付をした額の2分の1を超えない額は資本金として計上しないことができ、計上しなかった額は資本準備金として計上します(会社法第445条第2項・第3項)。2分の1を超えて資本準備金に回すことはできません。
- 資本金を減らすと会社のお金も減りますか。
必ずしも減りません。株主への払戻しを伴わず、純資産の内部で資本金からその他資本剰余金へ振り替えるケースもあります。資本金の額の減少それ自体は計数の変動であり、株主への財産の交付を伴う場合には、例えば剰余金の配当等の手続を別途組み合わせます。
- 減資はどのくらいの期間がかかりますか。
資本金の額の減少には、会社法第449条に基づく債権者異議手続が必要です。債権者が異議を述べることができる期間は1か月以上確保する必要があります。また、官報公告は申込みから掲載までにも日数を要するため、実務上は余裕をもったスケジュールを組む必要があります。具体的な日程は、株主総会等の決議日、官報の掲載日、効力発生日等によって異なりますので、ご相談ください。
まとめ|B/Sが分かると会社設立・増資・減資が理解しやすくなる
細かな勘定科目や会計基準をすべて覚える必要はありません。「会社は何を持っているか」「その元手はどこから来たか」という2つの視点だけで、会社法務の話はかなり見通しがよくなります。
- 銀行から借りた → 資産と負債が増える
- 株主から出資を受けた → 資産と純資産が増える
- 現金で別の資産を買った → 資産の中身が入れ替わるだけ
- 資本金を減らした → 純資産の内訳が変わるだけで、現金が減るとは限らない
次に理解したいのが「純資産の部の中身」です。第2回の記事では、資本金・資本準備金・その他資本剰余金・利益準備金・その他利益剰余金の関係を整理したうえで、増資、利益の計上、無償減資、欠損の填補、準備金・剰余金の資本組入れによってB/Sがどう変わるのかを、Before/Afterの図で解説します。
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本記事について
本記事は、2026年8月時点の法令および公表資料等をもとに作成しています。法令や実務の取扱いは変更されることがあります。具体的な手続にあたっては最新の情報をご確認のうえ、会社法上の手続と登記については司法書士、税務については税理士、会計については公認会計士等へご相談ください。



