貸借対照表の「純資産の部」とは?資本金・資本剰余金・利益剰余金の違い

結論
貸借対照表の「純資産の部」とは、会社の資産から負債を差し引いた部分を、資本金・資本剰余金・利益剰余金などに分けて表示する部分です。資本金は、その中の一項目にすぎません。
特に押さえたいのは、資本剰余金=資本準備金+その他資本剰余金、利益剰余金=利益準備金+その他利益剰余金という関係です。また、新株予約権は純資産の部に表示されますが、株主資本には含まれません。
増資・減資・欠損填補・資本組入れでは、純資産の総額そのものが増減する場合と、総額を変えずに純資産の中の項目だけが動く場合があります。
そのため、「資本金が増えた・減った=会社のお金が同じだけ増えた・減った」とは限りません。 本記事では、貸借対照表全体のBefore/Afterを見ながら、純資産の部がどのように動くのかを解説します。
「純資産の部」とは?まず全体の位置関係を理解しよう
一般的な左右対照式の貸借対照表では、純資産の部は右下に位置し、株式会社では株主資本、評価・換算差額等、株式引受権、新株予約権に区分されます。
貸借対照表(B/S)は「資産=負債+純資産」という関係で成り立っています。貸借対照表そのものの読み方は貸借対照表(B/S)とは?会社設立・増資・減資を理解するための基礎知識で解説しました。本記事では、そのうち右下の「純資産の部」を拡大して見ていきます。
- 純資産の部
- 株主資本
- 資本金
- 資本剰余金
- 資本準備金
- その他資本剰余金
- 利益剰余金
- 利益準備金
- その他利益剰余金
- 自己株式
- 評価・換算差額等
- 株式引受権
- 新株予約権
- 株主資本
※この図は、本記事で扱う項目を中心に示しています。会社計算規則第76条第2項は、株主資本の区分としてこのほかに新株式申込証拠金・自己株式申込証拠金も掲げています。
会社計算規則第76条第1項第1号は、株式会社の貸借対照表の純資産の部を、株主資本・評価・換算差額等・株式引受権・新株予約権に区分すると定めています。さらに同条第2項は、株主資本を資本金、新株式申込証拠金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式、自己株式申込証拠金に区分し、このうち自己株式は控除項目とすると定めています。資本剰余金は「資本準備金」と「その他資本剰余金」に(同条第4項)、利益剰余金は「利益準備金」と「その他利益剰余金」に(同条第5項)区分されます。
| 用語 | この記事での押さえ方 |
|---|---|
| 資本金 | 会社法上「資本金」として計上される金額。株式会社では登記事項です。 |
| 資本剰余金 | 資本準備金とその他資本剰余金をまとめた区分です。 |
| 利益剰余金 | 利益準備金とその他利益剰余金をまとめた区分です。 |
| 自己株式 | 株主資本の区分の一つですが、株主資本から控除する項目です。 |
| 新株予約権 | 純資産の部に表示されますが、株主資本とは別の項目です。 |
根拠条文
資本金とは?会社に入ったお金のすべてが資本金になるとは限らない
資本金とは、会社法上「資本金」として計上される金額であり、株式発行時に払い込まれた額のすべてが必ず資本金になるわけではありません。
会社法第445条は、株式会社の設立や株式発行に際して払い込まれた財産について、原則として資本金としつつ、払込み・給付に係る額の2分の1を超えない額については、資本金として計上しないことを認めています。資本金として計上しなかった額は、資本準備金として計上します。
したがって、「会社に1億円入った=資本金が1億円増える」ではありません。 また、資本金は登記事項ですが、現在会社が保有している現金残高そのものを示す数字でもありません。
募集株式による増資の会社法上の手続や登記については、当事務所の資金調達・資本政策の業務案内でもご案内しています。
資本剰余金とは?資本準備金・その他資本剰余金との違い
資本剰余金は一つの項目ではなく、「資本準備金」と「その他資本剰余金」をまとめた区分です。
- 資本剰余金
- 資本準備金
- その他資本剰余金
資本準備金とは?
代表例は、株式発行時の払込額のうち資本金に計上しなかった部分です。先ほどの「1億円の払込みのうち、5,000万円を資本金、5,000万円を資本準備金とする」というケースが分かりやすい例です。
その他資本剰余金とは?
その他資本剰余金は、資本準備金以外の資本剰余金です。会社計算規則第27条第1項は、会社法第447条により資本金の額を減少した場合や、同法第448条により資本準備金の額を減少した場合に、原則としてその減少額がその他資本剰余金へ移る仕組みを定めています。ただし、減資に際して減少額の一部を準備金とする場合や、資本準備金の減少額の一部を資本金へ組み入れる場合には、その額を除いた部分がその他資本剰余金となります。
その他資本剰余金 2億円
LSOでは、資本金・資本準備金の額の減少、欠損填補、剰余金の資本金への組入れ等についても、商業登記に関連する会社法上の手続と登記を取り扱っています。
利益剰余金とは?「準備金」と新株予約権の位置関係も整理
利益剰余金は、資本剰余金とは区別される株主資本の区分で、「利益準備金」と「その他利益剰余金」に分かれます。
- 利益剰余金
- 利益準備金
- その他利益剰余金
- 繰越利益剰余金など
利益剰余金には、会社の事業活動による利益等の蓄積が反映されます。会社計算規則第29条第1項第2号は、当期純利益金額が生じた場合にその他利益剰余金の額が増加すると定めており、利益が増えたからといって資本金が自動的に増えるわけではありません。反対に、損失が積み重なれば、繰越利益剰余金がマイナスになることもあります。
「準備金」という言葉は別の切り口
会計上の「資本剰余金」という分類では「資本準備金+その他資本剰余金」ですが、会社法上の「準備金」は、資本準備金と利益準備金を指します。そのため、資本準備金は「資本剰余金の一部」であると同時に、「会社法上の準備金の一つ」でもあります。
新株予約権は純資産だが、株主資本ではない
新株予約権は、株式会社の貸借対照表では純資産の部に表示されますが、株主資本とは別の項目です。ストックオプションとして新株予約権を利用する場合の会社法上の発行手続については、ストックオプション(新株予約権)発行手続をご覧ください。
株式引受権について
会社計算規則第76条では、株式引受権も純資産の部の区分として定められています。本記事は資本金・資本剰余金・利益剰余金を中心に解説するため、株式引受権の詳細には立ち入りません。
ケーススタディ|B/S全体で見ると純資産の部はこう動く
増資・利益計上・減資・欠損填補・資本組入れは、純資産だけを切り取るより、B/S全体の中で「資産・負債が動いたのか、純資産の内訳だけが動いたのか」を見ると理解しやすくなります。
赤枠部分が「純資産の部」です。以下は仕組みを理解するために単純化した例です。
税務・会計上の取扱いについて
本記事では、会社法上の手続や商業登記を理解するため、貸借対照表の表示や会計上の用語にも触れています。当事務所は司法書士事務所であり、個別具体的な仕訳・会計処理、税額計算、課税関係、税務上の有利・不利その他の税務判断は行っていません。具体的な会計処理については税理士・公認会計士等へ、個別具体的な税務上の取扱いについては税理士または所轄税務署等へご確認ください。
ケース1|1億円の払込みを伴う増資を受ける
投資家から1億円の払込みを受け、5,000万円を資本金、5,000万円を資本準備金として計上する例です。
BEFORE
資産
負債
純資産
AFTER
資産
負債
純資産
種類株式による増資では、通常の株主総会のほかに種類株主総会が必要となる場合があります。詳しくは種類株主総会とは?必要となる場面・決議要件・手続もご覧ください。
ケース2|会社に2,000万円の利益が残る
説明を単純化するため、当期純利益2,000万円が生じ、他の純資産の変動はなく、この例では利益と同額の現金等が増加したものと仮定します。 利益が生じたことと現金が同額増えることは、一般には同義ではありません。
BEFORE
資産
負債
純資産
AFTER
資産
負債
純資産
ケース3|2億円の無償減資をする
資本金3億円の会社が、そのうち2億円を減少させ、株主への払戻しを伴わず、その他資本剰余金とする例です。
BEFORE
資産
負債
純資産
AFTER
資産
負債
純資産
このように株主への払戻しを伴わない減資は、実務上「無償減資」と呼ばれることがあります。ただし、これは会社法第447条の条文上の制度名称ではありません。
ケース4|減資とあわせて欠損填補をする
以下は、年度決算時に繰越利益剰余金がマイナス2億円となっている場合を単純化した例です。 資本金3億円、純資産合計1億円の会社を想定します。資本金を減少させただけで欠損が自動的に消えるわけではありません。
以下では、数字の動きを理解しやすくするため、処理を2段階に分けて表示しています。実務では、資本金の額の減少と欠損の填補を同一の株主総会で決議することも多く、必ず時間的に二段階で行うという意味ではありません。
STEP 0|処理前
資産
負債
純資産
STEP 1|資本金を2億円減少
資産
負債
純資産
STEP 2|欠損填補(損失処理)
資産
負債
純資産
会社法第452条は、株主総会の決議により、剰余金の処分として損失の処理等を行うことを認めています。会社計算規則第153条は、その決議において、増加する剰余金の項目、減少する剰余金の項目および処分する各剰余金の項目に係る額を定めることとしています。
資本剰余金と利益剰余金は、原則として区別して扱います。
企業会計基準第1号は、資本剰余金から利益剰余金への振替を原則として認めない一方、年度決算時に利益剰余金が負の残高となっている場合に、その他資本剰余金で補填することは例外として認められると整理しています。期中に生じた利益剰余金のマイナスを、その都度その他資本剰余金で補填できるという意味ではありません。具体的な会計処理については、税理士・公認会計士等へご確認ください。
ケース5|その他資本剰余金を資本金へ組み入れる
BEFORE
資産
負債
純資産
AFTER
資産
負債
純資産
剰余金を減少して資本金を増加させる場合は、会社法第450条が基本となります。
会社法第450条の「剰余金」は、その他資本剰余金だけに限られません。
会社計算規則第29条第2項第1号は、同法第450条によりその他利益剰余金を減少させる場合も定めています。本ケースでは、資本剰余金の動きを理解するため「その他資本剰余金→資本金」を例にしています。
ケース6|資本準備金を資本金へ組み入れる
BEFORE
資産
負債
純資産
AFTER
資産
負債
純資産
準備金を減少し、その減少額の全部または一部を資本金とする場合は、会社法第448条第1項第2号に基づいて整理します。会社計算規則第25条第1項は、募集株式の発行等や組織再編について定める同規則の規定によるほか、この場合(会社法第448条第1項第2号)と会社法第450条による場合に、資本金の額が増加すると定めています。
ケース5・ケース6は、いずれも「資本金の額の増加」です。
払込みを伴う増資と異なり、会社の財産そのものは増えていませんが、資本金の額が増える以上、資本金の額の変更登記が必要になります。
ケース7|株主への払戻しを伴う「有償減資」と呼ばれるケース
実務では「有償減資」という言葉も使われますが、会社法上は「資本金の額の減少」と「株主への財産交付」を分けて考えることが重要です。
→1億円へ減少
株主への財産交付を検討
会社の資産が減少
「有償減資」は、会社法上の一つの手続名称ではありません。 会社法は資本金の額の減少を第447条以下、剰余金の配当を第453条以下で別に規定しています。
実際に株主へ財産を交付する場合には、会社法第461条の分配可能額規制や、場合によっては準備金の計上その他のルールも関係するため、ここでは具体的な払戻額を置いたB/S図にはしていません。また、個別具体的な税務上の取扱いは、税理士または所轄税務署等へご確認ください。
司法書士として実際に確認しているポイント|B/Sと登記を分けて考える
純資産の数字が動いたからといって、そのすべてが商業登記に反映されるわけではないため、B/S上の動き・会社法上の手続・登記事項を分けて確認します。
例えば、株式会社の資本金の額は登記事項ですが、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金、その他利益剰余金の残高そのものは、資本金のように登記簿へ表示されるものではありません。
どの項目へ動くか
必要か
登記するか
減資であれば、減少する資本金の額、効力発生日、減少額をどのように処理する予定か、欠損填補を伴うか、株主への払戻しを予定しているか、会社法第449条の債権者異議手続との関係、減資後の資本金額などを、具体的な計画に応じて確認します。
増資・減資・資本金等の変更については、資金調達・資本政策の業務案内、費用の目安については商業登記・企業法務の料金表をご覧ください。
会計・税務との役割分担
具体的な会計処理については税理士・公認会計士等へ、個別具体的な税務上の取扱いについては税理士または所轄税務署等へご確認ください。当事務所では、その確認内容を踏まえ、商業登記に関連する会社法上の手続および登記を進めます。
「資本金等の額」は、登記上の資本金とは別の概念です
税法には「資本金等の額」という用語がありますが、これは登記簿に記載される「資本金の額」と同一の概念ではありません。税務上の具体的な計算や制度の適用可否については当事務所では判断せず、税理士または所轄税務署等へご確認ください。
よくあるご質問
- 資本準備金と資本剰余金は同じですか。
-
同じではありません。資本剰余金という大きな区分の中に、「資本準備金」と「その他資本剰余金」があります。
- その他資本剰余金とは何ですか。
-
資本準備金以外の資本剰余金です。代表例として、資本金や資本準備金の額を減少させたことによって生じる剰余金があります。
- 資本剰余金と利益剰余金は何が違うのですか。
-
資本剰余金と利益剰余金は、株主資本の中で別の区分です。会計上は両者を区別することが重要で、資本剰余金から利益剰余金への振替は原則として認められていません。ただし、年度決算時に利益剰余金が負の残高である場合のその他資本剰余金による補填など、例外的な取扱いがあります。
- 「準備金」とは資本準備金だけを指しますか。
-
いいえ。会社法上の「準備金」は、資本準備金と利益準備金を指します。
- 自己株式は純資産の部にどのように表示されますか。
-
自己株式は株主資本の区分の一つとして表示されますが、会社計算規則第76条第2項により控除項目とされています。自己株式は取得原価をもって株主資本から控除して表示されるため、有償で自己株式を取得した場合には、通常、その取得原価に相当する額だけ純資産が減少します。
- 無償減資をすると会社の現金も減りますか。
-
必ずしも減りません。資本金を減少し、その他資本剰余金へ振り替えるだけであれば、純資産の内部構成は変わりますが、その処理自体によって会社の現金が外へ出ていくわけではありません。
- 減資をすれば赤字が自動的になくなるのですか。
-
いいえ。資本金を減少させただけで、マイナスの利益剰余金が自動的に0になるわけではありません。欠損填補を行う場合は、減資と損失処理を分けて整理する必要があります。
- 新株予約権は資本金に含まれますか。
-
含まれません。新株予約権は純資産の部には表示されますが、株主資本とは別の項目です。
- 減資すると税金が安くなりますか。
-
当事務所では、個別具体的な税務上の有利・不利や適用可否について判断していません。具体的な税務上の取扱いについては、税理士または所轄税務署等へご確認ください。
まとめ|純資産の部は「どの箱にあるか」「どの箱へ動くか」で理解する
純資産の部は、用語を個別に暗記するより、親子関係と数字の動きをセットで見ると理解しやすくなります。
- 資本剰余金は「資本準備金+その他資本剰余金」
- 利益剰余金は「利益準備金+その他利益剰余金」
- 自己株式は株主資本の区分の一つだが、控除項目として表示される
- 新株予約権は純資産の部に表示されるが、株主資本ではない
- 払込みを伴う新株発行による増資では、資産と純資産が増えるが、払込額すべてが資本金になるとは限らない
- 資本金の額が増える場面は、払込みを伴う増資だけではなく、準備金や剰余金の資本組入れ(会社法第448条第1項第2号・第450条)もある
- 無償減資では、資産や純資産合計を変えずに純資産の内訳だけが変わる場合がある
- 欠損填補や資本組入れでは、会社法・会計・登記のそれぞれを分けて確認する
↓
資本金・資本準備金
↓
その他資本剰余金
↓
資本金
ここまで理解すると、次に問題となるのが「では、資本金はいくらにするのがよいのか」という実践的な判断です。次の記事では、1,000万円・5,000万円・1億円・3億円などの金額によって、会社法上の制度や税制等の基準がどのように関係するのかを整理します。
関連するご案内
料金・お問い合わせ
主な根拠法令・参考資料
会社法(第445条、第447条~第452条、第453条以下、第461条)
会社計算規則(第25条~第29条、第76条、第153条ほか)
企業会計基準委員会「企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(資本剰余金と利益剰余金の混同の禁止、年度決算時の欠損填補等)
本記事について
本記事は、2026年8月時点の法令および公表資料等をもとに、会社法上の手続・商業登記を理解するための一般的な情報として作成しています。法令、会計基準および実務上の取扱いは変更されることがあります。具体的な手続にあたっては最新の情報をご確認ください。
当事務所は司法書士事務所であり、個別具体的な仕訳・会計処理、税額計算、課税関係、税務上の有利・不利その他の税務判断は行っていません。会社法上の手続と登記については司法書士、具体的な会計処理については税理士・公認会計士等、個別具体的な税務上の取扱いについては税理士または所轄税務署等へご相談・ご確認ください。
来所不要・全国対応。マイナンバーカードを利用したオンライン登記に対応しています
対応するスマートフォンとマイナンバーカードがあれば、委任状等への電子署名をオンラインで行っていただけます。登記申請は当事務所が行います。電子署名サービス「サインルーム(旧RSS-SR)」と専用アプリ「RSSモバイル」を利用します。案件によっては、書類の郵送等をお願いする場合があります(専用アプリ「RSSモバイル」のダウンロードはこちら)。初回相談無料です。
商業登記・企業法務 料金表を見る


