ストックオプション・プールとは?募集事項を都度の株主総会決議なしで決められる特例

結論
ストックオプション・プールとは、ストックオプションを出せる枠と条件の大枠を株主総会で先に決めておき、その範囲内で、行使価額・行使期間や割当日などの発行の条件(募集事項)を、取締役会(取締役会を置かない会社では取締役)が決められるようにする仕組みです。
2024年9月2日に施行された産業競争力強化法21条の19による会社法の特例です。通常の会社法239条による委任と比べて、①行使価額(またはその算定方法)と行使期間まで委任できる、②委任に「決議から1年以内の割当て」という制限がない、の2点が違います。
使えるのは、設立15年未満で省令の要件を満たし、経済産業大臣と法務大臣の確認を受けた株式会社です。最初の委任には株主総会の特別決議が必要です。また、取締役会を置かない会社では、割当ての決定などに別途株主総会の決議が必要となる場合があります。
なお、VCなどの投資家との契約で決める「ストックオプションの発行枠」も、同じくストックオプション・プール(オプションプール)と呼ばれます。こちらは投資契約・株主間契約等による取決めで、それだけでは会社法上必要となる株主総会等の決議を省略する効果はありませんので注意が必要です。
ストックオプション・プールとは何か
ストックオプション・プールは、経済産業省が「募集新株予約権の機動的な発行(ストックオプション・プール)に関する制度」と呼んでいる、会社法の特例です。
ストックオプションは、会社法上は「新株予約権」(行使すると会社から株式の交付を受けられる権利)として発行します。非公開会社(すべての株式に譲渡制限がある会社)では、新株予約権を発行するたびに株主総会の特別決議が必要なのが原則です。スタートアップが採用のたびに付与しようとすると、手続が採用のスピードに追いつかないという問題がありました。
経済産業省「スタートアップの成長に向けたインセンティブ報酬ガイダンス」(2025年2月)は、第1章「ストックオプションに関する最近の制度改正等」でこの特例を紹介し、行使価額・行使期間を含む募集事項の決定を委任しておけば、その決定のために発行のたびに株主総会決議を行う必要がなくなり、取締役会による機動的な発行が可能になると説明しています。
VCとの契約で決める「発行枠」も同じ名前で呼ばれる
「ストックオプション・プール」「オプションプール」という言葉は、実務ではもう一つの意味でも使われます。ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家との投資契約や株主間契約で、ストックオプションをどの程度まで発行できるか、投資家の事前承諾をどの範囲で必要とするかなどを定めておくものです。たとえば「発行済株式総数の◯%までは投資家の事前承諾なしに発行できる」と定めたり、投資家の持分の希薄化を防ぐ条項が働く範囲をその割合を超える発行に限ったりするなど、設計は契約ごとに様々です。経済産業省のガイダンスも、第3章「論点1」でこの発行枠を「オプションプール」と呼び、上場時におおよそ10%が通例と言われてきたと紹介しています。もっとも、10%は法律上の上限ではありません。同ガイダンスは、近年は15~20%を発行割合とするケースも増えており、人材獲得戦略などを踏まえて検討すべきだとしています。
名前は同じでも、この2つは根拠も効果も違います。違いを整理すると、次の表のとおりです。
| 項目 | 法律上の制度(本記事の主題) | 契約上の発行枠 |
|---|---|---|
| 根拠 | 産業競争力強化法21条の19 | 投資契約・株主間契約 |
| 決め方 | 経済産業大臣・法務大臣の確認を受け、株主総会の特別決議で取締役会に委任する | 投資契約・株主間契約等による合意 |
| 会社法の手続への効果 | 行使価額・行使期間まで取締役会に委任でき、委任に1年の期限がかからない | なし(会社法上の決議は通常どおり必要) |
| 非公開会社で、募集事項の決定に発行のたびの株主総会の決議が要るか | 委任の範囲内なら不要(特に有利な条件・金額で発行する場合を除く) | 必要(または1年以内の割当てに限った委任) |
VCと発行枠を合意しただけでは、会社法の手続は何も変わりません。「枠の範囲内だから取締役会だけで発行できる」わけではなく、非公開会社では発行のたびに株主総会の特別決議(または決議から1年以内の割当てに限った委任)が必要です。契約上の発行枠は、会社法上必要となる株主総会等の決議を、それ自体で不要にするものではありません。
とはいえ、2つはまったく無関係というわけではありません。法律上の制度を使うには、ストックオプションをどのような条件で発行するかについて、株主と書面などで合意しておく必要があるからです。しかも、合意した株主の議決権を合計すると、全体の3分の2以上になっていなければなりません(詳しくは「ストックオプション・プールを使える会社の要件」の章で説明します)。
そのため、VCとの契約に発行枠の定めがあるときは、まずその定めでこの要件を満たせるかを確認することになります。ただし、発行枠が書いてあるだけで、そのまま要件を満たすとは限りません。
以下、本記事で「ストックオプション・プール」というときは、法律上の制度のことを指します。また、本記事で「取締役会」と書いている箇所は、取締役会を置かない会社では「取締役」と読み替えてください。
通常の会社法の手続では何が足りなかったのか
通常の会社法でも、株主総会から取締役会へ募集事項の決定を任せることはできますが、行使価額・行使期間は株主総会で決めなければならず、任せられる期間も1年に限られます。
非公開会社では、新株予約権の募集事項(発行の条件)は株主総会の特別決議で決めるのが原則です(会社法238条2項、309条2項6号)。その例外として、株主総会の決議で決定を取締役会に委任できると定めているのが、次の会社法239条です。
会社法239条1項・3項(募集事項の決定の委任)
前条第二項及び第四項の規定にかかわらず、株主総会においては、その決議によって、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することができる。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 その委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集新株予約権の内容及び数の上限
二 前号の募集新株予約権につき金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
三 前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額の下限
3 第一項の決議は、割当日が当該決議の日から一年以内の日である前条第一項の募集についてのみその効力を有する。
出典:会社法239条|e-Gov法令検索(2項・4項は省略)
1号の「募集新株予約権の内容」には、行使価額と行使期間が含まれます。新株予約権の内容を定めた会社法236条1項が、次のとおり掲げているためです。
会社法236条1項2号・4号(新株予約権の内容)
二 当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
四 当該新株予約権を行使することができる期間
出典:会社法236条|e-Gov法令検索(柱書と他の号は省略)
つまり通常の手続では、行使価額(2号)と行使期間(4号)は株主総会で決めておく必要があり、委任の効力も決議から1年以内に割り当てるものに限られます。採用のたびに付与しようとすると、そのつど株主総会を開くか、1年ごとに委任をやり直す必要がありました。
特例で何が変わるのか(産業競争力強化法21条の19)
特例の中身は、確認を受けた会社について、会社法239条1項の「内容」から行使価額と行使期間を外し、1年の期限を定めた同条3項を適用しないことです。
根拠は、産業競争力強化法21条の19第1項です。長い条文ですが、定めているのは、①対象となる会社(設立15年未満で、省令の要件に当たることについて経済産業大臣・法務大臣の確認を受けた株式会社)、②会社法239条1項1号の「内容」から行使価額(236条1項2号)と行使期間(同項4号)を外すこと、③委任の1年期限(239条3項)と、特に有利な条件・金額の場合の説明の規定(同条2項)を適用しないこと、の3点です。③の特に有利な場合については、代わりに21条の19第4項の規律が置かれています(本記事の「特に有利な条件・金額で発行するときは、特例の主な2つのメリットが使えない」の章で説明します)。条文は次のとおりです。
産業競争力強化法21条の19第1項(募集新株予約権の機動的な発行)
設立の日以後の期間が十五年未満の株式会社(次項及び第三項において単に「株式会社」という。)について、募集新株予約権(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権をいう。以下この条、第八十三条第一項及び第百六十条第一号において同じ。)の発行に関し、株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合として経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、経済産業省令・法務省令で定めるところにより、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合には、同法第二百三十九条第一項及び第四項の規定の適用については、同条第一項第一号中「募集新株予約権の内容」とあるのは「募集新株予約権の内容(第二百三十六条第一項第二号及び第四号に掲げる事項を除く。)」と、同条第四項中「種類株式発行会社」とあるのは「種類株式を発行している産業競争力強化法(平成二十五年法律第九十八号)第二十一条の十九第一項の確認を受けた株式会社」とする。この場合において、同条第二項及び第三項の規定は、適用しない。
平易に言うと、確認を受けた会社では、株主総会で行使価額と行使期間を決めずに取締役会へ委任でき、委任の効力に1年の期限がかからない、ということです。
通常の手続と特例で、株主総会で決めることと取締役会に任せられることを比べると、次の表のとおりです。
| 項目 | 通常(会社法239条) | 特例(産業競争力強化法21条の19) |
|---|---|---|
| ストックオプションの内容(行使価額・行使期間を除く) | 株主総会 | 株主総会 |
| 数の上限 | 株主総会 | 株主総会 |
| 無償とする旨、または払込金額の下限 | 株主総会 | 株主総会 |
| 行使価額 | 株主総会 | 取締役会に任せられる |
| 行使期間 | 株主総会 | 取締役会に任せられる |
| 具体的な発行数・払込金額・割当日など | 取締役会に任せられる | 取締役会に任せられる |
| 委任の効力が及ぶ範囲 | 決議から1年以内の日を割当日とするものだけ | 「決議から1年以内の割当て」という制限(会社法239条3項)は適用されない。ただし、この特例による発行の割当日は、会社の設立から15年未満の日である必要がある |
表の「取締役会」は、取締役会を置かない会社では取締役です。「設立15年未満」は会社の設立日から数えます。経済産業省のよくあるご質問では、両大臣の確認自体に有効期間はない一方、この特例による発行の割当日には設立から15年未満である必要があり、15年以上になると特例による発行はできないとされています。たとえば設立10年目の会社が委任した場合、特例で発行できるのは設立15年に達するまでの残り約5年間です。
また、同じよくあるご質問では、省令等の要件を満たしていることが特例による発行の要件になると解されるとしています。確認に有効期間はなくても、実際に発行する時点で要件を満たしている必要があるため、確認を受けた後も、発行のたびに割当先や株主との合意などの要件に変更がないかを確認します。
株主総会で決める事項は、表のとおり特例でも残ります。取締役会が決められるのは、あくまで株主総会が決めた数の上限・内容の範囲内です。
取締役に報酬として付与する場合は、報酬についての株主総会の決議も必要です。以下、取締役の報酬に関する説明は、指名委員会等設置会社を除く一般的な株式会社を前提とします。取締役の報酬としてストックオプション(募集新株予約権)を付与するときは、定款に定めがない限り、株主総会の決議で数の上限などを定めなければなりません(会社法361条1項4号)。産業競争力強化法21条の19が読み替えているのは会社法239条だけなので、この報酬の決議は特例を使っても不要になりません。経済産業省のガイダンスも、第4章で、発行時の手続の最初に役員への付与の場合の報酬決議を挙げています(報酬とみなされない有償のストックオプションの場合は不要、と整理しています)。
具体例:設立から4年が経過した会社の場合
設立から4年が経過した非公開会社が、今後の採用に備えて、新株予約権1,000個を上限に取締役会へ募集事項の決定を任せる場合を例にすると、次のようになります(説明のための仮の例です)。
通常の手続(会社法239条)
行使価額・行使期間を株主総会で決めておく必要があり、委任の効力は決議から1年以内の日を割当日とするものに限られます。1年を過ぎて発行するには、上限の1,000個に達していなくても、改めて株主総会の特別決議が必要です。
特例(産業競争力強化法21条の19)
確認を受けて委任すれば、上限の1,000個に達するまで、かつ割当日が設立15年未満である間(この例では残り約11年)、取締役会が採用のタイミングごとに、行使価額・行使期間を含めて募集事項を決められます。ただし、発行のたびに、割当日の2週間前までの株主への通知と、割当日から2週間以内の登記は必要です。取締役に報酬として付与する場合は、上の報酬の決議も別に必要です。
公開会社は、もともと取締役会で決められる
公開会社(譲渡制限のない株式を発行できる会社)は、特に有利な条件・金額で発行する場合を除き、もともと取締役会の決議で募集事項を決めます(会社法240条1項)。この特例が主に効果を持つのは、募集事項の決定が原則として株主総会の決議事項となる非公開会社です。
ストックオプション・プールを使える会社の要件
対象は、設立15年未満の株式会社のうち、省令が定める4つの要件をすべて満たし、経済産業大臣と法務大臣の確認を受けた会社です。
省令(産業競争力強化法に基づく募集新株予約権の機動的な発行に関する省令)1条が定める要件を、条文の順に整理すると次のとおりです。以下は条文を読みやすく言い換えた要約です。正確な要件は省令の本文(経済産業省)をご確認ください。
| 要件 | 内容(要約) |
|---|---|
| 前提 | 設立の日以後の期間が15年未満の株式会社であること(産業競争力強化法21条の19第1項) |
| ① 出口・投資家に関する要件(1号) | 次のイ〜ハのいずれかに当たること イ 株主との間(または株主の間)に、上場、合併の消滅会社・会社分割の分割会社・株式交換や株式移転の完全子会社・株式交付子会社のいずれかになることや事業の全部または一部の譲渡、第三者による議決権の過半数の取得のいずれかについて、書面または電子データによる合意があること。合意している株主の議決権の合計が総株主の議決権の3分の2以上である場合に限ります ロ 会社の株式または新株予約権が、投資事業有限責任組合(VCファンドで多く使われる組合形態)の事業として保有されていること ハ 残余財産の分配または取得条項について定めた種類株式(会社法108条1項2号・6号)を現に発行していること |
| ② 割当先(2号) | 委任に基づいて取締役会が募集事項を決めるストックオプションを、会社・子会社の会社役員、会社・子会社の使用人(従業員)、会社に役務を提供する者のいずれかに割り当てることとしていること |
| ③ 発行条件についての株主との合意(3号) | ストックオプションを発行する条件などの取扱いについて、株主との間(または株主の間)に書面または電子データによる合意があること。合意している株主の議決権の合計が総株主の議決権の3分の2以上である場合に限ります |
| ④ 株主総会での説明(4号) | 委任をしようとするときは、その株主総会で取締役が委任する旨を説明することとしていること |
①は、上場・M&A等についての一定の株主との合意、投資事業有限責任組合の事業として会社の株式または新株予約権が保有されていること、残余財産の分配または取得条項について定めた種類株式を発行していることの、いずれかに当たるかを見る要件です。③は、既存株主がストックオプションの発行ルールに合意しているかを見る要件です。当事務所では、投資契約や株主間契約にストックオプションの発行枠や条件の定めがあるかの確認から始めています。
②のとおり、割当先には「会社に役務を提供する者」も含まれ、社外の協力者に割り当てることも想定されています。経済産業省のガイダンスは第4章で、役職員以外の人に新株予約権を発行する場合は、金融商品取引法上の有価証券届出書等の届出が必要になる可能性があり(社外協力者等を含む取得勧誘の人数が合計50名以上の場合など)、事前に専門家や財務局等へ確認することを勧めています。金融商品取引法上の届出の要否は、当事務所では判断していません。弁護士や財務局へご確認ください。
この特例の「設立15年未満」は、税制適格ストックオプションの権利行使期間に関する「付与決議の日後15年」(設立5年未満の非上場会社の場合)とは別の制度の数字です。税制適格の要件を満たすかどうかは、当事務所では判断していません。税理士へご相談ください。
特に有利な条件・金額で発行するときは、特例の主な2つのメリットが使えない
無償にすることや払込金額が、引き受ける人に特に有利な条件・金額に当たるときは、特例を使っていても、行使価額・行使期間などを株主総会の特別決議で決めなければなりません。
ここでいう「払込金額」は、新株予約権そのものを取得するための対価です。ストックオプションを行使して株式を取得するときに払い込む「行使価額」とは別のものです。
これを定めているのが、同じ21条の19の第4項です。
産業競争力強化法21条の19第4項
読替え後の会社法第二百三十九条第一項の決議による委任に基づき、取締役がその募集事項を決定しようとする募集新株予約権について、同項第二号に規定する場合に金銭の払込みを要しないこととすること又は同項第三号に規定する場合の払込金額(会社法第二百三十八条第一項第三号に規定する払込金額をいう。)が、当該募集新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件又は金額であるときは、会社法第三百九条第二項の規定による株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。この場合において、取締役は、当該株主総会において、当該条件又は金額で当該募集新株予約権を引き受ける者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。
一 当該募集新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
二 当該募集新株予約権を行使することができる期間
三 当該募集新株予約権の数の上限
四 当該募集新株予約権の割当日を当該決議の日から一年以内とする旨
出典:産業競争力強化法|e-Gov法令検索。種類株主総会の決議がある場合の読替えは同条5項
1号・2号・4号は、特例で外したはずの行使価額・行使期間と、1年の期限そのものです。つまり、特に有利な条件・金額に当たる発行では、特例の2つのメリットがどちらも使えなくなります。
自社の発行条件がこれに当たるかどうかは、条件ごとの個別の検討になります。特例の利用を決める前に、発行を予定しているストックオプションの条件をこの観点から整理しておくことが大切です。なお、条文上この規律は、特に有利な条件・金額に当たる発行ごとに適用されるものです。確認そのものが失われるわけではなく、その他の省令等の要件を満たしている限り、特に有利な条件・金額に当たらない発行については、引き続き特例による委任の範囲内で取締役(取締役会設置会社では取締役会)が募集事項を決められます。
確認申請から発行・登記までの流れ
大臣の確認を受けてから、株主総会で委任し、その後は取締役会が発行のたびに募集事項を決めて、株主への通知と登記を行います。
全体の流れを順に示すと、次のとおりです。
-
要件の確認と事前相談
省令1条の要件を満たすか、投資契約・株主間契約の定めから確認します。経済産業省の制度案内ページでは、まず事前相談を行うよう案内されています。
-
確認申請と確認書の交付
申請書(様式第一)に、登記事項証明書と、省令1条1号・3号の要件に当たることを証する書類を添付して申請します。法務大臣への提出は経済産業大臣を経由します。確認をするときは、申請を受けた日から原則1か月以内に確認書が交付されます(省令2条7項)。経済産業省の制度案内ページでは、事前相談から正式申請が可能になるまでに少なくとも1か月は必要で、相談が多い時期はさらに時間がかかることがあると案内されています。
-
株主総会の特別決議で委任する
ストックオプションの内容(行使価額・行使期間を除く)、数の上限、無償とする旨または払込金額の下限を定めて、取締役会に委任します(読替え後の会社法239条1項、309条2項6号)。取締役は、この株主総会で委任する旨を説明します(省令1条4号)。種類株式を発行している会社で、ストックオプションの目的となる株式の種類が譲渡制限株式であるときは、定款に別段の定めがある場合などを除き、その種類の株主による種類株主総会の決議も必要です(読替え後の会社法239条4項)。取締役に報酬として付与する予定があるときは、定款に定めがない限り、報酬についての株主総会の決議(会社法361条1項4号)も必要です。委任の決議と同じ株主総会で決議することもできます。
-
委任の決議があったことの通知・公表
その後に株主となろうとする者と新株予約権者となろうとする者に、委任の決議があった旨を、会社がその人を知った後速やかに通知します。インターネットで誰でも見られる状態に置く方法で代えることもできます(産業競争力強化法21条の19第2項、省令3条〜5条)。
-
取締役会で募集事項を決める
株主総会が決めた範囲の中で、行使価額・行使期間を含む募集事項を、発行のたびに取締役会(取締役会を置かない会社では取締役)が決めます。
-
割当日の2週間前までに株主へ通知する
取締役(取締役会設置会社では取締役会)が募集事項を決めたときは、割当日の2週間前までに、株主にその募集事項を通知しなければなりません(産業競争力強化法21条の19第3項)。これは、通常の会社法239条による募集事項の決定の委任にはない、この特例独自の株主保護の手続です。
-
割当て・新株予約権原簿への記載
申込みと割当てを行うか、総数引受契約を結びます。ストックオプションの目的である株式が譲渡制限株式である場合(またはストックオプション自体が譲渡制限新株予約権である場合)、誰に割り当てるかの決定と総数引受契約の承認は、定款に別段の定めがない限り、取締役会設置会社では取締役会、取締役会を置かない会社では株主総会の決議で行います(会社法243条2項、244条3項)。
取締役会を置かない会社では、特例で募集事項の決定を取締役に委任しても、申込み・割当ての方式では割当ての決定、総数引受契約の方式ではその契約の承認について、定款に別段の定めがない限り、株主総会の特別決議が必要です(会社法243条2項、244条3項、309条2項6号)。取締役の決定だけで発行の手続を進めるには、採用する方式に応じて、割当ての決定または総数引受契約の承認を取締役の決定で行える旨を定款に定めておく必要があります。
発行後は遅滞なく新株予約権原簿を作成します(会社法249条)。
-
新株予約権の発行の登記
割当日から2週間以内に、新株予約権の発行による変更登記を申請します(会社法915条1項)。登録免許税は申請1件につき9万円です(登録免許税法別表第一24号(一)ヌ)。特例を使っても、発行のたびに登記が必要な点は変わりません。経済産業省・法務省のよくあるご質問では、特例による発行の変更登記では、通常の添付書面に加えて、両大臣が交付した確認書の提出が必要とされています。
司法書士として実際に確認しているポイント
特例を使うと募集事項の決定の多くが取締役会に移るため、当事務所では次の4点を必ず確認しています。
- 確認書が出てから、委任の株主総会を開く。読替えは「確認を受けた場合」に適用されるためです。株主総会では取締役が委任する旨を説明し(省令1条4号)、そのことを議事録に残します。
- 割当ての決定・総数引受契約の承認を誰が行うかを、定款で確認する。取締役会を置かない会社で、これらを取締役の決定で行える旨の定めが定款になければ、採用する発行の方式に応じて、委任の株主総会で定款変更もご提案します。種類株式を発行している会社では、種類株主総会の要否もあわせて確認します。
- 取締役に報酬として付与するなら、報酬の決議と数を合わせる。報酬の決議(会社法361条1項4号)で定めた上限を超えて割り当てていないかを、発行のたびに確認します。
- 発行ごとの期限を、一つの日程表にする。株主への通知(割当日の2週間前まで)と登記(割当日から2週間以内。確認書の提出が必要)の期限を逆算して、ご依頼者にお渡ししています。
ストックオプションの税制適格要件、行使価額の算定(株価評価)、会計処理については、当事務所では判断していません。税理士・公認会計士へご相談ください。
よくあるご質問
- ストックオプション・プールを使えば、発行のたびの株主総会の決議は不要ですか。
-
募集事項の決定については、特例による委任の範囲内であれば、発行のたびの株主総会の決議は原則として不要です。ただし、最初の委任には株主総会の特別決議が必要です。また、取締役会を置かない会社では、割当ての決定などに別途株主総会の決議が必要となる場合があります。
- 大臣の確認を受けるまで、どのくらいかかりますか。
-
省令では、確認申請を受けた日から原則1か月以内に確認書を交付するとされています(省令2条7項)。これとは別に、申請前に経済産業省への事前相談が必要で、経済産業省の制度案内ページでは、事前相談から正式申請が可能になるまでに少なくとも1か月は必要とされています。少なくとも2か月程度を見込んでおくのが安全で、相談状況などによってはさらに時間がかかります。当事務所では、これを踏まえて委任の株主総会の日程をご提案しています。
- 取締役会を置いていない会社でも使えますか。
-
はい。取締役会を置かない会社では、募集事項の決定を取締役に委任します。ただし、申込み・割当ての方式では割当ての決定、総数引受契約の方式ではその契約の承認について、定款に別段の定めがない限り株主総会の特別決議が必要です。取締役の決定だけで発行の手続を進めるには、採用する方式に応じて、これらを取締役の決定で行える旨を定款に定めておく必要があります(本記事のSTEP7をご覧ください)。
- 特例を使えば、税制適格ストックオプションとして扱われますか。
-
特例は、会社法上の決定手続を変えるものです。税制適格の要件を満たすかどうかは別に判断が必要で、当事務所では判断していません。税理士へご相談ください。
まとめ
- ストックオプション・プールは、産業競争力強化法21条の19による会社法の特例で、株主総会で定めた範囲内で、取締役会(取締役会を置かない会社では取締役)が、行使価額・行使期間を含む募集事項を決められるようにする仕組みです。
- 通常の手続との違いは、行使価額・行使期間まで取締役会に任せられることと、委任に「1年以内の割当て」という期限がかからないことの2点です。
- 対象は、設立15年未満で省令の4要件を満たし、経済産業大臣と法務大臣の確認を受けた株式会社です。最初の株主総会の特別決議、割当日2週間前の株主への通知、発行ごとの登記は必要です。取締役に報酬として付与する場合は、報酬についての株主総会の決議も別に必要です。
- 特に有利な条件・金額での発行に当たると、特例の主な2つのメリットは使えません。
- VCとの投資契約・株主間契約で決める「発行枠」も同じ名前で呼ばれますが、それだけでは会社法の手続は変わりません。ただし、株主との合意は法律上の制度を使うための要件の一つでもあります。
ストックオプションの設計や発行手続の全体像は、ストックオプションの業務案内でご紹介しています。
関連するご案内
業務案内
料金・お問い合わせ
本記事について
本記事は、2026年9月時点の会社法、産業競争力強化法21条の19、産業競争力強化法に基づく募集新株予約権の機動的な発行に関する省令、および経済産業省「スタートアップの成長に向けたインセンティブ報酬ガイダンス ― 人材獲得のためのストックオプション活用術 ―」(2025年2月)をもとに作成しています。法令や実務の取扱いは変更されることがあります。具体的な手続にあたっては最新の情報をご確認のうえ、会社法上の手続と登記については司法書士、税務については税理士、会計については公認会計士等へご相談ください。
来所不要・全国対応。マイナンバーカードを利用したオンライン登記に対応しています
対応するスマートフォンとマイナンバーカードがあれば、委任状等への電子署名をオンラインで行っていただけます。登記申請は当事務所が行います。電子署名サービス「サインルーム(旧RSS-SR)」と専用アプリ「RSSモバイル」を利用します。案件によっては、書類の郵送等をお願いする場合があります(専用アプリ「RSSモバイル」のダウンロードはこちら)。初回相談無料です。
商業登記・企業法務 料金表を見る

