ストックオプションのクリフとベスティングとは?契約書の見方と会社・付与対象者の確認ポイント

監修:司法書士法人LSO 代表社員 金光康太
クリフとベスティングは、会社法その他の法令において、一律の内容が定義されている用語ではありません。ベスティングは、在籍期間などに応じて、割当てを受けたストックオプションのうち、ベスティング条件上の個数や割合を段階的に増やす仕組みを説明する際に使われます。クリフは、最初のベスティングが生じるまで、ベスティング割合が0となる期間を説明する際に使われることがあります。実際の条件は、「1年クリフ」といった呼び方だけで判断せず、そのストックオプションの発行要項や割当契約書を確認することが重要です。
こんにちは。司法書士の金光です。
「1年クリフ・4年ベスティングで付与すると聞いたが、具体的に何がどうなるのか」「契約書に「クリフ」という言葉が見当たらない」というご相談をいただくことがあります。
今回は、クリフとベスティングが契約書上どのような条件として書かれるのか、会社側・付与対象者側それぞれが何を確認しておくとよいのかを整理します。
契約書に「クリフ」と書かれているとは限らない
クリフやベスティングは、会社法その他の法令において、一律の内容が定義されている用語ではありません。
ストックオプションについて調べると、「1年クリフ」「4年ベスティング」という言葉を目にすることがあります。もっとも、実際の発行要項や割当契約書では、必ずしも「クリフ」という見出しや用語が使われるわけではありません。
例えば、契約書には次のような形で条件が記載されることがあります。
- 一定期間が経過するまでは、ベスティング割合を0とする
- 継続して役務を提供した期間が1年を経過した場合に、4分の1とする
- 在籍期間が1年を超えた場合に、25%とする
- 12か月経過時に48分の12とし、その後は毎月一定割合ずつ増加させる
- 4年経過時に100%とする
公開されている契約書書式にも、1年経過後に4分の1ずつ年次で増加するものや、12か月経過時に48分の12となり、その後は月次で増加するものなどが見られます。このような条件のうち、起算日から最初に一定の個数または割合がベスティングするまでの期間を、説明上「クリフ」と呼ぶことがあります。
そのため、契約書を確認するときは、「クリフ」という言葉が記載されているかだけでなく、次の内容を読み取ることが重要です。
- いつから期間を数えるのか
- いつまでベスティング割合が0なのか
- 最初にいつ、何個または何%がベスティングするのか
- その後、どのような頻度で増えるのか
- いつ100%となるのか
経済産業省「スタートアップの成長に向けたインセンティブ報酬ガイダンス―人材獲得のためのストックオプション活用術―」でも、クリフとベスティングは、ストックオプションに関する実務上の論点として取り上げられています。
ベスティングとは?
ベスティングとは、一定期間の在籍や役務提供など、あらかじめ定めた条件に応じて、割当てを受けたストックオプションのうち、ベスティング条件上の個数・割合を段階的に増やす仕組みを説明する際に使われる言葉です。
例えば、1,000個のストックオプションについて、次のようなスケジュールを契約上定める場合があります。
ベスティングスケジュールの設計例(1,000個・4回に分けて確定する場合)
| 契約で定めた時点 | 累計ベスティング割合 | 累計個数 |
|---|---|---|
| 起算時 | 0% | 0個 |
| 初回ベスティング日 | 25% | 250個 |
| 2回目のベスティング日 | 50% | 500個 |
| 3回目のベスティング日 | 75% | 750個 |
| 最終ベスティング日 | 100% | 1,000個 |
この例では、初回ベスティング日を迎えると250個、その後、契約で定めた日を迎えるごとに、累計500個、750個、1,000個と増えていきます。
ただし、これは説明のための設計例です。年次ではなく、月次その他の単位で増加させる条件が定められる場合もあります。
また、ベスティング日ごとに新たなストックオプションが追加で付与されるという意味ではありません。すでに割当てを受けたストックオプションのうち、何個がベスティング条件を満たしているかを判定する仕組みです。
クリフとは?
本記事では、起算日から最初のベスティングが生じるまで、ベスティング割合が0となる期間を「クリフ」と呼びます。
例えば、次のような条件を契約上定めたものとします。
- 起算日:2026年4月1日
- 初回ベスティング日:2027年4月1日
- 初回ベスティング割合:25%
- 最終ベスティング日:2030年4月1日
- 最終ベスティング割合:100%
この例では、2026年4月1日から初回ベスティング日の前日までは、ベスティング割合が0%です。この期間が「1年クリフ」と説明される部分に当たります。
ただし、これは、2027年4月1日を初回ベスティング日として契約上定めた設計例です。2026年4月1日を起算日とすれば、すべての契約について当然に2027年4月1日に25%となる、という意味ではありません。具体的な到来日は、契約書に記載された期間の表現や計算方法などによって異なる場合があります。
「1年クリフ」だけでは具体的な条件は分からない
「1年クリフ」という呼び方だけでは、具体的なベスティング条件を確認できない場合があります。
例えば、次の事項は別途確認する必要があります。
- 何の日から1年を数えるのか
- 最初にベスティングする日は具体的にいつか
- 最初に25%となるのか、別の割合となるのか
- その後は毎月増えるのか、毎年増えるのか
- クリフ期間を含めて4年間なのか
- クリフ終了後からさらに4年間なのか
- 休職・休業期間をどのように扱うのか
そのため、採用時の説明資料や口頭説明で「1年クリフ・4年ベスティング」と伝えられていても、それだけでは具体的な権利内容を判断しにくい場合があります。最終的には、そのストックオプションの発行要項や割当契約書を確認する必要があります。
同じ「1年クリフ」でも、その後の増え方が異なる場合がある
「1年クリフ・4年ベスティング」と説明される条件であっても、1年経過後の増え方が同じとは限りません。
年次で増える設計例
| 経過時点 | 累計ベスティング割合 |
|---|---|
| 起算時 | 0% |
| 1年経過時 | 25% |
| 2年経過時 | 50% |
| 3年経過時 | 75% |
| 4年経過時 | 100% |
1年経過後に月次で増える設計例
| 経過時点 | 累計ベスティング割合 |
|---|---|
| 起算時 | 0 |
| 12か月経過時 | 12/48 |
| 13か月経過時 | 13/48 |
| 14か月経過時 | 14/48 |
| 以後 | 毎月1/48ずつ増加 |
| 48か月経過時 | 48/48 |
公開されている契約書書式にも、このような年次型と月次型の設計が見られます。例えば、起算日から1年6か月の時点では、年次型であれば25%のままとなる一方、月次型では48分の18、すなわち37.5%相当となる設計も考えられます。
この違いは、会社側にとっては退職・退任時の個数計算や管理方法に影響します。付与対象者側にとっては、同じ「1年クリフ」という説明であっても、ベスティング済みとなる個数に違いが生じる場合があります。
会社側では、付与の目的と具体的な条件を整理する
会社側がクリフやベスティングを検討する場合には、まず、誰に、どのような目的でストックオプションを付与するのかを整理します。
例えば、次のような目的が考えられます。
- 新たに採用する人材に、入社後の継続的な貢献を期待する
- 既存の役職員に、今後も一定期間在籍してもらう
- これまでの貢献を付与条件に反映する
- 会社の成長と役職員の利益を結び付ける
付与の目的が異なれば、起算日、クリフの長さ、初回にベスティングする割合、その後の増加頻度について、異なる条件が検討される場合があります。前掲の経済産業省ガイダンスでも、人材獲得、リテンション、貢献への動機付けなどを踏まえ、会社ごとにインセンティブ報酬制度を検討するための考え方が整理されています。
なお、共同創業者の間で株式について同様の考え方を用いる場合もあります。この点は創業株主間契約とはもあわせてご覧ください。
そのうえで、会社側では次のような条件を具体化していきます。
- ベスティングの起算日
- 初回ベスティング日
- 初回にベスティングする割合・個数
- その後の増加頻度
- 最終ベスティング日
- 休職・休業時の取扱い
- 退職・退任時の取扱い
- 端数が生じた場合の計算方法
決定した条件は、必要に応じて会社決議、発行要項や割当契約書等の関係書類に反映します。ストックオプションの総枠と将来の資金調達との関係については、資金調達・資本政策の業務案内もご確認ください。
起算日と各ベスティング日を会社側で管理する
ベスティングの起算日は、入社日、役務提供開始日、新株予約権の割当日などを基準とする場合があります。
公開されている契約書書式にも、役務提供開始日を基準とするもの、割当日を基準とするもの、割当日または当初入社日のいずれかを選択するものなどが見られます。どの起算日を採用するかは、付与の目的や対象者との合意内容、会社側の管理方法などによって異なる場合があります。
また、起算日を決めるだけではなく、初回ベスティング日と、その後の各ベスティング日を会社側で具体的に計算・管理できるようにしておくことが重要です。
契約書では、例えば次のような表現が用いられることがあります。
- 「1年間を経過した場合」
- 「12か月経過時」
- 「在籍期間が1年を超えた場合」
- 「起算日から継続して一定期間在籍した場合」
公開されている契約書書式の中には、在籍期間について「初日及び末日を含む」と明記するものもあります。一方、具体的な初回ベスティング日までは記載していない書式も見られます。
そのため、会社側では少なくとも次の内容を確認し、管理できるようにしておくとよいでしょう。
- 起算日は何月何日か
- 初回ベスティング日は何月何日か
- 初回に何%・何個がベスティングするか
- 2回目以降のベスティング日はいつか
- 各時点の累計割合・累計個数はいくつか
- 最終的に100%となる日はいつか
- 契約書に期間の数え方が定められているか
具体的な到来日を会社側で確認できないままでは、退職・退任日がベスティング日の直前、当日または直後となった場合に、ベスティング済み個数について認識の相違が生じる可能性があります。発行要項や割当契約書に加えて、会社側の管理表でも各ベスティング日と個数を確認できるようにしておくことが、後のトラブル防止につながります。
休職・休業期間の取扱いも確認する
ベスティング期間は、起算日から暦どおりに数えるだけとは限りません。
公開されている契約書書式の中には、休職・休業期間の全部または一部を、在籍期間や継続役務提供期間から除外するものがあります。例えば、次のような取扱いが定められる場合があります。
- 休職日数を期間から除外する
- 継続して1か月以上の休業のみを除外する
- 1か月に満たない日数を切り捨てる
- 産前産後休業や育児休業等を除外対象としない
- 会社が特に認めた場合には除外しない
休職・休業があった場合には、当初想定したベスティング日が変更される可能性があるかどうかを契約書に基づいて確認します。
付与対象者側では、自分に適用される条件を確認する
付与対象者である役員・従業員等は、「会社のストックオプション制度」全体ではなく、自分が割当てを受けるストックオプションの条件を確認する必要があります。
同じ会社であっても、発行回や対象者によって条件が異なる場合があります。付与対象者側では、少なくとも次の点を確認するとよいでしょう。
- 自分が割当てを受ける新株予約権の名称・回号
- 割当個数
- ベスティングの起算日
- 初回ベスティング日
- 初回にベスティングする割合・個数
- その後の増加頻度
- 最終ベスティング日
- 休職・休業が期間計算に影響するか
- 退職・退任した場合の取扱い
- 権利行使期間
- IPOやM&Aが生じた場合の取扱い
採用時の説明資料や面談での説明に「1年クリフ・4年ベスティング」と記載されていても、それだけでは具体的な権利内容を判断しにくい場合があります。最終的には、自分に適用される発行要項、割当契約書、取得通知書その他の関係書類を確認します。M&Aが生じた場合の取扱いについては、M&Aでストックオプションはどうなる?もあわせてご覧ください。
ベスティング済みでも、直ちに行使できるとは限らない
ベスティング済みであっても、それだけで直ちにストックオプションを行使できるとは限りません。
実際に行使できる時期や条件については、発行要項に記載された権利行使期間や、割当契約書等に定められた行使条件をご確認ください。
退職・退任した場合の取扱い
退職・退任時の取扱いは、一律ではありません。
契約の内容によって、例えば次のような取扱いとなる場合があります。
- 未ベスティング部分は行使できなくなる
- ベスティング済み部分は一定期間行使できる
- 退職時にベスティング済み部分も行使できなくなる
- 会社が認めた場合に限り行使できる
- 退職理由によって取扱いが異なる
会社側では発行時に取扱いを整理し、付与対象者側では退職・退任を判断する前に、自分に適用される発行要項や割当契約書を確認することが大切です。退職時の設計パターンと、消滅・取得・消却の違いについては、ストックオプションは退職したら失効する?で詳しく整理しています。
会社法上の手続との関係
本記事で扱うストックオプションは、会社法上、新株予約権として発行されます。
発行時には会社法に基づく決議や発行手続を行い、新株予約権の内容のうち、法令で定められた事項を登記します。もっとも、会社法には「1年クリフ」や「4年ベスティング」という特定の条件を一律に定める規定はありません。また、クリフやベスティングに関する契約上の条件が、すべてそのまま登記されるわけでもありません。
会社法第236条は新株予約権の内容として定める事項を、会社法第238条は募集新株予約権を発行する際に決定する募集事項を規定しています。会社法第911条第3項第12号は、新株予約権に関する登記事項を定めています。
本記事ではクリフとベスティングを中心に説明しているため、新株予約権の発行手続や登記についての詳しい説明は、別の記事で取り上げます。発行手続の流れはストックオプション(新株予約権)発行手続をご覧ください。
司法書士として実際に確認しているポイント
司法書士がストックオプションの発行登記にあたって確認するのは、主に会社法上の発行手続と登記事項です。
当事務所では、主に次の点を確認しています。
- 必要な株主総会・取締役会等の決議が行われているか
- 会社決議、発行要項および登記申請の内容が一致しているか
- 新株予約権の内容のうち、登記すべき事項が明確になっているか
クリフやベスティングの人事制度としての設計や、税務・会計上の取扱いまで、司法書士が判断するものではありません。
ベスティング設計に伴う税制適格性、課税関係、株価評価、費用計上その他の税務・会計上の取扱いについて、当事務所では判断していません。税理士・公認会計士等へご相談ください。
よくあるご質問
- 契約書に「クリフ」と書かれていなければ、クリフはありませんか。
-
必ずしもそうとは限りません。「1年以内は0%」「12か月経過時に一定割合となる」など、期間と割合によって具体的な条件が記載されている場合があります。
- 会社側は「1年クリフ」と決めるだけで足りますか。
-
「1年クリフ」という呼び方だけでは、具体的な条件が明確にならない場合があります。起算日、初回ベスティング日、初回割合、その後の増加頻度、休職・退職時の取扱いまで確認しておくことが重要です。
- 付与対象者は何を確認すればよいですか。
-
自分が割当てを受ける新株予約権の回号、割当個数、起算日、各ベスティング日、権利行使期間、退職時の取扱いなどを確認します。
- ベスティングの起算日は入社日ですか。
-
入社日を基準とする場合もありますが、割当日や役務提供開始日などを基準とする場合もあります。自分に適用される発行要項や割当契約書をご確認ください。
- 起算日が分かれば、初回ベスティング日も分かりますか。
-
起算日だけでは、具体的な到来日を判断しにくい場合があります。期間をどのような文言で定めているか、期間の数え方について契約上の定めがあるかも確認します。
- ベスティング済みなら、すぐに行使できますか。
-
直ちに行使できるとは限りません。発行要項の権利行使期間や、割当契約書等の行使条件をご確認ください。
- 退職した場合、ベスティング済み部分は残りますか。
-
一律には決まりません。ベスティング済み部分を一定期間行使できる場合もあれば、退職時に行使できなくなる場合もあります。発行要項や割当契約書の退職時の条項をご確認ください。
クリフとベスティングのまとめ
- クリフとベスティングは、法令上、一律の内容が定義された用語ではありません
- 実際の契約書に「クリフ」と記載されているとは限りません
- 同じ「1年クリフ」でも、初回割合やその後の増加頻度が異なる場合があります
- 会社側では、付与の目的、起算日、各ベスティング日、割合・個数を具体化します
- 会社側で対象者ごとの日付と個数を管理できるようにしておきます
- 付与対象者側では、自分に適用される発行回・契約書を確認します
- 休職・休業、退職・退任時の取扱いも確認します
- ベスティング済みであっても、直ちに権利行使できるとは限りません
- ストックオプションは、会社法上、新株予約権として発行されます
- 発行時には、会社決議、発行要項および登記内容の整合性を確認します
本文の主な根拠資料は、経済産業省「スタートアップの成長に向けたインセンティブ報酬ガイダンス―人材獲得のためのストックオプション活用術―」(インセンティブ報酬制度の目的、論点3「クリフとベスティング」、退職時・M&A時の取扱い、ストックオプションの実務手続)、会社法第236条(新株予約権の内容)、同第238条(募集事項の決定)、同第911条第3項第12号(新株予約権に関する登記事項)、民法第138条から第143条(期間の計算)です。
クリフやベスティングを含むストックオプションの発行では、会社側で決定された条件を、会社決議、発行要項、割当契約書および登記関係書類へ整合的に反映することが大切です。司法書士法人LSOでは、ストックオプションの発行に伴う会社法上の手続および登記申請を取り扱っています。条件確定後の会社決議、発行要項および登記内容の確認について、司法書士法人LSOへご相談いただけます。費用はストックオプション・新株予約権手続の料金をご確認ください。
監修者
司法書士法人LSO 代表社員 司法書士 金光 康太
会社設立、資金調達、種類株式、新株予約権・ストックオプション、株主総会、M&A・組織再編等の商業登記・企業法務を取り扱っています。IPO・内部統制実務士、バトンズ認定M&Aアドバイザー、smartroundアドバイザー。
詳細プロフィール(司法書士法人LSO 本体サイト)/司法書士法人LSOへのご相談はこちら
※本コラムの内容は掲載時点の法令等に基づいています。法律や制度は改正されることがあり、個別の案件では事情により結論が異なる場合があります。


