ストックオプションとは?発行する理由と種類、決めることを解説

結論
ストックオプションとは、会社が役員や従業員などに対して、「将来、あらかじめ決めておいた価格でその会社の株式を取得できる権利」を先に渡しておく仕組みです。
経済産業省は、これを会社法上の「新株予約権」を役員や従業員に付与するものと説明しています。会社法の条文に「ストックオプション」という名称の規定はありません。
スタートアップがこれを使うのは、いま出せる現金が限られていても、会社が成長したときの株式の価値を、一緒に働く人と分け合えるからです。
ただし、株式の価値が、その決めておいた価格(行使価額)を下回っている間は、通常、直ちに権利を行使するメリットはありません。誰にどのくらい付与するか、いつから行使できるか、退職やM&Aのときにどう扱うかといった条件は、発行のときに設計しておく必要があります。
1.ストックオプションとは?|法律上の言葉は「新株予約権」
「ストックオプション」は、法律の条文にある言葉ではありません。会社法上の「新株予約権」を、役員や従業員などへのインセンティブ(意欲を高めるための報酬)として使う場合の呼び名です。
この仕組みを指す会社法上の言葉は、会社法2条21号の「新株予約権」です。では、何をもってストックオプションと呼ぶのか。公的な資料では、次のように説明されています。
ストックオプションとは、将来において一定の価格で株式を取得することができる権利、すなわち「新株予約権」を役員や従業員に付与するものです。
たとえば「将来、1株1,000円で会社の株式を取得できる」という新株予約権を従業員に付与しておき、会社が成長したあとで、その人が定められた条件を満たして権利を行使する、という使い方をします。
ここで押さえておきたいのは、ストックオプションを持っているだけでは、まだその株式の株主ではないということです。新株予約権を行使した日に、その新株予約権の目的である株式の株主になります(会社法282条1項)。
新株予約権そのものを詳しく知りたい方へ
新株予約権の定義、株式との違い、いつ株主になるのか、発行時に決める内容といった会社法上の基礎は、別のコラム「新株予約権とは?仕組みとストックオプションとの関係」で解説しています。
2.なぜスタートアップはストックオプションを発行するのか
いま多くの現金を報酬に回せない時期でも、将来の株式の価値を報酬の原資にできるからです。
経済産業省のガイダンスは、資金面での制約から人材採用にあたって多額の現金支出が難しいのが多くのスタートアップの実情であるとしたうえで、優秀な人材を獲得するためにストックオプション等のインセンティブ報酬が重要になる、と整理しています。同ガイダンスは、報酬を金銭報酬と株式報酬に分けて整理しています。
給与・賞与・各種手当・退職金
いまの職務に対して、いまの現金で報いるものです。現金が出ていくため、資金に余裕のない時期には高い水準を続けにくくなります。
ストックオプション・譲渡制限付株式(RS)など
会社の成長に応じて、より大きな報酬が得られるという「将来への期待」とリンクした報酬です。付与の時点では現金が出ていきません。なお、譲渡制限付株式(RS)は、株式そのものを一定期間の譲渡制限付きで交付するものです。
そのうえでガイダンスは、インセンティブ報酬の目的を、付与する相手に応じて次の3つに整理しています。カッコ内は、ガイダンスが挙げている言い換えです。
- 人材獲得(「内部と外部の労働市場の価格差調整」) 創業初期は大企業と同じ水準の現金報酬を出しにくいため、給与に将来の株式の価値を組み合わせて採用につなげます
- 将来の貢献への動機付け・リテンション(人材の定着)(「これからよろしく・期待しています」) 会社の価値が高まれば付与を受けた人のメリットも大きくなり得るため、会社を成長させることと個人の報酬とを結び付けられます
- 過去の貢献に対する報酬(「貢献ありがとう」) これまで会社の成長に貢献してきた人に報いる目的で付与されることもあります
同じストックオプションでも、スタートアップでは、創業初期に参画したメンバー、中途で採用する経営人材、事業が軌道に乗ってから増えた従業員とで、重みの置き方が変わります。
給与の単純な代替ではありません
ガイダンスには、現金報酬を低いままにして、その穴埋めとしてストックオプションを増やすのは適切ではない、という投資家の声も収められています。現金報酬と中長期のインセンティブをどう組み合わせるかは、会社の成長段階、人材戦略、資本政策とあわせて検討する必要があります。
3.ストックオプションで経済的なメリットが生じる仕組み
会社が成長して株式の価値が高まり、あらかじめ定めた行使価額との差が大きくなるほど、付与を受けた人の経済的なメリットも大きくなり得ます。
経済産業省のガイダンスは、この関係を「ストックオプションの払込価額+権利行使価額と取得した株式の売却額との差額が貢献への対価となります」と説明しています。つまり、株式の売却額から、新株予約権そのものの払込価額(有償で発行した場合に払い込む金額)と行使価額の合計を差し引いた額が、その人の受け取る対価にあたります。
ここでは、新株予約権そのものを無償で付与した場合(払込価額が0円)を例に、付与から売却までを追います。
以下は、仕組みを分かりやすくするための単純化した一例です。実際の金額・条件・税負担を示すものではありません。有償で発行されたストックオプションでは、新株予約権自体の払込価額も考慮する必要があります。また、税金は考慮していません。
流れを4つの段階に分けると、次のようになります。
グラフにすると、行使価額は変わらないまま、株式の価値との差が開いていきます。
株式の価値と行使価額の差が広がっていく様子
行使価額を一定として、株式の価値が上がっていった場合を単純化したものです。株式の価値が必ず右肩上がりに上昇することを示すものではありません。
グラフ右側の縦の幅が、行使価額1,000円と売却額10,000円の差である9,000円にあたります。説明を単純化するため、付与時の株式の価値と行使価額が同じ額であるものとして描き、権利行使と株式の売却を同じ時点として扱っています。
会社が成長したときの成果が、付与を受けた人にも届くようにしておく。これがストックオプションの基本的な考え方です。
株式の価値が行使価額を下回ると、通常は行使するメリットが乏しい
ここまでは、株式の価値が行使価額を上回った場合の話です。株式の価値が行使価額を下回っている間は、権利を行使して株式を取得しても、払い込む金額のほうが高くなります。そのため、その時点の株式の価値だけを基準に考えるかぎり、通常、直ちに行使するメリットはありません。行使期間が過ぎれば、その新株予約権はもう行使できません。
同ガイダンスも、上場後の株式報酬を検討する場面について、株価が行使価額を上回らず無価値になってしまうリスクを指摘しています。株式の価値が行使価額を上回った分が、権利行使による経済的なメリットになる仕組みである以上、付与する会社の側も、付与を受ける側も、この前提を共有したうえで設計に入ってください。
非上場会社では「売却できる機会があるか」も重要
スタートアップの株式は、多くの場合、非上場株式です。株式の価値が高くなったことと、その価格ですぐに売却できることは別の問題です。IPOやM&Aなど、実際に株式を売却できる機会まで含めて、どの場面で価値を実現するのかを想定しておきます。
差額がそのまま手元に残るわけではありません
課税される時期も所得の区分も、ストックオプションの種類によって変わります。次の章で整理します。
4.ストックオプションの種類|「無償・有償」と「税制適格・非適格」は別の軸
「無償か有償か」は会社法上の発行のしかた、「税制適格か税制非適格か」は税務上の取扱いで、別々の軸です。無償で発行したから税制適格になる、というものではありません。
実際に目にするのは「無償ストックオプション」「税制適格ストックオプション」「有償ストックオプション」といった呼び方で、ここに2つの軸が混ざっています。まず軸ごとに分け、そのうえで組み合わせを見ていきます。
① 会社法上の軸|無償で付与するか、有償で発行するか
新株予約権そのものについて、払込金額を定めるかどうかの区別です。どちらにするかは、会社法238条1項の募集事項として決めるもので、次の2つに分かれます。
- 無償発行 新株予約権を取得するときに金銭の払込みを要しないもの。募集事項として「募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする旨」を定めます(238条1項2号)
- 有償発行 新株予約権を取得するときに払込金額を設定するもの。募集事項として払込金額またはその算定方法を定めます(同項3号)
「払込金額」と「行使価額」は別のものです。ここでいう払込金額は、新株予約権そのものについて募集事項として定める金額です。権利を行使して株式を取得するときに支払う「行使価額」とは別に決めるもので、混同すると発行要項も課税関係も読み違えます。
② 税務上の軸|税制適格か、税制非適格か
税制適格ストックオプションは、租税特別措置法29条の2(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)が定める要件を満たすものです。経済産業省は、この制度を次のように説明しています。
ストックオプション税制は、権利行使時の取得株式の時価と権利行使価額との差額に対する給与所得課税を株式売却時まで繰り延べ、株式売却時に売却価格と権利行使価額との差額を譲渡所得として課税する制度です。
経済産業省のガイダンスは、その主な要件として次の8項目を挙げています。
- 付与対象者の範囲
- 権利行使期間
- 権利行使価額
- 権利行使限度額(年間の合計額)
- 譲渡制限
- 発行形態
- 株式の交付
- 株式の管理
このうち会社法上の発行手続と特に関係が深いのが「譲渡制限」です。税制適格の要件は譲渡を禁止することで(租税特別措置法29条の2第1項4号)、会社法236条1項6号の「譲渡による取得について会社の承認を要する旨」とは別のものです。会社の承認を要する定めを置いただけでは、税制適格の要件を満たしません。
ここが最も注意の必要なところです。税制適格かどうかの判断は、税理士など税務の専門家にご確認ください。上の8項目は、そのすべてを満たしてはじめて税制適格になるもので、自社の設計が当てはまるかどうかは個別の事情によって変わります。要件は、発行したあとで簡単に直せるものではありません。税制適格を予定している場合は、発行要項や付与契約を確定する前にご確認ください。
代表的な3つの類型
スタートアップが主に使うものは次の3つです。表は、経済産業省のガイダンスの整理をそのまま引いたものです。
| 種類 | 取得時の従業員等の支払 | 権利行使時(株式取得時) | 株式譲渡時 |
|---|---|---|---|
| 無償ストックオプション(税制非適格) | 無 | 給与課税(最高約55%) | 譲渡課税(約20%) |
| 無償ストックオプション(税制適格) | 無 | 課税なし(繰り延べ) | 譲渡課税(約20%) |
| 有償ストックオプション | 有 | 課税なし | 譲渡課税(約20%) |
出典:経済産業省「スタートアップの成長に向けた インセンティブ報酬ガイダンス」(2025年2月)第1章<ストックオプションの分類>。ストックオプションの類型を網羅したものではなく、個別の会社・個別の付与について課税関係を判断できるものでもありません。
この表は代表的な整理です
税制非適格ストックオプションの権利行使益の所得区分は、株式の発行法人と権利を与えられた人との関係によって変わり、常に給与所得になるとは限りません(国税庁 No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について)。
また、会社法上の「有償発行」が、そのまま上の表の「有償ストックオプション」と同じ課税関係になるわけでもありません(国税庁「金銭の払込みに代えて報酬債権をもって相殺するストックオプションの課税関係」)。会社法上どう発行したかだけで課税関係は決まりません。
5.ストックオプションを発行するときに決めること
会社法上必要な事項を決めるだけでは足りません。退職・M&A・IPOが起きたときにどう扱うのかまで、発行の時点で設計しておくことが重要です。
一度発行すると、内容の変更は新株予約権者の権利にかかわります。変更の内容に応じて、発行を決議した機関での変更決議や新株予約権者の同意が必要になり、会社の判断だけで自由に変えられるものではありません。ご相談を受けていて論点になりやすいのは、次のような点です。何をどこまで決めるかは、会社の状況と付与の目的によって変わります。
全体でどのくらいの発行枠を設けるか
新株予約権が行使されて株式が交付されると、その分だけ既存株主の持株比率が下がります。すでに発行している新株予約権を含めた潜在株式まで見て、どこまでの希薄化を許容するかを決めます。経済産業省のガイダンスは、上場時の発行割合について、おおよそ10%が通例と言われてきたこと、近年は15〜20%とするケースも増えていることを紹介しています。ただし、これは実例の紹介で、会社法上の上限でも推奨割合でもありません。なお、この発行枠を「オプションプール」と呼ぶことがありますが、産業競争力強化法の特例であるストックオプション・プールとは別のものです。
誰に、どのくらい付与するか
創業メンバー、取締役、従業員、中途で採用する経営人材とでは、期待する役割が異なります。現在の役割、今後期待する役割、採用時の条件、すでに保有している株式・新株予約権などを踏まえて検討します。
いくらで株式を取得できるようにするか
権利を行使して株式を取得するときに、1株あたりいくらを払い込むのか。経済的な価値だけでなく、税制適格の要件とも関係します。税務上の取扱いは税理士、株価の算定は税理士・公認会計士等にご確認ください。
いつから、どのくらい行使できるようにするか
付与した日にすべてを行使できるようにする必要はありません。行使できない期間(クリフ)や、在籍期間などに応じて段階的に行使できる数が増える設計(ベスティング)を検討します(クリフとベスティングの解説)。
未行使分をどう扱うか
退職時に行使できなくする、一定期間だけ行使を認める、取得条項を設けて会社が取得できるようにする、退職理由によって扱いを変えるなど、さまざまな設計があります。発行時に曖昧にすると、実際に退職者が出たときに問題になりやすい部分です(ストックオプションは退職したら失効する?)。
出口が来たときにどう扱うか
直前に行使を認めて取得した株式を買収者に売却するのか、取得条項に基づいて会社が新株予約権を取得するのか、権利者に放棄してもらうのか。合併などの組織再編で再編後の会社の新株予約権を交付する設計にするときは、発行要項の定め(会社法236条1項8号)に加えて、組織再編の契約や計画にも定めが必要です(吸収合併なら会社法749条1項4号・5号。新株予約権に代えて金銭を交付する設計もできます)。経済産業省のガイダンスは、M&Aに伴う処理によっては、付与決議から2年以内の権利行使や譲渡禁止の解除により税制適格でなくなる場合があることを指摘しています(M&Aでストックオプションはどうなる?)。
上場前の行使を認めるか
上場することを行使の条件にする設計もあれば、上場前の行使を認める設計もあります。上場前に認めると付与対象者が実際の株主になるため、株主管理や株主総会の実務にも影響します。
第三者への譲渡と会社の取得をどう定めるか
特定の役員や従業員へのインセンティブとして付与する以上、第三者へ自由に譲渡されることは通常想定しません。譲渡による取得に会社の承認を要する旨(会社法236条1項6号)や、一定の事由が生じた場合に会社が取得できる取得条項(同項7号)を、目的に応じて設計します。税制適格を予定する場合は、会社の承認を要する定めでは足りません。
6.ストックオプションの発行手続
ストックオプション専用の手続があるわけではなく、会社法上は新株予約権の発行手続として進めます。
募集事項として何を決めるか
何を募集事項として決めるかは、会社法238条1項が1号から7号まで定めています。割当日(4号)や、払込みの期日を定めるときはその期日(5号)まで、あわせて決めておく必要があります。このうち、無償で付与するのか有償で発行するのかの区別に関わるのは、次の3つの号です。
会社法238条1項(募集事項の決定)
一 募集新株予約権の内容及び数
二 募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
三 前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権一個と引換えに払い込む金銭の額をいう。以下この章において同じ。)又はその算定方法
同項1号の「内容」は会社法236条1項が定める事項で、権利の目的である株式の数(236条1項1号)、行使に際して出資される財産の価額(同項2号。いわゆる行使価額)、行使することができる期間(同項4号)などが含まれます。募集事項の決定は、株主総会の決議によらなければならないのが原則で(会社法238条2項)、この決議は会社法309条2項6号により特別決議です。公開会社では、金銭の払込みを要しないこととすることが引受人に特に有利な条件である場合や、払込金額が引受人に特に有利な金額である場合(会社法238条3項各号)を除き、取締役会の決議によることになります(会社法240条1項)。非公開会社では、原則どおり株主総会の特別決議が必要です。株主総会の決議によって、取締役(取締役会設置会社では取締役会)に委任することもできますが(会社法239条1項)、この委任の決議も特別決議です。 会社法238条|e-Gov法令検索
種類株式を発行している会社は、種類株主総会の要否も確認します。新株予約権の目的である株式の種類の全部または一部が譲渡制限株式であるときは、募集事項の決定は、その種類の株式の種類株主による種類株主総会の決議がなければ効力を生じません(会社法238条4項。決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除きます)。取締役会等へ委任する場合も同様です(会社法239条4項)。優先株式で資金調達をしている会社では、見落としやすい点です。
あわせて見ておきたいのが、発行可能株式総数との関係です。行使期間の初日が到来した新株予約権について、その行使により交付することとなる株式の数は、発行可能株式総数から発行済株式(自己株式を除きます)の総数を控除した数を超えられません(会社法113条4項)。すでに発行している新株予約権の行使期間と目的である株式の数まで見て、今回の発行で枠が足りるかを先に確認します。
取締役に付与するときは、報酬等としての決議も必要になる
ストックオプションに特有の注意点が、取締役への付与です。職務執行の対価として新株予約権を付与する場合、それは会社法上の「報酬等」にあたります。
会社法361条1項(取締役の報酬等)
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
四 報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権(第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権をいう。以下この項及び第四百九条第三項において同じ。)については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
新株予約権そのものを報酬として付与する場合は4号、報酬として交付した金銭を新株予約権の払込みに充てる場合は5号ロが対応します。定款に定めがなければ株主総会の決議が必要です。会社法309条2項は特別決議を要する事項として361条を挙げていないため、この決議は普通決議です。経済産業省のガイダンスも、役員に付与する場合には報酬決議(株主総会の普通決議)が必要で、役員でない従業員に与える場合や、報酬とみなされない有償ストックオプションの場合は不要、と整理しています。この普通決議は取締役の報酬等としての決議であって、新株予約権を発行すること自体の決議とは別のものです。 会社法361条|e-Gov法令検索
ここで見落とされやすいのが、4号の「その他法務省令で定める事項」です。受け先は会社法施行規則98条の3です。同条が挙げているのは、会社法236条1項1号から4号までの事項(目的である株式の数、行使に際して出資される財産の価額、行使期間など)、行使の条件を定めるときはその概要、譲渡による取得に会社の承認を要する旨(同項6号)、取得条項(同項7号)の概要などです。
つまり、取締役に付与する場合の株主総会の議案には、新株予約権の数の上限だけでなく、在籍要件などの行使の条件の概要まで書く必要があります。数の上限だけを決議して議事録を作ってしまう例があるため、当事務所では発行要項と議案を突き合わせて確認しています。
機動的に発行するための特例もある
設立から15年未満の株式会社が所定の要件を満たし、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合には、株主総会が募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社では取締役会)に委任するときに、行使価額(会社法236条1項2号)と行使期間(同項4号)を株主総会で定めずに委任できます。あわせて、委任の決議が「割当日が決議の日から1年以内の募集」に限って効力を持つという制限(会社法239条3項)も適用されません(産業競争力強化法21条の19第1項)。詳しくはストックオプション・プールの解説をご覧ください。
発行したあとは登記が必要
新株予約権の数、目的である株式の数、行使価額、行使期間のほか、行使の条件を定めたときはその条件なども登記事項です(会社法911条3項12号)。新株予約権者となるのは割当日ですから(会社法245条1項)、発行による変更の登記はそこから2週間以内です(会社法915条1項)。
その後、新株予約権が行使されると、新株予約権の数が変わります。新株を発行して交付する場合は、発行済株式の総数や資本金の額も変わります(自己株式を処分して交付する場合は、これらは変わりません)。行使による変更の登記は、毎月末日現在により、その末日から2週間以内にすれば足ります(会社法915条1項・3項1号)。行使のたびに登記するのではなく、その月の行使分をまとめて申請できる、という趣旨です。
また、行使期間の経過、権利者からの放棄、会社が取得した自己新株予約権の消却などにより新株予約権が消滅したときも、新株予約権の数の変更として登記が必要です(会社法915条1項)。退職時やM&A時の扱いを決めておくことは、この登記にもつながります。
この記事で押さえておきたい根拠条文
- 会社法2条21号(新株予約権の定義)
- 会社法113条4項(新株予約権の行使により交付する株式の数の上限)
- 会社法236条1項(新株予約権の内容。組織再編に際する新株予約権の交付は8号)
- 会社法238条1項・2項・3項・4項(募集事項の決定と種類株主総会)
- 会社法239条1項・3項・4項(募集事項の決定の委任)
- 会社法240条1項(公開会社における募集事項の決定の特則)
- 会社法245条1項(割当日に新株予約権者となること)
- 会社法249条(新株予約権原簿)
- 会社法276条1項(自己新株予約権の消却)
- 会社法282条1項(行使した日に株主となること)
- 会社法309条2項6号(募集事項の決定およびその委任の決議要件)
- 会社法361条1項4号・5号ロ(取締役の報酬等)
- 会社法387条1項(監査役の報酬等)
- 会社法749条1項4号・5号(吸収合併契約で定める新株予約権に関する事項)
- 会社法911条3項12号(新株予約権に関する登記事項。行使の条件を含む)
- 会社法915条1項・3項1号(変更の登記)
- 会社法施行規則98条の3(報酬等として付与する募集新株予約権について定めるべき事項)
- 会社計算規則17条(新株予約権の行使があった場合の資本金等増加限度額)
- 産業競争力強化法21条の19第1項(募集事項の決定の委任の特例)
- 租税特別措置法29条の2(税制適格ストックオプション)
7.司法書士として実際に確認しているポイント
ストックオプションは、発行時の手続だけでなく、その後の行使・退職・M&Aまで管理が続く制度です。
発行の前後で、当事務所が確認しているのは次のような点です。
- いまの状態を先に確定させる。定款・登記簿・株主名簿・既存の新株予約権を確認し、今回の付与後にどうなるかを整理します。発行可能株式総数の枠が足りるか(会社法113条4項)も、この段階で確認します
- 付与する相手ごとに、必要な決議を分ける。取締役に職務執行の対価として付与するなら会社法361条1項、監査役に付与するなら会社法387条1項の報酬等の定めが必要になります。根拠となる条文が異なるため、当事務所では議案を分けて作成します
- 発行要項・決議書類・割当関係書類・登記を一致させる。発行要項だけが正しくても、議事録や割当契約の内容と食い違っていれば問題になります
- 過去の発行分との違いを一覧にする。2回目以降の発行では、行使価額・行使条件・退職時やM&A時の扱いが回によって異なることがあります。発行回ごとに区別して管理できる状態にしておきます
- 発行後の管理まで決めておく。発行後は新株予約権原簿の作成・管理が必要です(会社法249条)。誰が何個保有しているのか、行使されたのか、失効したのかを継続的に追える形にしておきます
- 他の専門家の範囲を切り分ける。税務は税理士、株価算定・会計は税理士・公認会計士等の判断範囲として整理し、当事務所は会社法上の手続と登記に絞ってお手伝いします
具体的な発行手続の流れと費用は、業務案内ストックオプション(新株予約権)発行手続と料金表をご覧ください。
よくあるご質問
- ストックオプションをもらった時点で、株主になりますか。
-
なりません。付与されるのは「将来、株式を取得できる権利」です。定められた条件に従って権利を行使した日に、その新株予約権の目的である株式の株主となります。
- ストックオプションは、上場していない会社でも発行できますか。
-
できます。会社法は、上場しているかどうかでストックオプションを発行できるかを分けていません。経済産業省のガイダンスも、非上場のスタートアップが主に活用する制度としてストックオプションを挙げています。
- 付与する人数や条件がまだ決まっていなくても相談できますか。
-
はい。「何%にするか決まっていない」「行使価額を税理士と相談中」「退職時やM&A時の条件を迷っている」という段階からのご相談も承っています。現在の定款・株主構成・過去の発行状況を確認し、会社法上必要となる決議と登記を整理します。税制適格の要件の当てはめは税理士、株価の算定や会計処理は税理士・公認会計士等への確認をご案内します。
まとめ|ストックオプションは発行時の「設計」が重要
- ストックオプションとは、将来あらかじめ定めた価格で自社の株式を取得できる権利を、役員・従業員等に付与する仕組みです。会社法上の言葉は「新株予約権」です。
- 経済産業省は、ストックオプションを含むインセンティブ報酬の目的を「人材獲得」「将来の貢献への動機付け・リテンション」「過去の貢献に対する報酬」の3つに整理しています。
- 経済的なメリットは、株式の売却額から、新株予約権の払込価額と行使価額の合計を差し引いた差額として生じます。株式の価値が行使価額を下回っている間は、通常、直ちに行使するメリットはありません。
- 会社法上の「無償・有償」と、税務上の「税制適格・税制非適格」は別の軸です。無償で発行したから税制適格になるわけではありません。
- 誰にどのくらい付与するか、行使価額、クリフとベスティング、退職・M&A・IPOのときの扱い、譲渡や取得条項など、会社法上の手続とあわせて発行の前に設計しておきます。
スタートアップでは、ストックオプションを発行してからIPOやM&Aまで数年かかることがあります。「発行するときに問題がないか」だけでなく、「数年後に会社や付与を受けた人が困らないか」という視点で設計することが大切です。会社法上の権利そのものの仕組みについては、別のコラム「新株予約権とは?」もあわせてご覧ください。
ストックオプションの発行をご検討の方へ
会社法上の発行手続、発行要項・株主総会議事録・取締役会議事録等の作成、新株予約権原簿、商業登記まで承ります。条件がすべて決まっていない段階からご相談いただけます。全国オンラインで対応しています。
関連するご案内
本記事について
本記事は、2026年9月時点の会社法・租税特別措置法および経済産業省「スタートアップの成長に向けた インセンティブ報酬ガイダンス ― 人材獲得のためのストックオプション活用術 ―」(2025年2月)・同省「ストックオプション税制」をもとに作成しています。法令や実務の取扱いは変更されることがあります。会社法上の手続と登記については司法書士、税務・株価算定・会計についてはそれぞれの専門家へご相談ください。
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