譲渡制限株式の譲渡を会社が承認しないとどうなる?買取りの流れと期限を図解

結論
株式の譲渡を会社が承認しなかったときの扱いは、承認を求めた人が、「承認しないなら、会社か会社が指定する人に買い取ってほしい」とまで請求していたかどうかで決まります(会社法138条)。
① 買取りまで請求していた場合
会社は、原則としてその株式を買い取らなければなりません。ただし、株式の全部または一部について、会社に代わって買い取る人(指定買取人)を指定することもできます(会社法140条)。法律で定められた期間内に、会社または指定買取人から買取りの通知がない場合などには、会社は原則として譲渡を承認したものとみなされます(会社法145条)。
② 承認だけを請求していた場合
会社に買い取る義務は生じません。株式を譲り受けた人は、会社の承認を受けるなどの場合を除き、株主名簿の名義の書換えを会社に請求できません(会社法134条)。
不承認の後は「買取りまで請求していたか」で分かれる
会社が承認しないと決めた後の流れは、承認を求めた人が、そのときに何を請求していたかで決まります。
譲渡制限株式とは、譲渡によってその株式を取得することについて、会社の承認が必要とされている株式です(会社法2条17号)。発行する株式の全部に譲渡制限を付けている会社は、一般に「非公開会社」と呼ばれます(会社法の条文では「公開会社でない株式会社」と表現されています)。
たとえば、株主Aが自分の株式をBへ譲り渡したい場合、Aは会社に対して、Bが株式を取得することを承認するかどうか決めるよう請求できます(会社法136条)。Bが株式をすでに取得した後であれば、B(株式取得者)の側から請求することもできます(会社法137条1項)。ただし、Bから請求するときは、原則として、株主名簿に株主として記載されているA(Aが亡くなっているときは、その相続人など)と共同で請求しなければなりません(同条2項。例外は会社法施行規則24条)。以下では、承認を求めた株主や株式取得者をまとめて「請求者」といいます。
この請求の際、請求者は「承認しない場合には、会社または指定買取人が買い取ることを請求する」旨をあわせて明らかにすることができます(会社法138条1号ハ・2号ハ)。この請求をしておけば、会社がBの取得を承認しないと決めたときは、会社または指定買取人が株式を買い取る手続に進みます(会社法140条)。期間内に買取りの通知がない場合などには、会社は原則として、Bによる株式の取得を承認したものとみなされます(会社法145条)。会社が承認しないと決めた後の流れは、この請求をしていたかどうかで、次の図のように分かれます。
- 会社に買い取る義務は生じない
- Bは、会社の承認を受けるなどの場合を除き、株主名簿の名義の書換えを会社に請求できない(134条)
- 会社は原則として買い取らなければならない。全部または一部について指定買取人を指定することもできる(140条)
- 期間内に買取りの通知がない場合などは、承認したものとみなされる(145条ほか)
買取りまで請求されているときに会社が負う義務は、次の条文に定められています。1項で会社に買取りを義務づけ、4項で、会社の代わりに株式を買い取る人(指定買取人)を指定できるとしています。
会社法140条(株式会社又は指定買取人による買取り)1項・4項
株式会社は、第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求を受けた場合において、第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をしない旨の決定をしたときは、当該譲渡等承認請求に係る譲渡制限株式(以下この款において「対象株式」という。)を買い取らなければならない。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 対象株式を買い取る旨
二 株式会社が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類及び種類ごとの数)4 第一項の規定にかかわらず、同項に規定する場合には、株式会社は、対象株式の全部又は一部を買い取る者(以下この款において「指定買取人」という。)を指定することができる。
つまり、買取りまで請求されている場合、会社は「承認しない」と決めるだけで手続を終えることはできません。会社自身が買い取るのが原則で、全部または一部について指定買取人に買い取らせることもできます。いずれの場合も、期限内に手続を進める必要があります。
会社法は、会社の承認を受けないまま株式を譲り渡したときに、その譲渡が当事者の間で当然に無効になるとは定めていません。会社法が定めているのは、会社の承認を受けるなどの場合を除き、譲り受けた人が株主名簿の名義の書換えを会社に請求できないこと(会社法134条)と、株式を取得した人が後から会社に承認を求められること(137条)です。当事者間の契約の効力など個別の問題は、弁護士へご相談ください。
図解|承認請求から買取りまでの期限(2週間・40日・10日・20日)
期限は「何日か」だけでなく、誰が・何を・どの日から数えて行うのかをセットで確認します。
図に出てくる「供託」とは、法律の定めにより、金銭などを法務局などの供託所に預けて保管してもらう手続です(供託法1条)。この記事の場面では、買取代金に充てる予定のお金を、会社の本店所在地の供託所に預けます。以下に出てくる「供託を証する書面」とは、供託したことを証明する書面のことです。
請求者が承認と買取りを請求してから売買価格が決まるまでの流れを、期限とあわせて図にすると、次のとおりです。
買い取るのは、会社自身か、会社が指定する指定買取人です。次の2つは、順番に行う手続ではありません。
なお、会社法140条4項は、指定買取人を、対象の株式の全部または一部について指定できると定めています。
- 1株主総会の特別決議で、買い取ることと株式数を決める
- 2一株当たり純資産額×株式数の金額を供託する
- 3請求者へ買取りを通知し、供託を証する書面を交付する
- 1会社が指定買取人を指定する
- 2指定買取人が、一株当たり純資産額×株式数の金額を供託する
- 3指定買取人が請求者へ通知し、供託を証する書面を交付する
- 会社が不承認の通知の日から40日以内に買取りの通知をしないと、会社は承認したものとみなされます。ただし、指定買取人が不承認の通知の日から10日以内に通知をした場合は除かれます(会社法145条2号)。
- 期間内に通知をしても、その期間内に供託を証する書面を交付しなかったときも、承認したものとみなされます(会社法施行規則26条1号・2号)。
期限を過ぎた場合の扱いは、次の条文に定められています。
会社法145条(株式会社が承認をしたとみなされる場合)
次に掲げる場合には、株式会社は、第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をする旨の決定をしたものとみなす。ただし、株式会社と譲渡等承認請求者との合意により別段の定めをしたときは、この限りでない。
一 株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の規定による請求の日から二週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百三十九条第二項の規定による通知をしなかった場合
二 株式会社が第百三十九条第二項の規定による通知の日から四十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百四十一条第一項の規定による通知をしなかった場合(指定買取人が第百三十九条第二項の規定による通知の日から十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百四十二条第一項の規定による通知をした場合を除く。)
三 前二号に掲げる場合のほか、法務省令で定める場合
出典:会社法145条|e-Gov法令検索。3号の「法務省令で定める場合」は、会社法施行規則26条が定めています(供託を証する書面を期間内に交付しなかった場合など)。
条文中の「第百三十九条第二項の規定による通知」は承認するかどうかの決定の通知(不承認の通知)、「第百四十一条第一項の規定による通知」は会社による買取りの通知、「第百四十二条第一項の規定による通知」は指定買取人による買取りの通知です。
不承認・会社による買取り・指定買取人の指定は誰が決める?
「承認しない」と決めることと、「会社自身が買い取る」と決めることは、別々の決定です。
定款に別段の定めがない場合、それぞれを決める機関は、次の表のとおりです。
| 決めること | 決める機関 |
|---|---|
| 譲渡を承認するかどうか | 取締役会を置いていない会社:株主総会 取締役会設置会社:取締役会 (会社法139条1項。定款で別の機関を定めることもできます) |
| 会社自身が買い取ること・買い取る株式数 | 株主総会の特別決議 (会社法140条2項・309条2項1号。取締役会設置会社でも株主総会で決めます) |
| 指定買取人を指定すること | 取締役会を置いていない会社:株主総会の特別決議 取締役会設置会社:取締役会 (会社法140条5項・309条2項1号。定款で別の定めを置くこともできます) |
表の「特別決議」とは、原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で決める決議です(会社法309条2項。定款で要件を変えられる部分があります)。
会社自身が買い取ることを決める株主総会では、請求者は、原則として議決権を行使できません。ただし、請求者以外の株主の全部が、その株主総会で議決権を行使できない場合は除かれます(会社法140条3項)。
表で、会社自身が買い取ることの欄にだけ「定款で別の定め」を書いていないのは、140条2項(会社自身による買取りの決定)に、139条1項や140条5項のような「定款に別段の定めがある場合は、この限りでない」という規定が置かれていないためです。
株主総会・取締役会の決議や議事録の作成は、株主総会・取締役会の運営支援でご案内しています。
供託した金額が、そのまま最終的な売買価格になるとは限らない
買取りの通知をしようとするときに一定額を供託しますが、売買価格は別に決まります。
供託から売買価格が決まるまでの関係を図にすると、次のとおりです。
会社(指定買取人が買い取る場合は指定買取人)は、買取りの通知をしようとするときは、一株当たり純資産額に買い取る株式数を掛けた金額を、会社の本店所在地の供託所に供託し、供託を証する書面を請求者に交付しなければなりません(会社法141条2項・142条2項)。
ここでいう一株当たり純資産額は、会社法施行規則25条が定める方法で、買取りの通知の日を基準に算定します。同条は、資本金・準備金・剰余金などの合計から自己株式の帳簿価額などを差し引いた額を、自己株式を除いた発行済株式の総数で割る方法を定めています(種類株式発行会社などの調整があります)。貸借対照表の純資産の部の合計額を、発行済株式の総数で単純に割った金額とは一致しないことがあります。
売買価格は、まず当事者の協議で決める
売買価格は、会社(または指定買取人)と請求者との協議で決めます(会社法144条1項)。これとは別に、会社(または指定買取人)と請求者のどちらからでも、買取りの通知があった日から20日以内に、裁判所へ売買価格の決定を申し立てることができます(同条2項)。この20日は、協議を続けている間も進みます。裁判所は、承認の請求をした時点の会社の資産状態その他一切の事情を考慮して決めます(同条3項)。
20日以内に申立てがなく、その期間内に協議もまとまらなかった場合は、一株当たり純資産額に株式数を掛けた金額が売買価格になります(同条5項)。売買価格が確定すると、供託した金額までは、売買代金を支払ったものとして扱われます(同条6項)。
供託を証する書面の交付を受けた請求者は、交付を受けた日から1週間以内に、対象の株式の株券を会社の本店所在地の供託所に供託し、遅滞なく、その旨を会社(または指定買取人)に通知しなければなりません。期間内に株券を供託しなかったときは、会社(または指定買取人)は売買契約を解除できます(会社法141条3項・4項、142条3項・4項)。
会社自身が買い取るときは「分配可能額」の範囲内で
会社自身が買い取る場合、会社に買取代金以上の預金があるだけでは、買い取れるとは判断できません。
この場面で会社自身が株式を買い取るときは、株主に渡すお金の額が、会社法で定められた上限(分配可能額)に収まっている必要があります。会社法461条1項1号は、不承認の場合の買取請求に応じて会社が自社の株式を買い取るとき、株主へ交付する金銭等の帳簿価額の総額が、その買取りの効力が生じる日の分配可能額を超えてはならないと定めています(会社法461条1項)。
分配可能額は、会社の預金残高とは別に、貸借対照表の数字から計算します。預金との関係を図にすると、次のとおりです。
この制限は会社自身が買い取る場合のものです。指定買取人が買い取る場合は、会社が株主に代金を支払うわけではないため、461条1項1号の対象にはなりません。
分配可能額の計算方法は、分配可能額とは?計算方法と会社法上の場面で解説しています。
会社自身が買い取る可能性がある場合は、承認しないと決める前の段階から、分配可能額の見込みもあわせて確認しておくことが望ましいと考えています。分配可能額が足りない見込みのときは、指定買取人を指定する方法(140条4項)もあわせて検討していただくようご案内することがあります。
司法書士として実際に確認しているポイント
株式の譲渡承認と不承認の場面で、当事務所ができるだけ確認するようにしている事項の例です。
会社の状況によっては、ここに挙げていない事項の確認が必要になることもあります。
買取りまで請求しているか、いつ届き、いつ通知したか
請求書に買取りを求める旨(138条)が書かれているか、会社に届いた日、不承認の通知の日を確認します。取締役会を置いていない会社では、原則として株主総会で承認するかどうかを決めます。請求の日から2週間以内に通知しないと、原則として承認したものとみなされるため、株主総会の日程を早めに確認します。
特別決議・供託・通知・分配可能額
株主総会の特別決議(請求者の議決権の扱いを含む)、供託、買取りの通知と供託を証する書面の交付が40日以内に収まるか、分配可能額の範囲内かを確認します。
当事務所で会社の記録を確認すると、過去の株式譲渡について、承認の決議や議事録が見当たらないケースに出会うことがあります。株式の譲渡を承認したときも、承認しなかったときも、後から経緯を確認できるよう、議事録まで残しておくことが大切だと考えています。過去の株式譲渡を定款・株主名簿・議事録までさかのぼって確認する場合は、会社記録DDとしてお受けすることもあります。
M&Aに伴う株式譲渡の会社法手続は、M&A・事業承継・組織再編支援でもご案内しています。
よくあるご質問
- 会社が「承認しない」と通知した後、期限内に買取りの手続をしなければどうなりますか。
-
買取りまで請求されていた場合、会社が不承認の通知の日から40日以内に買取りの通知をしないと、会社は原則として譲渡を承認したものとみなされます。ただし、指定買取人が不承認の通知の日から10日以内に買取りの通知をしたときは除かれます(会社法145条2号)。また、会社または指定買取人が期間内に通知をしても、その期間内に供託を証する書面を交付しなかったときも、承認したものとみなされます(会社法施行規則26条1号・2号)。期間は、定款でこれより短く定められていることがあります。
- 買取りまで請求した後で、請求を撤回することはできますか。
-
会社法143条では、会社から買取りの通知を受けた後は、会社の承諾を得た場合に限り撤回できるとされています。指定買取人から通知を受けた後も同じで、指定買取人の承諾が必要です(会社法143条1項・2項)。同条が承諾を必要としているのは、これらの通知を受けた後の撤回です。通知を受ける前の撤回について、同条は承諾を求めていません。
まとめ
- 不承認の後の流れは、買取りまで請求していたかで分かれる買取りまで請求していた場合、会社は原則として株式を買い取らなければなりません(指定買取人を指定することもできます)。承認だけを請求していた場合は、会社に買い取る義務はありません。
- 期限は、不承認の通知の日から会社40日・指定買取人10日期間内に会社または指定買取人から買取りの通知がない場合や、通知をしても期間内に供託を証する書面を交付しなかった場合などには、会社は原則として承認したものとみなされます。
- 会社自身が買い取るときは、分配可能額も確認株主総会の特別決議、供託、売買価格の協議に加えて、買取りの代金が分配可能額の範囲内に収まるかも確認が必要です。
主な根拠法令
- 会社法2条17号(譲渡制限株式の定義)
- 会社法117条7項(株券発行会社の定義)
- 会社法134条(株式取得者による名義書換の制限)
- 会社法136条(株主からの承認の請求)・137条(株式取得者からの承認の請求)
- 会社法138条(譲渡等承認請求の方法)
- 会社法139条(譲渡等の承認の決定等)
- 会社法140条(株式会社又は指定買取人による買取り)
- 会社法141条(株式会社による買取りの通知)・142条(指定買取人による買取りの通知)
- 会社法143条(譲渡等承認請求の撤回)
- 会社法144条(売買価格の決定)
- 会社法145条(株式会社が承認をしたとみなされる場合)
- 会社法309条2項1号(特別決議)
- 会社法461条1項1号(配当等の制限)
- 会社法施行規則24条(株式取得者からの承認の請求)・25条(一株当たり純資産額)・26条(承認したものとみなされる場合)
- 供託法1条
株式譲渡の承認・不承認の手続についてご相談ください
定款、株主構成、承認機関、株券の有無などを確認し、株式の譲渡承認や買取りに必要となる会社法上の手続と議事録を整理します。
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本記事について
本記事は、2026年(令和8年)10月時点の会社法・会社法施行規則などをもとに、譲渡制限株式の譲渡を会社が承認しない場合の一般的な手続を説明したものです。個別の株式譲渡契約、株主間の紛争、売買価格をめぐる交渉・裁判手続については弁護士に、株価の評価・税務・会計上の判断については税理士・公認会計士等にご相談ください。
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