会社法施行規則第118条とは?事業報告の記載事項を司法書士が解説

結論
会社法施行規則第118条は、株式会社が作成する事業報告について、すべての株式会社に共通する基本的な記載事項を定めた規定です。
第1号から第5号までがありますが、5項目を機械的に並べるのではありません。会社の公開性、機関設計、決議の有無、完全子会社及び親会社等との取引の状況を確認し、各号の適用要件に該当する事項を記載します。
会社法第435条と事業報告の位置づけ
株式会社は、公開会社か非公開会社かを問わず、各事業年度について事業報告及びその附属明細書を作成しなければなりません。
株式会社が事業年度の終了後に作成する法定書類は、貸借対照表や損益計算書などの計算書類だけではありません。会社法第435条第2項は、計算書類に加えて、事業報告及びこれらの附属明細書の作成を求めています。
会社法第435条第2項
株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。
計算書類と事業報告は役割が異なります
計算書類は、主として会社の資産、負債、純資産、収益、費用、利益又は損失など、財産及び損益の状況を示す書類です。
これに対し、事業報告は、計算書類だけでは十分に示されない会社の状況を説明する書類です。会社に生じた重要な出来事、内部統制システム、会社の支配に関する基本方針、一定の完全子会社及び親会社等との取引などが問題となります。
第118条第1号は、計算書類、その附属明細書及び連結計算書類の内容となる事項を必要的記載事項から除外しています。ただし、同じ事項に事業報告で言及すること自体が禁止されているわけではありません。数値を繰り返すのではなく、必要に応じて、その背景や会社の状況を補足するという関係です。
会社法施行規則第118条の全文と全体像
第118条は、事業報告の基本的な記載事項を、第1号から第5号までに分けて定めています。
会社法施行規則第118条(全文)
事業報告は、次に掲げる事項をその内容としなければならない。
当該株式会社の状況に関する重要な事項(計算書類及びその附属明細書並びに連結計算書類の内容となる事項を除く。)
法第三百四十八条第三項第四号、第三百六十二条第四項第六号、第三百九十九条の十三第一項第一号ロ及びハ並びに第四百十六条第一項第一号ロ及びホに規定する体制の整備についての決定又は決議があるときは、その決定又は決議の内容の概要及び当該体制の運用状況の概要
株式会社が当該株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針(以下この号において「基本方針」という。)を定めているときは、次に掲げる事項
基本方針の内容の概要
次に掲げる取組みの具体的な内容の概要
当該株式会社の財産の有効な活用、適切な企業集団の形成その他の基本方針の実現に資する特別な取組み
基本方針に照らして不適切な者によって当該株式会社の財務及び事業の方針の決定が支配されることを防止するための取組み
ロの取組みの次に掲げる要件への該当性に関する当該株式会社の取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の判断及びその理由(当該理由が社外役員の存否に関する事項のみである場合における当該事項を除く。)
当該取組みが基本方針に沿うものであること。
当該取組みが当該株式会社の株主の共同の利益を損なうものではないこと。
当該取組みが当該株式会社の会社役員の地位の維持を目的とするものではないこと。
当該株式会社(当該事業年度の末日において、その完全親会社等があるものを除く。)に特定完全子会社(当該事業年度の末日において、当該株式会社及びその完全子会社等(法第八百四十七条の三第三項の規定により当該完全子会社等とみなされるものを含む。以下この号において同じ。)における当該株式会社のある完全子会社等(株式会社に限る。)の株式の帳簿価額が当該株式会社の当該事業年度に係る貸借対照表の資産の部に計上した額の合計額の五分の一(法第八百四十七条の三第四項の規定により五分の一を下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超える場合における当該ある完全子会社等をいう。以下この号において同じ。)がある場合には、次に掲げる事項
当該特定完全子会社の名称及び住所
当該株式会社及びその完全子会社等における当該特定完全子会社の株式の当該事業年度の末日における帳簿価額の合計額
当該株式会社の当該事業年度に係る貸借対照表の資産の部に計上した額の合計額
当該株式会社とその親会社等との間の取引(当該株式会社と第三者との間の取引で当該株式会社とその親会社等との間の利益が相反するものを含む。)であって、当該株式会社の当該事業年度に係る個別注記表において会社計算規則第百十二条第一項に規定する注記を要するもの(同項ただし書の規定により同項第四号から第六号まで及び第八号に掲げる事項を省略するものを除く。)があるときは、当該取引に係る次に掲げる事項
当該取引をするに当たり当該株式会社の利益を害さないように留意した事項(当該事項がない場合にあっては、その旨)
当該取引が当該株式会社の利益を害さないかどうかについての当該株式会社の取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会。ハにおいて同じ。)の判断及びその理由
社外取締役を置く株式会社において、ロの取締役の判断が社外取締役の意見と異なる場合には、その意見
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| 号 | 記載事項 | 対象となる場合 |
|---|---|---|
| 第1号 | 株式会社の状況に関する重要な事項 | 会社の状況について重要な事項がある場合 |
| 第2号 | 内部統制システム | 体制整備について決定又は決議がある場合 |
| 第3号 | 会社の支配に関する基本方針等 | 基本方針を定めている場合 |
| 第4号 | 特定完全子会社 | 特定完全子会社がある場合 |
| 第5号 | 親会社等との一定の取引 | 会社計算規則第112条第1項の注記を要する一定の取引がある場合 |
第1号は、株式会社の状況に関する重要事項を広く受け止める規定です。第2号から第5号は、それぞれ「決定又は決議がある」「基本方針を定めている」「特定完全子会社がある」「一定の親会社等との取引がある」という適用要件を確認します。
したがって、事業報告を作成するときは、5つの見出しを毎年そのまま流用するのではなく、当該事業年度の事実関係を各号に当てはめる作業が必要です。
第1号|株式会社の状況に関する重要な事項
第1号は、計算書類等の内容となる事項を除き、株主が会社の状況を理解するうえで重要な事項を事業報告に記載するための規定です。
会社法施行規則第118条第1号
当該株式会社の状況に関する重要な事項(計算書類及びその附属明細書並びに連結計算書類の内容となる事項を除く。)
「重要な事項」の一律の数値基準はありません
会社法施行規則第118条第1号には、「重要な事項」を判断する一律の数値基準や、すべての会社に共通する具体的な記載事項の列挙はありません。
会社の規模、事業内容、株主構成、会社の財務又は事業への影響などを踏まえ、その情報がなければ株主が会社の状況を適切に理解しにくくならないか、という視点で検討します。
記載を検討することがある例
- 重要な新規事業の開始又は主要事業からの撤退
- 重要な契約の締結、終了又は重大な条件変更
- 事業譲渡、合併、会社分割、株式交換その他の組織再編
- 企業買収、重要な設備投資又は資金調達
- 会社経営に大きな影響を及ぼす災害、事故、訴訟又は行政処分
これらは法令上の一律の列挙ではなく、会社の状況に応じて検討対象となり得る例です。
非公開会社でも、公開会社向けの項目を実務上の参考にすることがあります
非公開会社には、第120条から第124条までの公開会社向けの記載事項が、そのまま適用されるわけではありません。
もっとも、実務上は、公開会社向けの記載事項や経団連ひな型の中項目を参照し、その会社にとって重要なものを第118条第1号として記載することがあります。
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| 検討項目の例 | 非公開会社での考え方 |
|---|---|
| 事業の経過及び成果、対処すべき課題、主要な事業内容 | 当該会社の状況を理解するうえで重要であれば、第118条第1号に基づく記載を検討します。 |
| 重要な資金調達、設備投資、事業の譲受け又は組織再編 | 計算書類の数値だけでは分からない背景、目的又は影響を補足する必要があるかを確認します。 |
| 重要な親会社・子会社の状況、主要な借入先及び借入額 | 会社の事業又は財務への影響が重要であるかを個別に判断します。 |
| 直前事業年度までの財産・損益の推移 | 非公開会社の一律の必要的記載事項ではありませんが、会社の状況を説明するうえで有用かを検討します。 |
| その他、株主の判断に影響する重要事項 | 前年度のひな型にない事項であっても、当該事業年度に重要であれば記載対象となり得ます。 |
第1号は、前年度の文章をそのまま残すための規定ではありません。新しい事項を追加するだけでなく、重要性を失った事項や、すでに事実と合わなくなった説明を削除・更新することも必要です。
第2号|内部統制システムに関する事項
内部統制システムについて会社法上の決定又は決議がある場合は、その内容の概要と、当該事業年度における運用状況の概要を記載します。
会社法施行規則第118条第2号
法第三百四十八条第三項第四号、第三百六十二条第四項第六号、第三百九十九条の十三第一項第一号ロ及びハ並びに第四百十六条第一項第一号ロ及びホに規定する体制の整備についての決定又は決議があるときは、その決定又は決議の内容の概要及び当該体制の運用状況の概要
機関設計ごとに、対応する条文が異なります
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| 機関設計 | 体制整備の根拠条文 | 決定・決議の義務 |
|---|---|---|
| 取締役会を設置していない会社 | 会社法第348条第3項第4号(取締役が二人以上ある場合) | 大会社であるときは決定義務があります(同条第4項)。 |
| 取締役会設置会社 | 会社法第362条第4項第6号 | 大会社である取締役会設置会社は決議義務があります(同条第5項)。 |
| 監査等委員会設置会社 | 会社法第399条の13第1項第1号ロ・ハ | 大会社であるかどうかを問わず、取締役会に決定義務があります(同条第2項)。 |
| 指名委員会等設置会社 | 会社法第416条第1項第1号ロ・ホ | 大会社であるかどうかを問わず、取締役会に決定義務があります(同条第2項)。 |
対象会社は「大会社だけ」ではありません
体制整備の決定・決議が義務付けられるのは、上の表のとおり大会社又は委員会型の会社です。もっとも、第118条第2号は「決定又は決議があるとき」を要件としています。決定義務がない会社であっても、会社法上の内部統制システムについて任意に決定又は決議していれば、第118条第2号の記載対象となります。
「決定内容」と「運用状況」を分けます
内部統制システムに関する記載の組み立て
- 01決定又は決議の内容現在有効な内部統制システムの内容を、実際の決議に沿って要約します。
- 02当該年度の変更事業年度中に複数回変更した場合は、最終的な内容と主な変更点を確認します。
- 03運用状況の概要当該年度に実施した主要な取組みを、客観的に分かるように記載します。
運用状況としては、コンプライアンス研修、リスク管理会議、内部通報制度、取締役会への報告、子会社からの定期報告、内部監査及び監査役等への情報提供などが考えられます。
ここで求められるのは、内部統制システムの「有効性評価」そのものではなく、客観的な運用状況の概要です。「適切に運用しました」と抽象的に結論づけるだけでなく、実施した取組みを確認します。
事業報告の記載が、取締役会議事録、社内規程、研修記録、内部監査報告その他の実際の運用資料と一致しているかを確認してください。
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第3号|会社の支配に関する基本方針等
会社が、財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針を定めている場合に、その内容及び具体的な取組み等を記載します。
この規定は買収防衛策と関連して取り上げられることが多いものの、条文上の「基本方針」と、基本方針を実現するための取組み又は不適切な者による支配を防止する取組みは、区別して整理します。
記載する三つの事項
- 基本方針の内容の概要
会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者はどのような者であるべきか、という基本的な考え方です。 - 具体的な取組みの概要
基本方針の実現に資する特別な取組みと、不適切な者による支配を防止する取組みを区別します。 - 取締役又は取締役会の判断及び理由
取組みが基本方針に沿い、株主の共同の利益を損なわず、会社役員の地位の維持を目的としないことについての判断及び理由です。
基本方針には、上場していることの意義、中長期的な経営方針、企業価値を維持・向上させるための考え方などが背景として含まれることがあります。ただし、会社ごとの基本方針の内容に即して説明する必要があります。
第3号は、すべての株式会社に基本方針の策定を義務付ける規定ではありません。基本方針を定めていない会社が、事業報告のためだけに新たな方針を作成する必要はありません。
第4号|特定完全子会社に関する事項
一定の帳簿価額基準を満たす完全子会社等がある場合は、その名称、住所及び判定に用いる金額を記載します。
判定基準
事業年度末日において、当該株式会社及びその完全子会社等が保有する、ある完全子会社等(株式会社に限ります。)の株式の帳簿価額の合計額が、当該株式会社の当該事業年度に係る貸借対照表の資産の部に計上した額の合計額の5分の1を超える場合、その完全子会社等は原則として特定完全子会社に該当します。
定款で5分の1を下回る割合を定めている場合は、その割合を用います。また、事業年度末日に完全親会社等がある会社は、第4号の対象から除かれます。
判定例
A株式会社の資産合計額が50億円で、定款に別の割合の定めがない場合、基準額は10億円です。
- 対象株式の帳簿価額の合計額が12億円:10億円を超えるため、原則として該当
- 対象株式の帳簿価額の合計額が10億円:条文は「超える」と定めるため、この基準だけでは非該当
制度の趣旨
特定完全子会社の情報は、会社法第847条の3に定める、いわゆる多重代表訴訟の対象となり得る完全子会社を株主が把握するための手掛かりとなります。制度は、株主による請求の便宜を図る一方、不適切な請求による会社及び完全子会社側の負担を軽減することも意識しています。
事業報告の判定は、事業年度末日の貸借対照表の数値によります。一方、特定責任追及の訴えの「特定責任」該当性は、責任の原因となった事実が生じた日を基準時とし、分母も最終完全親会社等の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額とされています(会社法第847条の3第4項)。基準時も算定方法も異なるため、事業報告への記載の有無だけで訴えの要件が確定するわけではありません。
- 売上高や子会社の総資産額ではなく、株式の帳簿価額を用いる
- 会社単体の保有分だけでなく、完全子会社等の保有分も合算する
- 「5分の1以上」ではなく「5分の1を超える」である
- 定款により基準割合が引き下げられていないか確認する
帳簿価額及び資産合計額は会計上の数値です。具体的な数値及び会計処理については、税理士、公認会計士又は会計監査人等へご確認ください。
根拠条文
第5号|親会社等との取引に関する事項
親会社等との一定の取引について、会社の利益を害さないために留意した事項、取締役又は取締役会の判断及び理由等を記載します。
すべての親会社等との取引が対象になるわけではありません。個別注記表において、会社計算規則第112条第1項の注記を要する取引であることが前提です。また、会社と第三者との取引でも、会社と親会社等との間の利益が相反するものが含まれます。
会社計算規則第112条第1項ただし書は、会計監査人設置会社以外の株式会社について、同項第4号から第6号まで及び第8号の事項を省略することができると定めています。さらに、会計監査人設置会社以外の非公開会社では、そもそも個別注記表に「関連当事者との取引に関する注記」の項目を表示することを要しません(同規則第98条第2項第1号)。会社区分によって記載先が変わるため、最初に次の表で整理します。
最初に記載先を整理します
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| 会社の区分 | 個別注記表の取扱い | 第118条第5号イ~ハの記載先 |
|---|---|---|
| 会計監査人を設置していない非公開会社 | 会社計算規則第98条第2項第1号により、「関連当事者との取引に関する注記」の項目を表示することを要しません。 | 原則として第5号の対象外です。ただし、取引自体が会社の状況に関する重要事項であれば、第1号による記載を別途検討します。 |
| 会計監査人を設置していない公開会社 | 第112条第1項ただし書により、同項第4号から第6号まで及び第8号の事項を省略できます。 | 省略がなければ事業報告(第118条第5号)。省略した事項があれば事業報告の附属明細書(第128条第3項)。 |
| 会計監査人設置会社 | 第112条第1項ただし書による省略は認められません。 | 注記を要する取引は、事業報告(第118条第5号)の対象です。 |
二つの附属明細書を混同しないでください
- 計算書類に係る附属明細書:公開会社が個別注記表で省略した会計上の注記事項を、会社計算規則第117条第4号により記載します。
- 事業報告の附属明細書:ただし書により省略した事項がある取引について、第118条第5号イからハまでの事項を、会社法施行規則第128条第3項により記載します。
第118条第5号は、会社計算規則第112条第1項ただし書により事項を省略する取引を対象から除き、第128条第3項は、そのような取引について事業報告の附属明細書への記載を求めています。対象事項の全部を省略した場合だけでなく、ただし書により省略した事項があるかを確認します。
記載する事項
- 会社の利益を害さないために留意した事項
取引条件の公正性を確保するために確認した事項などを記載し、該当事項がなければその旨を記載します。 - 会社の利益を害さないかについての判断及びその理由
取引条件、取引の必要性その他の事情を踏まえた取締役又は取締役会の判断を記載します。 - 社外取締役の異なる意見
社外取締役を置く会社で、取締役又は取締役会の判断と異なる意見がある場合は、その意見を記載します。
取締役会議事録との整合が重要です
取締役会設置会社における第5号ロの「判断」は、取締役会の判断を意味します。その「理由」は、結論だけではなく、当該決議の審議過程に即した内容となっているかを確認します。
社外取締役が異なる意見を有する場合は、その意見を事業報告へ記載するだけで終わらせるのではなく、取引条件又は取引の進め方を再検討すべき事情がないかも確認する必要があります。
確認の順序
- 会社法上の親会社等に該当する者がいるか
- 親会社等との取引又は利益相反が生じる第三者との取引があるか
- 会社計算規則第98条第2項により注記項目の表示が不要な会社か
- 第112条第1項・第2項により個別注記表への注記を要する取引か
- 第112条第1項ただし書により省略した事項があるか
- 事業報告、事業報告の附属明細書及び計算書類に係る附属明細書の記載先が整理されているか
- 取締役会議事録及び社外取締役の意見と整合しているか
関連当事者との取引に関する注記の要否、重要性及び具体的な会計処理について、当事務所では判断していません。税理士、公認会計士又は会計監査人等へご相談ください。
第118条だけでは事業報告の記載事項は確定しません
実際の事業報告では、第118条に加え、会社の公開性及び機関設計に応じた規定を確認する必要があります。
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| 会社の属性 | 第118条に加えて確認する主な規定 |
|---|---|
| 公開会社 | 第119条及び第120条から第124条まで(第121条の2を含みます。) |
| 会計参与設置会社 | 第125条 |
| 会計監査人設置会社 | 第126条 |
| 事業報告の附属明細書 | 第128条。第127条は現行法上削除されています。 |
「公開会社」と「上場会社」は同じではありません
会社法上の公開会社は、上場の有無ではなく、定款上の株式譲渡制限によって判断します。発行する全部又は一部の株式について譲渡制限がない会社は、非上場会社であっても公開会社に該当します。
経団連ひな型は、条文との対応を確認して使います
実務では、日本経済団体連合会の「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」を参考にすることがあります。
もっとも、同ひな型は、経済界全体の統一的なフォームではなく、各社の事情に応じて活用する参考資料です。また、ひな型の構成は、条文番号の順序と必ずしも同じではありません。
ひな型を利用するときは、「どの記載が第118条第1号なのか」「公開会社向けの第120条等なのか」「第126条又は第128条なのか」という条文との対応を確認します。前年度のひな型を機械的に流用するのではなく、現行法及び当該年度の事実関係と照合することが重要です。
有価証券報告書とは別の書類です
有価証券報告書提出会社では、事業報告の記載事項の一部が、有価証券報告書の「経理の状況」以外の記載事項と共通又は類似する場合があります。
ただし、根拠法令、対象会社、提出又は提供の相手方及び記載基準が異なる別の書類です。同じ事実を扱う箇所について、対象期間、基準日、対象範囲、用語及び数値等に不自然な不整合がないかを確認します。
事業報告は、作成した後の手続も確認します
第118条は、主として事業報告に何を記載するかを定める規定です。実際には、作成後の手続についても、会社の機関設計に応じた監査(会社法第436条)、取締役会設置会社における取締役会の承認(同条第3項)、取締役会設置会社における招集通知に際しての株主への提供(第437条)、定時株主総会への提出及び報告(第438条)を確認します。
備置きについては、各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書等を、定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社にあっては、2週間)前の日から5年間、本店に備え置く必要があります。支店には、その写しを同じ日から3年間備え置きます(計算書類等が電磁的記録で作成され、法務省令で定める措置をとっている場合を除きます。)。株主及び債権者は、営業時間内はいつでも、その閲覧等を請求することができます(会社法第442条)。
司法書士として実際に確認しているポイント
当事務所では、事業報告だけを切り離して確認するのではなく、定款、会社決議、株主総会関係書類及び登記との整合性を確認します。
1.会社の機関設計と適用条文
定款及び登記事項証明書等から、公開会社であるか、取締役会、監査役、監査役会、会計参与、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を設置しているかを整理します。
2.会社決議と事業報告の整合
内部統制システム、会社の支配に関する基本方針及び親会社等との取引について、取締役又は取締役会の決定・決議がある場合は、事業報告の記載と議事録の内容が一致しているかを確認します。
3.当該事業年度に行った手続との整合
増資、新株予約権の発行、役員変更、事業譲渡、合併、会社分割その他の組織再編を行った会社では、招集通知、事業報告、株主総会議事録、取締役会議事録及び商業登記に不自然な食い違いがないかを確認します。
種類株式を発行している会社では、複数の種類株主総会を同日に開催する場合の手続を含め、種類株主総会の要否も整理します。
4.前年原稿との比較ではなく、根拠資料との照合
前年の事業報告は有用な出発点ですが、それ自体が正しいとは限りません。定款、登記事項証明書、議事録、会計資料、社内規程、内部監査記録及び当該年度の重要案件一覧と照合します。
5.取締役の任期・選任手続とのつながり
定時株主総会で役員改選がある場合は、事業報告の役員に関する記載、招集通知及び登記の予定を一体で確認します。取締役の任期については、取締役の任期満了と重任登記の解説もご参照ください。
司法書士法人LSOでは、会社法上の手続及び登記との整合を確認します。計算書類、帳簿価額、関連当事者取引の注記その他の会計判断は、税理士、公認会計士又は会計監査人等との連携が必要です。
まとめ|第118条は要件と記載先を一つずつ確認する
会社法施行規則第118条は、事業報告の基本となる5項目を定めていますが、会社ごと・事業年度ごとの当てはめが必要です。
- 第1号は、計算書類等を除く株式会社の状況に関する重要事項を対象とします。
- 第2号から第5号は、決定・決議、基本方針、特定完全子会社又は一定の親会社等との取引があるかを確認します。
- 公開会社では第119条及び第120条から第124条まで、会計参与設置会社では第125条、会計監査人設置会社では第126条を確認します。
- 第5号では、事業報告、事業報告の附属明細書及び計算書類に係る附属明細書の記載先を混同しないことが重要です。
- 経団連ひな型や前年原稿は参考資料であり、現行法、機関設計及び当該年度の事実と照合して使用します。
よくあるご質問
- 非公開会社でも事業報告を作成しなければなりませんか。
-
はい。会社法第435条第2項は、公開会社か非公開会社かを問わず、株式会社に各事業年度に係る事業報告の作成を求めています。ただし、具体的な記載事項は、会社の公開性及び機関設計等によって異なります。
- 第118条の5項目をすべて毎年記載する必要がありますか。
-
いいえ。第2号から第5号は、それぞれ適用要件があります。該当事項があるかを確認し、該当する場合に必要な内容を記載します。
- 内部統制システムの記載は大会社だけが対象ですか。
-
いいえ。体制整備の決定・決議が義務付けられるのは大会社又は監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社ですが、第118条第2号は「決定又は決議があるとき」を要件としています。義務がない会社でも、任意に決定又は決議していれば記載対象となります。
- 非公開会社は経団連ひな型の項目をすべて記載する必要がありますか。
-
いいえ。経団連ひな型は法定の統一様式ではありません。非公開会社では、公開会社向けの項目も参考にしつつ、自社にとって重要な事項かを第118条第1号の観点から検討します。
- 事業報告は定時株主総会で承認を受けますか。
-
事業報告は、会社法第438条第3項に基づき、定時株主総会で内容を報告します。事業報告自体について株主総会の承認決議を受けるものではありません。計算書類は原則として承認対象ですが、会社計算規則第135条所定の要件を満たす会計監査人設置会社では、会社法第439条により報告のみとなる場合があります。
- 会社法上の公開会社は上場会社のことですか。
-
同じではありません。定款上、発行する全部又は一部の株式に譲渡制限がない会社は、非上場会社でも会社法上の公開会社に該当します。
- 事業報告を法務局へ提出しますか。
-
通常、事業報告そのものを商業登記の添付書類として法務局へ提出することはありません。ただし、事業報告に関連する役員変更、増資、組織再編等について、別途登記が必要となる場合があります。
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参考文献
江頭憲治郎・弥永真生編『会社法コンメンタール10 計算等〔1〕』(商事法務)
弥永真生『コンメンタール会社法施行規則・電子公告規則〔第3版〕』(商事法務)
田中亘監修『会社法関係法務省令 逐条実務詳解』(清文社)
片山智裕・金谷利明「会社法に基づく計算関係の実務の要点―第7回 事業報告―」『資料版商事法務』460号(2022年7月)
参考資料
一般社団法人日本経済団体連合会「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日公表、2023年1月18日更新)
本記事について
本記事は、2026年8月時点の法令及び公表資料等をもとに作成しています。法令や実務の取扱いは変更されることがあります。具体的な手続にあたっては最新の情報をご確認のうえ、会社法上の手続及び登記については司法書士、税務については税理士、会計については公認会計士又は会計監査人等へご相談ください。



