累積投票とは?通常の取締役選任との違いを図解|定款の「累積投票によらない」も解説

累積投票とは 通常の取締役選任との違いを図解 定款の累積投票によらないも解説
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結論

累積投票とは、少数株主の意見を取締役の選任に反映させやすくするための制度です。

通常の取締役選任では、多数派株主が推薦する候補者だけで取締役の席を占めることができます。一方、累積投票では、株主が持つ議決権数に選任する取締役の人数を掛けた票を持ち、特定の候補者に集中して投票できるため、少数株主が推薦する候補者も選任される可能性が高まります。

注意点

累積投票は、2人以上の取締役を選任する株主総会で、株主総会の日の5日前までに株主から請求があったときに行われます。また、定款に「累積投票によらない」とする規定がある会社では、株主は累積投票を請求できません。

1.例:株主2人の会社で、4人の候補者から取締役3人を選ぶ

通常の投票と累積投票の違いは、同じ株主・同じ候補者で比べると分かりやすくなります。次の例の株主総会で考えてみましょう。

例:ある会社の株主総会

  • 株主は、山田さん(7株・議決権の70%)と田中さん(3株・議決権の30%)の2人
  • 今回の株主総会で選任する取締役は3人で、候補者はA・B・C・Dの4人
  • 山田さんは候補者A・B・Cを推し、田中さんは候補者Dを推している

※説明のため、株式はすべて普通株式で、1株につき1個の議決権があり、2人とも株主総会に出席して議決権を行使するものとします。また、候補者A・B・C・Dの4人は、いずれも取締役の候補者として適法に株主総会に提案されているものとし、監査等委員会設置会社ではない株式会社を想定しています。

ここでいう「3人」は、今回の株主総会で選任する人数のことです。定款で取締役の人数を3人と定めている、という意味ではありません。

候補者Dは、田中さんが推薦した候補者です。累積投票は、提案された候補者の中から選ぶ方法で、株主が推す人を候補者に加える手続(株主提案)とは別のものです。株主が自分の推す候補者を議案として出す方法は、株主提案権を解説したコラムで説明しています。

2.通常の投票では、少数株主である田中さんが推す候補者Dは選ばれない

ここでは、累積投票によらない選び方を、便宜上「通常の投票」と呼びます。この例では、議長が「候補者Aに賛成の方」「候補者Bに賛成の方」というように、候補者1人ずつ選任の賛否を採決します。

取締役などの役員を選任する決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数の賛成で成立します(会社法341条。定款で、出席の要件を3分の1以上の割合まで下げたり、賛成の割合を上げたりすることもできます)。採決の流れは、次の図1のとおりです。

通常の取締役選任の図。山田さん7株、田中さん3株で4人の候補者から3人を選ぶ。候補者A・B・Cは賛成7票で選任され、田中さんが推す候補者Dは賛成3票で選任されない。
図1:候補者1人ずつ賛否を採決すると、田中さんが推すDへの賛成は3票にとどまります(図をタップすると拡大します)。

山田さんは議決権の70%を持っているため、A・B・Cは山田さんの賛成だけで選任されます。田中さんが推すDへの賛成は議決権の30%にとどまり、Dは選任されません。田中さんは、議決権の30%を持っていても、自分が推す取締役を1人も選べないことになります。

3.累積投票では、少数株主である田中さんが推す候補者Dが選ばれる

累積投票では、各株主が持ち票を候補者に配って投票します。持ち票の数え方と選任される人の決まり方は、次の会社法342条3項・4項が定めています。

会社法342条3項・4項(累積投票による取締役の選任)

3 第三百八条第一項の規定にかかわらず、第一項の規定による請求があった場合には、取締役の選任の決議については、株主は、その有する株式一株(単元株式数を定款で定めている場合にあっては、一単元の株式)につき、当該株主総会において選任する取締役の数と同数の議決権を有する。この場合においては、株主は、一人のみに投票し、又は二人以上に投票して、その議決権を行使することができる。

4 前項の場合には、投票の最多数を得た者から順次取締役に選任されたものとする。

出典:e-Gov法令検索|会社法342条
「第三百八条第一項」は、株主は1株(単元株式数を定款で定めた会社では1単元)につき1個の議決権を持つという原則を定めた会社法308条1項のことです。「第一項の規定による請求」は、株主が累積投票を求める請求のことで、請求のしかたは本記事の第5章で説明します。

3項により、累積投票による取締役の選任の決議では、1株につき、今回の株主総会で選任する取締役の数と同じ3個の議決権(持ち票)を持ちます。増えるのは、取締役の選任の決議での議決権だけです。山田さんは7株×3人=21票、田中さんは3株×3人=9票です。この持ち票は、1人の候補者に集中して入れることも、何人かに分けて入れることもできます。そして4項により、得票の多い順に取締役に選任されます。

次の図2は、山田さんが21票をAに8票、Bに7票、Cに6票と分け、田中さんが9票すべてをDに入れた場合です。

累積投票の図。山田さんは21票を候補者Aに8票、Bに7票、Cに6票と分け、田中さんは9票すべてを候補者Dに集中。得票はD9票、A8票、B7票、C6票となり、上位3人のD・A・Bが選任される。
図2:累積投票では、田中さんは9票すべてを候補者Dに集中できます。図の「当選」「落選」は、取締役に選任される・されないことを表しています(図をタップすると拡大します)。

得票はD9票・A8票・B7票・C6票となり、上位3人のD・A・Bが選任されます。

なぜ田中さんが推すDが選ばれるのか

山田さんが3人の候補者をそろってDの9票より多くするには、少なくとも10票×3人=30票が必要ですが、山田さんの持ち票は21票です。そのため、この例では、山田さんが21票をどう分けても、9票を集中したDが上位3人から外れることはありません。

※累積投票は、少数株主が必ず1人を選べる制度ではありません。結果は、選任する人数、株主ごとの持ち票の数、投票の分け方によって変わります。

4.通常の投票と累積投票の比較

株主も候補者も同じなのに、投票の方法が違うだけで、田中さんが推す候補者Dの結果が変わります。次の表は、この例で2つの方法を比べたものです。

比べること 通常の投票 累積投票
投票の方法 候補者1人ずつ賛否を採決する 持ち票(1株×選任する人数)を候補者に配って投票する
選任の決まり方 候補者ごとに、出席した株主の議決権の過半数の賛成で選任 得票の多い順に選任
田中さんが推す候補者D 選任されない(賛成3票) 選任される(9票で1位)
選任される3人 A・B・C D・A・B

5.累積投票を行うには、株主からの請求が必要|会社法342条1項・2項

累積投票は、取締役を2人以上選ぶ株主総会で自動的に行われるものではありません。株主が会社に請求したときに行われます。請求できる場面と期限は、次の会社法342条1項・2項が定めています。

会社法342条1項・2項(累積投票による取締役の選任)

1 株主総会の目的である事項が二人以上の取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。以下この条において同じ。)の選任である場合には、株主(取締役の選任について議決権を行使することができる株主に限る。以下この条において同じ。)は、定款に別段の定めがあるときを除き、株式会社に対し、第三項から第五項までに規定するところにより取締役を選任すべきことを請求することができる。

2 前項の規定による請求は、同項の株主総会の日の五日前までにしなければならない。

出典:e-Gov法令検索|会社法342条

条文から、累積投票の請求について次のことが分かります。

  • 請求できる場面:株主総会で取締役を2人以上選任する場合です。1人だけ選任する株主総会では、請求できません。
  • 請求できる株主:取締役の選任について議決権を行使できる株主です。持っている議決権の数や割合の要件は、条文にありません。
  • 請求の相手と期限:会社に対して、株主総会の日の5日前までに請求します。
  • 請求できない会社:定款に「別段の定め」、つまり累積投票によらないとする定めがある会社では、請求できません。

株主の権利のうち、持っている議決権の数の要件があるもの(少数株主権)とないもの(単独株主権)の違いは、株主の権利を整理したコラムで解説しています。

請求があった場合、取締役(株主総会の議長がいるときは議長。取締役も議長もいないときは請求をした株主)は、取締役の選任の決議の前に、累積投票によって取締役を選任することを明らかにしなければなりません(会社法施行規則97条2項)。

6.定款の「累積投票によらない」とは?

定款の「累積投票によらない」という定めは、会社法342条1項の「定款に別段の定めがあるとき」にあたり、株主が累積投票を請求できないようにするものです。たとえば、次のような条項です。

定款の条項の例

取締役の選任決議は、累積投票によらないものとする。

この定めがある会社では、取締役を2人以上選任する株主総会でも、株主は累積投票を請求できず(会社法342条1項)、取締役は通常の投票で選任されます。

日本公証人連合会の解説では、改正前の商法の時代から、ほとんどの会社が定款で累積投票を排除していたと説明されています(日本公証人連合会「Q28.取締役の選任方法について、注意すべき点は何ですか。」)。

定款にこの定めを新しく置く場合や、削除する場合は、定款変更として株主総会の特別決議が必要です(会社法466条・309条2項11号)。この定めを置くかどうかは、少数株主の意見を取締役の顔ぶれに反映する機会と、経営体制の安定のどちらを重く見るかを考えて、会社が決めることになります。

7.司法書士として実際に確認しているポイント

当事務所では、取締役の選任に関するご相談で、できるだけ次のような点を確認するようにしています(会社によって、ほかの確認が必要になることもあります)。

1定款に累積投票を排除する定めがあるか

累積投票を排除する定めは、株式会社の登記事項(会社法911条3項)に含まれていないため、登記事項証明書では確認できません。そこで、最新の定款で定めの有無を確認するようにしています。

2今回の株主総会で選任する取締役の人数

累積投票を請求できる場面に当たるかを判断するため、定款で定めた取締役の員数とは別に、今回の株主総会で何人を選任するのかを確認するようにしています。

3株主ごとの議決権の数

株主名簿や、議決権を制限した種類株式の有無を確認し、持ち票の計算のもとになる株主ごとの議決権の数を整理するようにしています。

4累積投票の請求の有無と、請求を受けた日

請求があった場合には、請求を受けた日が分かる形で記録を残していただくことや、累積投票によって選任したことと各候補者の得票数を議事録に記載することを、ご案内することがあります。

取締役の選任を含む株主総会の準備は株主総会・取締役会の運営支援で、選任後の登記は役員変更登記でお手伝いしています。

8.よくあるご質問

累積投票で選ばれた取締役を解任するには、どのような決議が必要ですか?

株主総会の特別決議が必要です(会社法309条2項7号)。役員の選任・解任の決議要件を定めた会社法341条は、累積投票で選任された取締役の解任には適用されません(会社法342条6項)。特別決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款で3分の1以上の割合を定めた場合はその割合以上)を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2(定款でこれを上回る割合を定めた場合はその割合)以上の賛成で成立します(会社法309条2項)。

特別決議の要件を満たせば解任できるので、累積投票で選ばれた取締役の地位がずっと守られるわけではありません。たとえば本記事の例(2人とも出席)では、定款で特別決議の要件を加重していなければ、議決権の70%を持つ山田さんの賛成だけで、出席した株主の議決権の3分の2以上という要件を満たします。

得票が同じ候補者がいて、選任する人数どおりに決まらないときはどうなりますか?

選任する人数以下で、得票の多い順に決められる人数の範囲で、取締役が選任されます。残りの人数の取締役は、累積投票によらず、株主総会の決議で選任します(会社法施行規則97条3項・4項)。たとえば3人を選任する株主総会で、3位の得票が2人同じだった場合には、上位2人が選任され、残りの1人は株主総会の決議で選任することになります。

9.まとめ|累積投票は、持ち票を1人に集中できる取締役の選び方

  1. 持ち票を1人に集中できる累積投票では、株主は1株につき選任する取締役の数と同じ数の議決権(持ち票)を持ち、1人に集中して投票することも分けて投票することもできます。得票の多い順に取締役が選任されます(会社法342条3項・4項)。
  2. 株主の請求が必要取締役を2人以上選任する株主総会で、株主が株主総会の日の5日前までに会社へ請求したときに行われます。
  3. 定款で排除できる定款に「累積投票によらない」とする定めがある会社では、株主は累積投票を請求できません。定めを置くか削除するには、定款変更の特別決議が必要です。

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司法書士法人LSO 代表社員 司法書士 金光康太

執筆・監修

金光 康太(かなみつ こうた)

司法書士(司法書士法人LSO 代表社員)

大阪・梅田の司法書士。スタートアップ・ベンチャー企業の資金調達、種類株式、ストックオプション、M&A・組織再編、IPO準備に伴う商業登記を中心に取り扱っています。U30堺市起業家輩出プログラムSIPメンター(2024年度・2025年度)。

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本記事について

本記事は、2026年(令和8年)10月時点の会社法・会社法施行規則をもとに、累積投票の仕組みを理解するための単純化した例で解説したものです。実際の選任の方法、議決権の数、株主総会の手続は、会社の定款・機関設計・議案などによって異なります。

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