J-KISSとは?仕組み・普通の増資との違い・発行から転換まで解説

J-KISSとは?仕組みと発行から転換までを解説(資金調達・資本政策/司法書士法人LSO)
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公開日:2026年8月18日/最終更新日:2026年8月19日/執筆・監修:司法書士法人LSO 代表社員 司法書士 金光 康太

結論

J-KISSは、主にシード期のスタートアップが利用する資金調達のスキームです。株式を発行して1株の価格や株式条件を今回すべて確定するのではなく、まずJ-KISS型新株予約権を発行して資金を受け入れます。

その後、次回の本格的な株式資金調達など一定の場面で、発行条件を定めた「発行要項」に従って株式への転換等を行います。ただし、J-KISSが必ず株式へ転換されるとは限りません。M&A等では金銭を対価とする取得となる場合もあります。

会社側では、会社法上の新株予約権の発行手続、新株予約権原簿の作成、変更登記までを進める必要があります。

1.なぜ資金調達でJ-KISSが選ばれるのか?普通の株式増資との違い

J-KISSを理解するには、まず「なぜ資金調達の方法として、普通株式や優先株式による増資ではなく、J-KISSを選ぶことがあるのか」を押さえると分かりやすくなります。

スタートアップは、事業がまだ初期段階でも開発費や採用費などの資金を必要とします。一方、シード期では事業実績が十分でなく、現在の企業価値や1株当たりの価格、将来を見据えた株式条件などをこの時点ですべて決めることが難しい場合があります。

通常の株式による資金調達では、今回の資金調達にあわせて1株当たりの発行価額や発行株式数などを決めます。これに対してJ-KISSでは、投資時点ではJ-KISS型新株予約権を発行して資金を受け入れ、細かな条件の一部を次の大きな資金調達まで繰り延べることができます。経済産業省も、J-KISSのように将来の株式取得等につなげる「コンバーティブル投資手段」には、企業価値評価だけでなく株主間契約等の法務手続も後ろにずらせる利点があると説明しています。

この記事の前提
本記事では、Coral Capitalが公開するJ-KISS 2.0(Version 2.01)の投資契約書・発行要項を基本例として説明します。条項の趣旨については、あわせて公開されているコメント付き標準ひな形も参照します。J-KISSは、会社法上の新株予約権(株式会社に対して行使することにより、その株式会社の株式の交付を受けることができる権利。会社法2条21号)を利用する資金調達の仕組みです。
また、株式を取得する経路には、投資家が新株予約権を行使する場合と、会社が一定の条件で新株予約権を取得してその対価として株式を交付する取得条項による場合があります。本記事では全体像を分かりやすくするため、これらをまとめて「転換」と表現することがあります。
比較の対象は、会社が新株を発行して行う株式資金調達とします。自己株式の処分による資金調達では、会社法・会計上の取扱いが異なります。

まず違いを図で整理します。
新株発行による通常の株式資金調達では、今回の資金調達で1株当たりの発行価額や発行株式数等を決めて株式を発行します。これに対してJ-KISSでは、今回は新株予約権で資金を受け入れ、将来株式を取得するときの1株当たり価格(転換価額)を計算するルールをあらかじめ定めておくという違いがあります。投資直後の立場も、通常の新株発行では「株主」、J-KISSでは「新株予約権者」と異なります。
図中の「Post Cap」「ディスカウント」は転換価額を決めるための条件です。初めて見ると分かりにくい用語ですので、次章「Post Capとディスカウントとは?」で、実際の発行要項でどのように使われるのかから説明します。

図解|「今、1株の価格を決めて株式を出す」のか、「将来の株式調達につなぐ」のか

新株発行による株式資金調達

今回の資金調達で
1株の発行価額・株式条件等を決める
投資額・発行価額等から
発行株式数を決める
株式を発行
投資家は株主になる

J-KISS

今回は1株の価格を確定させず
将来の転換価額を決めるルール
Post Cap・ディスカウント等)を設定
J-KISS型新株予約権を発行して
資金を受け入れる
投資家は新株予約権者になる
この時点では株主ではない
次回株式資金調達など
発行要項に従って
株式への転換等を処理
株式を取得した場合に株主になる
M&A等では株式を取得しない場合もある
比較 新株発行による株式資金調達 J-KISS
1株の発行価額 今回の資金調達で決める 投資時には転換後の1株の価格を確定させず、将来の条件に基づく算定ルールを決める
投資時に発行するもの 株式 新株予約権
投資直後の立場 株主 J-KISSについては新株予約権者
日本基準での貸借対照表上の表示 払込額を基礎に算定した額が、資本金・資本準備金として株主資本に計上される 発行時の払込金額は、純資産の部の「新株予約権」として計上される。この時点で資本金・資本準備金になるわけではない
将来の取扱い 投資時点で株式を取得する 発行要項に従って株式への転換等を処理する。M&A等では金銭を対価とする取得等もあり、必ず株式へ転換するとは限らない
主な条件整理 発行価額、発行数、株式条件、投資契約等を今回整理 投資額、Post Cap、ディスカウント等を中心に先に整理し、細かな条件の一部を将来へ繰り延べる
利用されやすい場面 株式条件を今回確定して行う資金調達 シード期など、迅速な資金調達を重視する場面

会計上の見え方も異なります。
日本基準では、J-KISS型新株予約権の発行時に払い込まれた金額は、発行会社の貸借対照表では純資産の部の「新株予約権」として、株主資本とは区別して計上されます。「純資産の部にある=すでに株主資本・資本金になっている」という意味ではありません。
なお、新株発行による増資でも、払込額の全額が資本金になるわけではなく、会社法445条・会社計算規則等に従って算定される額を基礎に、資本金・資本準備金として計上します。具体的な会計処理・税務上の取扱いについては、当事務所では判断していません。税理士・公認会計士へご確認ください。

通常の株式増資と比べたJ-KISSの主な特徴

投資時点で決める事項や投資家の立場が異なることが、シード期の資金調達でJ-KISSが選ばれる理由につながっています。以下では、通常の新株発行による資金調達と比較したJ-KISSの主な特徴を3つに整理します。

1

条件を一部繰り延べ

次の大きな資金調達まで、細かな条件の一部を後ろへ送れます。

2

標準ひな形が公開されている

Coral Capitalから投資契約書・発行要項の標準ひな形が公開されています。基本的な契約構造を会社・投資家双方で共有したうえで検討を進めやすい点も特徴です。

3

実行を早めやすい

Coral Capitalも、投資実行の速さをJ-KISSの特徴として挙げています。

J-KISSを利用するときの注意点

J-KISSは、将来の条件を何も決めずに資金調達できる仕組みではありません。

株式による資金調達のように、投資時点の企業価値評価を一つの評価額として確定し、そこから1株当たりの価格を決めることは繰り延べられます。一方で、Post Capやディスカウント等の条件は投資時に設定し、これらが将来の転換価額や取得株式数に影響します。また、発行後も、次回株式資金調達、発行要項で定める転換期限、M&A等の場面で、既存のJ-KISS契約・発行要項を確認する必要があります。

さらに、標準ひな形を利用する場合でも、自社の定款、株主構成、既存の株式・ストックオプション・J-KISS、投資契約・株主間契約等との整合を確認することが重要です。

2.J-KISSのスキームを理解するために|Post Capとディスカウントとは?

J-KISSの仕組みを理解するうえで、まず知っておきたいのが「Post Cap」と「ディスカウント」です。

これらは単なる専門用語ではなく、実際のJ-KISSの投資条件として、投資契約書に添付される「発行要項」に組み込まれている条件です。J-KISS 2.0(Version 2.01)の標準ひな形では、Post Cap(ポストキャップ)の金額を定める箇所があり、ディスカウントについても、次回株式資金調達の1株当たり発行価額に一定割合を乗じる形で転換価額の計算式に反映されます。

J-KISSでは、投資を受ける時点で転換後の1株の価格を確定させません。その代わり、将来J-KISS投資家が株式を取得する場合に、1株当たりの転換価額をどう計算するかをあらかじめ決めておきます。

図解|Post Cap・ディスカウントは「投資時に決め、将来の転換時に使う」

STEP 1投資時に条件を決める投資額・Post Cap・ディスカウント等
STEP 2書面に落とし込む投資契約書+発行要項
STEP 3将来の転換時に算定発行要項のルールで転換価額を計算
STEP 4取得株式数に反映発行価額の総額 ÷ 転換価額

ここでいう「次回株式資金調達」は、単に「次に行う増資」という意味ではありません。
Version 2.01の標準発行要項では、割当日以降に資金調達を目的として会社が行う(一連の)株式発行のうち、当該発行に際し転換により発行される株式の発行総額を除く総調達額が[1億円]以上となるものを「次回株式資金調達」と定義しています。金額は標準ひな形上の設定値ですので、実際には各社が締結した発行要項の定義を確認します。

コメント付き標準ひな形では、この金額基準を、転換のトリガーとなる「適格資金調達」の定義という趣旨で説明しています。シリーズAなどの名称だけで転換の対象を決めることは難しいため、標準ひな形では[1億円]という金額基準を置いています。本記事では、発行要項本文の定義語に合わせて、原則として「次回株式資金調達」と表記します。

Post Cap(ポストキャップ)

J-KISSの転換価額を計算するときに使う、企業価値の上限(Cap)に相当する基準額です。会社そのものの企業価値に上限を設けるという意味ではなく、J-KISS投資家の転換価額を計算するために使います。

Version 2.01の標準発行要項では、Post Capを、次回株式資金調達の払込期日の直前における「完全希釈化後株式数」で除した額が、Post Cap側の1株当たり価格になります。

なぜ「Post Cap」なのか?
コメント付き標準ひな形では、J-KISS 2.0でCapをPre-money型からPost-money型へ変更した理由として、J-KISSを複数回発行した場合でも投資家の持分への影響を把握しやすくする設計趣旨が説明されています。コメントでは、その関係を「投資金額 ÷ Post Cap」という形で説明しています。実際の転換株式数は、発行要項の完全希釈化後株式数等の算式に従って確認します。

ディスカウント

次回の株式資金調達で新しい投資家が取得する1株の価格を基準に、一定割合を割り引いて転換価額を計算する仕組みです。Version 2.01の標準ひな形では、次回株式資金調達の1株当たり発行価額に[0.8]を乗じる形になっています。これは、次回の1株当たり発行価額の80%の価格、すなわち20%ディスカウントで計算するという意味です。

コメント付き標準ひな形では、J-KISS投資家が早いタイミングでリスクを取って投資していることから、次回ラウンドの株式を少し安く取得できるように設計している、と説明されています。

「完全希釈化後株式数」とは?
発行済株式だけを見るのではなく、発行済み・付与済みの新株予約権等や、株主総会・取締役会の決議や契約その他の合意等に基づいて将来発行・付与され得る未発行の新株予約権(未付与のオプション・プールを含む)なども、発行要項のルールに従って反映して算定する株式数です。Version 2.01では詳細な算式が定められていますが、本記事では全体像にとどめ、具体的な計算は個別記事で解説します。

図解|次回株式資金調達では、2つの計算結果を比べて転換価額を決める

ディスカウント側

次回の株式資金調達の
1株当たり発行価額
一定割合を乗じる
(標準ひな形では[0.8]=20%ディスカウント)

Post Cap側

あらかじめ定めた
Post Cap
払込期日の直前における
完全希釈化後株式数で除する
2つの方法で算定した金額を比べる
いずれか低い額が転換価額(小数点以下は切上げ)
新株予約権の発行価額の総額 ÷ 転換価額 = 取得株式数

※実際の取得株式数や1株未満の端数の取扱いは、投資家が行使する場合と会社が取得条項により取得する場合などの場面に応じて、発行要項に従って確認します。

Version 2.01の標準発行要項では、次回株式資金調達時の転換価額は、「ディスカウントを反映した価格」と「Post Capを基準に算定した価格」のうち、いずれか低い額(小数点以下切上げ)となります。

転換価額が低いほど、同じ投資額から算定される取得株式数は多くなります。そのため、Post Capとディスカウントの設定が、J-KISS投資家の取得株式数、ひいては転換後の持分に影響します。

「投資額そのものが割引される」という意味ではありません。
Post Capとディスカウントは、将来J-KISSを株式へ転換する場合の転換価額を決めるための条件です。
また、上の「低い方を選ぶ」という比較は、次回株式資金調達が発生した場合の計算方法です。Version 2.01の標準発行要項では、転換期限の到来後や、支配権移転取引等(M&A・IPO等)を会社が承認した場合の転換価額は、Post Capを完全希釈化後株式数で除した額とされており、ディスカウント側との比較は行いません。なお、完全希釈化後株式数を算定する基準時は、転換期限後の場合と支配権移転取引等の場合とで異なります(それぞれ後述します)。具体的な計算式や完全希釈化後株式数の考え方は、個別の記事で詳しく解説します。

3.実際にJ-KISSを発行すると何をする?|書類・会社法上の手続・登記

J-KISSは投資契約書に署名して入金を受ければ終わりではなく、会社法上の「募集新株予約権」、つまり会社が投資家に引き受けてもらう新株予約権の発行として必要な手続を進めます。

発行時に特に重要なのが、「投資契約書」と「発行要項」の役割を分けて確認することです。投資契約書は会社と投資家との契約関係を定め、発行要項は実際に発行するJ-KISS型新株予約権そのものの条件を定めます。

投資契約書

会社と投資家との間で、今回のJ-KISSへの投資について合意する契約書です。

投資金額や払込みに関する事項だけでなく、会社・投資家の表明保証、最恵待遇条項、新株予約権の譲渡、費用の負担に加えて、一定の要件を満たす「主要投資家」に認められる情報請求権・優先引受権など、契約上の権利義務を定めます。Version 2.01では、払込み後速やかに新株予約権原簿へ記録し、新株予約権原簿記載事項証明書を投資家へ交付する旨も定められています。

一方、実際に発行するJ-KISS型新株予約権そのものの具体的な内容は、投資契約書に添付される「発行要項」に定めます。

発行要項

今回発行するJ-KISS型新株予約権そのものの条件を定める重要な書類です。

Version 2.01の標準ひな形では、例えば次のような事項が発行要項に記載されています。

  • 新株予約権の数・1個当たりの払込金額(発行価額)
  • 割当日(新株予約権者となる日)・払込期日
  • 転換対象となる株式の種類(普通株式を基本としますが、次回株式資金調達で種類株式が発行される場合には、発行要項に従い当該種類株式等となることがあります)
  • Post Capやディスカウントを反映した転換価額の算定方法
  • 行使に際して出資される財産の価額・行使期間・行使の条件
  • 次回株式資金調達があった場合の株式を対価とする取得条項
  • 転換期限が到来した場合の取扱い
  • M&A等の支配権移転取引等があった場合の取扱い
  • 新株予約権の譲渡制限
  • 行使により株式を発行する場合の資本金・資本準備金

つまり、発行要項を見ると「今回どのようなJ-KISSを発行するのか」が分かります。

発行要項の「新株予約権の数」と、各投資家が引き受ける個数は区別して確認します。
コメント付き標準ひな形では、発行要項に記載する「新株予約権の数」は、今回のラウンド全体で発行するJ-KISSの合計数と説明されています。一方、各投資家が実際に引き受ける個数は、各投資家との投資契約書で定めます。
また、Version 2.01の標準ひな形では新株予約権1個当たり[100万円]と記載されていますが、コメントでは1個当たりの金額は任意に設定でき、発行個数にも特段の制限はない旨が説明されています。「J-KISSは必ず1個100万円」と考えるのではなく、実際の発行要項・投資契約書を確認します。

「発行価額」「転換価額」「行使時の1円」は、それぞれ別の金額です。
Version 2.01の標準発行要項では、投資家が新株予約権を行使する場合に出資すべき価額を、新株予約権1個につき1円としています。これは、J-KISSを取得するときに払い込む「発行価額」や、取得する株式数の計算に用いる「転換価額」とは別のものです。なお、会社が取得条項に基づいてJ-KISSを取得し、その対価として株式を交付する場合とは区別して考えます。

発行後には、新株予約権の内容や新株予約権者に関する事項を記載・記録する「新株予約権原簿」を作成し、新株予約権の発行に関する変更登記を行います。

J-KISSの発行手続は、大きく「発行前の確認」「J-KISSの発行手続」「発行後の管理・登記」の3段階に分けると理解しやすくなります。以下では、Version 2.01の標準ひな形を基本例として、発行から登記までの流れを整理します。

図解|J-KISSの発行から登記までの流れ(3段階で整理)

① 発行前の確認

STEP 1定款・株主構成・機関設計・既存契約等を確認
STEP 2投資条件・発行条件を整理し、投資契約書・発行要項を確認

② J-KISSの発行手続

STEP 3会社法上必要な決議(募集事項の決定)
STEP 4投資契約の締結・申込み・割当ての手続
STEP 5割当日・払込みポイント割当日に新株予約権者となる(標準ひな形では割当日と払込期日が同日)

③ 発行後の管理・登記

STEP 6新株予約権原簿の作成・記録
STEP 7新株予約権の発行による変更登記登記期限原則2週間以内

上記は基本的な流れです。
実際の決議機関や必要書類、手続の順序は、取締役会設置の有無、定款、既存契約、発行条件等によって異なるため、個別に確認します。
非公開会社を基本例とすると、募集新株予約権の募集事項は、会社法238条2項により原則として株主総会の特別決議で決定します(会社法309条2項6号)。株主総会は、会社法239条により、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社では取締役会)へ委任することができます。公開会社では、特に有利な条件での発行等を除き、原則として取締役会が募集事項を決定します(会社法240条)。Version 2.01の標準ひな形は、株主総会の決議に基づいて発行する形を前提としています。
また、種類株式発行会社では、目的である株式の内容や定款の定めによって、種類株主総会の要否も確認します(会社法238条4項、239条4項)。
※上記は申込み・割当て方式を基本とした流れです。募集新株予約権の総数引受契約(会社法244条)による場合など、手続が異なることがあります。

会社法245条では募集新株予約権の割当てを受けた申込者等は、割当日に、割り当てられた募集新株予約権の新株予約権者となるとされ、249条では新株予約権を発行した日以後遅滞なく新株予約権原簿を作成するとされています。Version 2.01の標準ひな形は割当日と払込期日を同日とする形式です。

登記期限
新株予約権の発行による変更登記は、会社法915条1項により原則2週間以内です。Version 2.01のように割当日と払込期日を同日とする発行では、通常、その日を基準に登記スケジュールを組みます。
なお、Version 2.01の投資契約書にある「払込期日から30営業日以内に現在事項全部証明書を投資家へ交付する」という定めは、会社法上の登記申請期限ではなく、登記反映後の証明書を交付する契約上の期限です。

主な根拠条文

J-KISS専用の法律があるわけではなく、会社法上は新株予約権の発行として手続を確認します。主に関係する条文を、手続の流れに沿って整理すると次のとおりです。

発行条件を決める

会社法236条・238条

会社法236条で新株予約権の内容を、238条で募集新株予約権の募集事項とその決定機関を確認します。

割当て・払込み

会社法245条・246条

会社法245条で新株予約権者となる日を、246条で払込みの期限を確認します。

発行後の管理

会社法249条

会社法249条で、発行後に作成する新株予約権原簿の記載事項を確認します。

登記

会社法911条・915条

会社法911条3項12号で新株予約権に関する登記事項を、915条1項で変更登記の申請期限を確認します。

※新株予約権そのものの定義は会社法2条21号です。

J-KISSを含む資金調達の会社法・商業登記手続については、資金調達・資本政策の業務案内でもご案内しています。

4.発行したJ-KISSはその後どう扱われる?

J-KISSは、発行後に必ず一つの決まったルートを進むわけではありません。

実務上、特に意識しておきたい代表的な場面が、次回株式資金調達、発行要項で定める転換期限の到来、M&A・IPO等(発行要項上の「支配権移転取引等」)です。ただし、これは発行後に起こり得る場面を3つに限定する趣旨ではありません。実際には、契約内容の変更・条件の放棄、その後に発行される新株予約権等(契約上の「後続証券等」)との関係、譲渡、株式分割・併合等による調整その他の処理が問題となることもあります。

図解|発行後に特に確認したい3つの代表的な場面(次回株式資金調達/転換期限/M&A・IPO等)

1

次回株式資金調達

金額基準等を満たすかを確認

発行要項に従って株式への転換等

2

転換期限の到来

標準ひな形では割当日の18か月後

自動転換・自動失効ではない

過半数の承認等の条件を確認

3

M&A・IPO等(支配権移転取引等)

会社が支配権移転取引等を決定

事前の行使、又は金銭を対価とする取得等

必ず株式になるわけではない

① 次回株式資金調達があった場合

例えば、一般に「シリーズA」などと呼ばれる株式資金調達が該当することがあります。ただし、ラウンドの名称だけで決まるわけではなく、発行要項で定めた「次回株式資金調達」の金額基準等に該当するかを確認します。Version 2.01では、会社が次回株式資金調達を行うことを決定した場合、実行日までの一定の日に、その前日までに行使されなかったJ-KISSを会社が取得し、その対価として株式を交付する取得条項も定められています。

② 転換期限が到来した場合

Version 2.01の標準発行要項では、転換期限は割当日の18か月後の応当日です。期限が来ただけで自動的に株式になるわけでも、権利が消滅するわけでもありません。次回株式資金調達が転換期限までに発生しない場合の行使は、本新株予約権(発行要項上の「同種新株予約権」を含みます。)の発行価額の総額の過半数に相当する新株予約権の保有者が承認した場合に限り行うことができるとされています。この場合の転換価額は、Post Capを承認がなされた日における完全希釈化後株式数で除した額です。

③ M&A・IPO等の支配権移転取引等があった場合

Version 2.01の標準発行要項では、会社の資産の全部又は実質的に全部の処分、合併・株式交換・株式移転・株式交付、一定の会社分割、株式等の譲渡・移転、解散・清算、上場などをまとめて「支配権移転取引等」と定義しています。会社がこれを行うことを決定した場合には、その前日までに行使されなかったJ-KISSを会社が取得し、発行価額の2倍に相当する金銭を交付する取得条項が定められています。事前に投資家が行使する場合もあるため、J-KISSが必ず株式になるわけではありません。事前に行使された場合の転換価額は、Post Capを当該支配権移転取引等の実行日における完全希釈化後株式数で除した額です。

コメント付き標準ひな形では、この2倍取得について、転換前の早い段階でM&A等が起きた場合にも、初期からリスクを取った投資家に一定の分配が行われるようにするための条項として説明されています。

この3つ以外にも、J-KISSを発行した後は投資契約上の権利義務が残ります。追加の資金調達や契約条件の変更を行う場合には、次のような条項を確認することがあります。

発行後に資本政策上の動きがあるときは、その都度、実際の投資契約書・発行要項を確認します。

  • 多数投資家との合意…Version 2.01では、同じシリーズのJ-KISSの発行価額の総額の50%超を保有する投資家(「多数投資家」)と会社が書面で合意した場合に、一定の範囲で内容の変更・条件の放棄ができるとされています(一部の条項は本人の同意が必要です)。
  • 最恵待遇条項…その後に発行される「後続証券等」やその投資契約に、既存のJ-KISSより投資家に有利な条項が含まれると投資家が判断した場合、契約内容の変更や後続証券等との交換を請求できる仕組みです。コメント付き標準ひな形では、実際に問題となる代表的な場面として、後続ラウンドで既存のJ-KISSより低いCapで調達する場合(いわゆるダウンラウンド等)が挙げられています。
  • 主要投資家の権利…標準ひな形上[500万円]以上を払い込む投資家を「主要投資家」として、情報請求権・優先引受権等が定められています。
  • 投資関連契約の締結…次回株式資金調達で投資契約・株主間契約等が締結される場合、J-KISS投資家は行使又は転換に際して当該契約を締結する旨が定められています。

J-KISS投資家は、J-KISSを保有しているだけでは株主ではありませんが、このように発行後も契約上の権利義務が続きます。追加の資金調達等を行う際には、既存のJ-KISS契約も必ず確認します。

5.司法書士としてJ-KISSでまず確認する2つのポイント

当事務所では、これまで多くのスタートアップ企業について、J-KISS型新株予約権の発行・登記を取り扱ってきました。

その経験から、J-KISSの発行登記だけを切り出して確認するのではなく、まず「現在の会社の状態」「今回の契約・発行条件の整合」の2点を確認することを重視しています。

CHECK 1

現在の会社の状態

J-KISSの契約書を見る前に、まず現在の会社の状態を確認します。

定款、株主構成、取締役会設置の有無などの機関設計に加えて、既に発行している普通株式・種類株式・ストックオプション・新株予約権・J-KISS、既存の投資契約・株主間契約等を確認します。

実際の案件では、確認を進める中で、取締役等の任期がすでに満了していたケースや、過去に発行したJ-KISSが未登記のままだったケース、また、今回が初回のJ-KISS発行ではなく、すでに第1回のJ-KISSが発行されており、今回が第2回の発行だったケースもありました。

つまり、今回のJ-KISSの契約書や発行要項だけを確認しても、会社の現在の状態を正確に把握できるとは限りません。まず会社の現在地を確認し、そのうえで今回のJ-KISS発行をどのように積み上げるのかを整理する。当事務所では、この順番を大切にしています。

また、既存投資家がいる会社では、新たなJ-KISS発行について、既存の投資契約・株主間契約上の事前承認、通知、新たな株式等の発行に一定の範囲で参加できる優先引受権その他の条項がないかも確認します。

CHECK 2

契約・発行条件の整合

次に、J-KISSに関する各書類の条件が同じ内容になっているかを横断的に確認します。

投資契約書、発行要項、株主総会・取締役会等の会社決議について、次のような事項が対応しているかを確認します。

  • 投資家
  • 発行個数
  • 1個当たりの発行価額
  • 払込総額
  • Post Cap
  • ディスカウントに関する条件
  • 払込期日
  • 割当日

そのうえで、実際の払込み、新株予約権原簿、登記すべき事項まで一貫しているかを確認します。

J-KISSは将来の転換等の場面でも発行時の契約条件を参照するため、発行時の数字・日付・条件を正確に整え、後から確認できる状態で残しておくことが特に重要です。

実務メモ|複数回J-KISSを発行するときの1個当たり発行価額
法令やJ-KISS 2.0の標準ひな形上、過去に発行したJ-KISSと1個当たりの発行価額を同額にそろえなければならないというルールはありません。
そのうえで当事務所では、特段の理由がなければ1個当たりの発行価額をそろえておくと、発行個数・払込総額・新株予約権原簿・登記記録を照合しやすいという実務上の利点があると考えています。もっとも、1個当たりの発行価額は投資条件の一部ですので、最終的には会社と投資家の合意内容に従って定めます。

この2つを起点に、必要な発行手続・新株予約権原簿・登記、そして将来の転換等まで確認します。
「今回のJ-KISS登記だけが合っていればよい」という見方ではなく、会社の現在の状態と今回のJ-KISSの条件が矛盾なくつながっているかを見ることを重視しています。既存投資家や過去の種類株式・ストックオプション・J-KISSがある会社では、必要に応じて過去の会社資料の整備・法務DDもあわせて確認します。

当事務所の業務範囲
当事務所では、確定した投資条件を前提として、会社法上必要となる決議、発行要項その他の会社関係書類、新株予約権原簿および商業登記との整合を確認します。投資条件の交渉、契約条項の個別の法的評価・交渉は弁護士、企業価値評価・税務・会計上の判断は税理士・公認会計士等へご確認ください。資本政策表の作成や株価評価は行っていません。

6.よくあるご質問

J-KISSなら、投資時点で会社の企業価値を確定しなくてよいのですか。

株式による資金調達のように、投資時点の企業価値評価を一つの評価額として確定し、そこから1株当たりの価格を決めることは繰り延べられます。ただし、投資条件を何も決めなくてよいわけではありません。Version 2.01の標準ひな形では、Post Capやディスカウントに関する条件等を投資時に設定します。

J-KISS投資家は、投資したらすぐ株主になりますか。

いいえ。J-KISS型新株予約権を取得した段階では新株予約権者です。転換等により株式を取得した場合に、その株式について株主となります。

J-KISSは投資契約書を締結すれば手続完了ですか。

いいえ。会社法上の募集新株予約権の発行手続として、募集事項の決定、申込み・割当て、払込み・割当日、新株予約権原簿の作成、変更登記等を確認します。

J-KISSの発行に登記は必要ですか。期限はいつまでですか。

新株予約権を発行したときは、登記事項に変更が生じるため変更登記が必要です(会社法911条3項12号)。期限は、原則として登記事項に変更が生じた日から2週間以内です(会社法915条1項)。Version 2.01のように割当日と払込期日を同日とする発行では、通常その日を基準にスケジュールを組みます。

転換期限が来ると、自動的に株式になりますか。

いいえ。Version 2.01の標準発行要項では転換期限は割当日の18か月後の応当日ですが、期限到来だけで自動的に株式になるわけではありません。次回株式資金調達がそれまでに発生しない場合は、本新株予約権(発行要項上の「同種新株予約権」を含みます。)の発行価額の総額の過半数に相当する新株予約権の保有者による承認等の条件を確認します。

J-KISSは1個100万円と決まっているのですか。

いいえ。J-KISSが1個100万円と決まっているわけではありません。Version 2.01の標準ひな形では、新株予約権1個当たりの発行価額は[100万円]とされていますが、コメント付き標準ひな形では、1個当たりの金額は任意に設定でき、発行個数にも特段の制限はないと説明されています。実際の案件では、各社の発行要項・投資契約書に記載された1個当たりの発行価額と発行個数を確認します。

7.まとめ|J-KISSは「なぜ使うか」から発行後の取扱いまでつなげて理解する

J-KISSは、シード期に資金を先に受け入れ、将来の本格的な株式資金調達等へつなげる新株予約権型の資金調達です。

1シード期に資金が必要
2J-KISSの条件を整理
3新株予約権を発行投資家は新株予約権者
4新株予約権原簿・変更登記
5次回株式資金調達等
6株式への転換等株式を取得すれば株主
  • 細かな投資条件の一部を将来へ繰り延べられることがJ-KISSの大きな特徴です。ただし、Post Capやディスカウント等は投資時に設定します。
  • 発行時には、決議・契約・払込み・割当日・原簿・登記を確認します。
  • 発行後も、次回株式資金調達、転換期限、M&A等の代表的な場面や、契約内容の変更等があれば、契約・発行要項を再確認します。

今後、個別記事で詳しく解説するテーマ

  • J-KISSの発行手続と登記
  • J-KISSの契約書で確認するポイント
  • Post Capとディスカウントの計算
  • J-KISSの「次回株式資金調達」とは?|適格資金調達・1億円基準
  • J-KISSの転換期限
  • シリーズAでのJ-KISS転換
  • 主要投資家・最恵待遇条項
  • 複数回J-KISSを発行するときの注意点
  • M&A時のJ-KISSの取扱い

J-KISSの発行・転換についてご相談ください

J-KISSの条件がすでに確定している場合はもちろん、会社法上どのような手続が必要になるかを確認したい段階でもご相談いただけます。

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司法書士法人LSO 代表社員 司法書士 金光康太

執筆・監修

金光 康太(かなみつ こうた)

司法書士(司法書士法人LSO 代表社員)

大阪・梅田の司法書士。スタートアップ・ベンチャー企業の資金調達、種類株式、ストックオプション、M&A・組織再編、IPO準備に伴う商業登記を中心に取り扱っています。U30堺市起業家輩出プログラムSIPメンター(2024年度・2025年度)。

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本記事について

本記事は、2026年8月時点の会社法、経済産業省の公表資料、Coral Capitalが公開するJ-KISS 2.0(Version 2.01)の投資契約書・発行要項およびコメント付き標準ひな形等をもとに、J-KISSの全体像を会社法・商業登記の観点から整理したものです。[ ]内の数値は標準ひな形上の設定値であり、実際の条件は各社が締結した契約・発行要項によって異なります。

実際の必要な手続は、使用する契約書・発行要項、会社の機関設計、定款、既存の投資契約等によって異なります。投資条件の交渉や契約条項の個別の法的評価は弁護士、企業価値評価・税務・会計については税理士・公認会計士等へご確認ください。

主な参考資料:Coral Capital「J-KISS」J-KISS 2.0(Post Cap J-KISS)経済産業省「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン会社法(e-Gov法令検索)/企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」/企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」

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