第三者割当増資で株式を時価より安く発行すると税金がかかる?有利発行の税務上の注意点

第三者割当増資で株式を時価より安く発行すると税金がかかる?有利発行の税務上の注意点
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結論

第三者割当増資で、株式を税務上の時価より安い価格で特定の人や会社に発行すると、株式を受け取った側に経済的な利益が生じ、税金の問題になることがあります。

所得税・法人税の通達では、払込金額が、その金額を決める日の株式の価額よりおおむね10%以上低いかどうかが判定の目安ですが、一律の線引きではありません。直前の資金調達より1株あたりの価格を大幅に下げて発行するときは、今回の発行価額が税務上どのように評価されるかを、会社として確認しておくことが重要です。

税務上の論点は、割当先や会社・既存株主との関係によって異なることがあるため、会社は発行前に税理士へ確認しておくことをおすすめします。

1.なぜ、株式を税務上の時価より安く発行すると税金が問題になるのか

株式を有利な金額で取得した場合には、取得した側に経済的な利益が生じ、課税関係が問題となることがあるからです(個人は所得税法施行令84条3項、法人は法人税法施行令119条1項4号など)。どの税金の問題になるかは、割当先によって異なります(第3章)。

株式を引受人に有利な金額で発行することは、一般に「有利発行」と呼ばれます。

「有利発行」と呼ばれる場面は、税務と会社法の両方にある

「有利発行」は条文に出てくる言葉ではなく、条文にある「有利な金額」「特に有利な金額」での発行を指して使われている呼び方です。税務と会社法のそれぞれで、根拠の条文と何を判断するのかは次のとおりです。

項目 税務 会社法
条文の言葉 「有利な金額」(所得税法施行令84条3項3号、法人税法施行令119条1項4号) 「特に有利な金額」(会社法199条3項)
判断すること 払込金額が税務上の「有利な金額」に当たるか 払込金額が会社法上の「特に有利な金額」に当たるか
当たる場合 取得した側に税金の問題が生じることがある(第3章) 株主総会の特別決議と、理由の説明が必要(第4章)
判断の目安 払込金額が、それを決める日の税務上の株式の価額より「おおむね10%」以上低いか(通達)。この目安は相続税法基本通達9-4には置かれていない(本章で説明) 条文に数値の基準はない。非上場会社では、払込金額を合理的な方法で決めたかが重視される(第4章で説明)

会社法上の有利発行(特に有利な金額)には明確な数値の基準がなく、税務の「おおむね10%」と同じに考えるのは危険です(第4章)。本章から第3章までは税務上の有利発行、第4章で会社法上の有利発行を取り上げます。

税務上「有利な金額」に当たるかの目安

税務上「有利な金額」に当たるかどうかは、払込金額が、それを決める日の株式の価額より、おおむね10%以上低いかが目安です。所得税基本通達は次のように定めています。

所得税基本通達23~35共-7(注)1【抜粋】

社会通念上相当と認められる価額を下る金額であるかどうかは、当該株式の価額と当該株式と引換えに払い込むべき額との差額が当該株式の価額のおおむね10%相当額以上であるかどうかにより判定する。

出典:国税庁「所得税基本通達 法第23条から第35条まで(各種所得)共通関係」。

本記事では、この「払込金額を決める日の株式の価額」を「税務上の時価」と呼びます。ただし、所得税基本通達23~35共-7には、払込金額を決める日の非上場株式の価額について、具体的な算定方法までは示されていません。市場の株価がない非上場株式では、評価方法によって価額が変わることもあるため、具体的な評価は税理士にご確認ください。

法人が株式を取得する場合も、法人税基本通達2-3-7に同じ趣旨の目安があります。ただし、「おおむね」とあるとおり、10%は一律の線引きではなく、10%未満なら問題がないとは言い切れません。同族会社の株主の親族等への発行では、より注意が必要です。この場合に問題になる贈与税の取扱い(第3章、相続税法基本通達9-4)には、そもそもこの目安が置かれていないためです。

本記事は一般的な論点の紹介です。個別の課税関係や株式の税務上の評価は、当事務所では判断していません。税理士にご確認ください。

2.特に注意したいのは、短期間に発行価額が大きく変わるケース

会社が、ごく短い期間のうちに1株あたりの発行価額を大きく変えて増資するケースは、税務上の評価を特に確認しておきたいケースです。次の図は、日付と金額を仮に置いた設例です。

1回目と2回目の資金調達を時系列で見ると

例:1月10日

第1回の資金調達

VC(ベンチャーキャピタル)へ発行

1株 1,000円

この価格で引き受けてもらっている

短期間
例:10日後
→
例:1月20日

第2回の資金調達

オーナー一族の役員(同族役員)へ発行

1株 100円

短期間なのに、発行価額が大きく下がっている

図のポイント

1株あたり900円の差

仮に第2回の払込金額を決めた時点の株式の価額が1株1,000円と評価されるなら、1株100円という払込金額は、その価額より900円低い金額となります。

このような価格差があると、第2回の発行価額が税務上どう評価されるかが問題になります。上場準備の実務書(下記※)でも、同時期またはきわめて短期間に異なる価額で第三者割当増資を行うケースが、注意すべき例として挙げられています。

ただし、直前の発行価額がそのまま今回の税務上の時価になるとは限りません。前回は投資家向けの優先株式、今回は役員向けの普通株式というように、株式の種類や権利内容が違う場合は、1株1,000円と100円を単純に比べられるとは限りません。

※ この設例は、EY新日本有限責任監査法人 編『IPOをやさしく解説!上場準備ガイドブック(第4版)』(同文舘出版)112〜113頁の解説を参考に作成したものです。

「有利な金額」に当たるかは、払込金額と株式の価額を基準に判断する

税務上「有利な金額」に当たるかの判断で通達が見るのは、前回の発行からの期間の長さではなく、今回の払込金額と、それを決める日の株式の価額との関係です(所得税基本通達23~35共-7)。期間を空けてもその差が大きければ問題になり得ますし、短期間でも、払込金額がその時点の株式の価額に見合っていれば、「有利な金額」には当たらないことになります。

3.割当先によって、税務上の論点が異なることがある

通達などをもとにした、考えられる税務上の論点の例は次のとおりです。

表は例示で、網羅ではありません。表に当てはまらないから問題がない、とは判断できません。どれに当たるかは、税理士にご確認ください。

割当先の例 考えられる税務上の論点の例 根拠
発行会社の役員・使用人 地位・職務等に関連して取得したときなどは、給与所得等として所得税の問題が生じることがある 所得税基本通達23~35共-6(2)ただし書
同族会社の株主の親族等 一定の場合には、募集株式引受権を既存株主から贈与により取得したものとして扱われ、贈与税の問題が生じることがある 相続税法9条、相続税法基本通達9-4
その他の個人 有利な価額で取得したときは、所得税の問題が生じることがある(通達では原則として一時所得) 所得税法施行令84条3項3号、所得税基本通達23~35共-6(2)
法人 有利な価額で取得したときは、受贈益として法人税の問題が生じることがある 法人税法施行令119条1項4号、法人税基本通達2-3-7〜2-3-9

4.会社法でも「特に有利な金額」なら株主総会で理由の説明が必要

第1章で触れたとおり、会社法にも、払込金額が「特に有利な金額」である場合の規定があります。税務上の有利発行とは別に、会社法の手続も確認が必要です。会社法は次のように定めています。

会社法199条3項【全文】

第一項第二号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。

出典:会社法199条3項|e-Gov法令検索。「第一項第二号の払込金額」は1株あたりの払込金額、「前項の株主総会」は募集事項を決める株主総会のことです。

非公開会社では、募集事項は原則として株主総会の特別決議で決めます(会社法199条2項、会社法309条2項5号)。決定を取締役(取締役会)に委任する場合も、払込金額の下限が特に有利な金額なら、取締役は株主総会で理由を説明する必要があります(会社法200条2項)。委任の方法は「募集株式の「募集事項」とは?」で解説しています。

会社法の「特に有利な金額」はどう判断されるか

会社法には、「特に有利な金額」に当たるかの数値の基準はありません。非上場会社の新株発行について、最高裁は「客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には、その発行価額は、特別の事情のない限り、『特ニ有利ナル発行価額』には当たらない」と判断しています(最高裁平成27年2月19日判決・民集69巻1号51頁)。

つまり、非上場会社では、単純に何%安いかだけでなく、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって払込金額を決めたかが重要になります。そのため当事務所は、株価算定書など、払込金額の決め方の根拠となる資料を残しておくことが大切だと考えています。「特に有利な金額」に当たるかは会社にご判断いただき、当事務所はそれに応じた株主総会の手続と登記を担当します。

5.司法書士として実際に確認しているポイント

当事務所は、第三者割当増資の登記手続で、募集株式の数・払込金額・割当先・払込期日などを確認します。直前の資金調達より大幅に低い価額で発行する案件では、たとえば次の4点を確認し、事案によってはさらに踏み込んで確認したうえで対応します。

① 前回の払込金額

直前の資金調達と比べる

会社の過去の議事録や資本政策表で、前回の1株あたりの払込金額と時期を確認します。

事案によっては、前回と今回で、発行する株式の種類や権利内容(優先株式か普通株式かなど)が違わないかも確認します。

② 割当先

会社・既存株主との関係

役員・従業員か、株主の親族等か、法人かを確認します(割当先は誰が決める?)。

事案によっては、役員であり株主の親族でもあるなど、割当先が複数の立場に当たらないかも確認します。割当先が取締役で、安い価額での発行が職務の対価(報酬)としての性質を持つ場合は、報酬等の株主総会決議(会社法361条1項)の要否も確認します。

③ 税務上の確認

税理士への確認が済んでいるか

税務判断はしませんが、価格差が大きいときは「税務上の確認は済んでいますか」と伺うことがあります。

事案によっては、払込金額の決め方の根拠となる資料(株価算定書など)があるかも伺います。

④ 会社法の手続

特別決議と理由の説明

会社法上「特に有利な金額」として手続を行う場合には、特別決議に加えて、理由の説明(会社法199条3項)も議事録の案に反映します。

事案によっては、種類株式を発行している会社では、種類株主総会の決議の要否(会社法199条4項)や、既存の優先株式・新株予約権に転換・行使の条件を調整する定めがないかも、定款や発行要項で確認します。

よくあるご質問

前回の資金調達より安い価格で株式を発行することは、会社法上できますか。

できます。株式の譲渡制限がある非公開会社では、募集事項は原則として株主総会の特別決議で決めます(会社法199条2項、会社法309条2項5号)。払込金額が「特に有利な金額」に当たる場合は、その株主総会で、取締役がその価格で募集する理由を説明する必要があります(会社法199条3項)。

「特に有利な金額」に当たるのに、必要な手続をとらないとどうなりますか。

法令に違反する株式の発行として、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主が会社に発行をやめるよう請求できます(会社法210条1号)。また、取締役と通じて著しく不公正な払込金額で株式を引き受けた人は、公正な価額との差額を会社に支払う義務を負います(会社法212条1項1号)。

まとめ|直近の発行価額と大きく違うときは、税務上の確認を

第三者割当増資で株式を税務上の時価より安く発行すると、株式を受け取った側に経済的な利益が生じ、税金の問題になることがあります。どの税金の問題になり得るかは、割当先や会社・既存株主との関係によって異なります。

直近の資金調達と比べて1株あたりの発行価額が大きく違うときは、期間の長短にかかわらず、発行前に税理士へ税務上の確認を行い、会社法上「特に有利な金額」に当たる場合に必要な株主総会の手続(理由の説明)もあわせて確認しておくことが重要です。

第三者割当増資の手続についてご相談ください

司法書士法人LSOでは、第三者割当増資の株主総会議事録などの書類作成から変更登記まで対応しています。発行価額の税務上の評価については、税理士にご相談ください。

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司法書士法人LSO 代表社員 司法書士 金光康太

執筆・監修

金光 康太(かなみつ こうた)

司法書士(司法書士法人LSO 代表社員)

大阪・梅田の司法書士。スタートアップ・ベンチャー企業の資金調達、種類株式、ストックオプション、M&A・組織再編、IPO準備に伴う商業登記を中心に取り扱っています。U30堺市起業家輩出プログラムSIPメンター(2024年度・2025年度)。

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本記事について

本記事は、2026年10月時点の会社法・税法と国税庁の通達等をもとに、第三者割当増資で株式を時価より低い価額で発行する場合の論点を一般的に整理したものです。個別の株価算定や課税関係については、税理士にご確認ください。

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