みなし優先株式とは?なぜ使う?J-KISSとの違い・転換手続をわかりやすく解説

結論
みなし優先株式とは、投資家にはひとまず普通株式を発行しておき、次の資金調達で優先株式が発行されたときに、その普通株式を同じ種類の優先株式に切り替えることを、あらかじめ契約で約束しておく方法です。優先株式とは、配当や会社を清算したときの財産の分配について、普通株式より有利な株式のことです。約束は、投資契約書や、既存の株主も加わる株主間合意書などで行います。
会社法に「みなし優先株式」という種類の株式があるわけではなく、発行するのは普通株式です。そのため投資家は投資の時点から株主になり、この点が、新株予約権(将来、株式を取得できる権利)を使う資金調達方法であるJ-KISSとの大きな違いです。
1.みなし優先株式とは?発行するのは「普通株式」
「みなし優先株式」という名前ですが、発行時点では普通株式です。
みなし優先株式とは、会社法上は普通株式として発行し、将来、会社が優先株式を発行して資金調達をしたときに、その普通株式を優先株式へ転換することなどを契約で定めておく方式です。この仕組みは、磯崎哲也氏が提案し、2014年刊行の『起業のエクイティ・ファイナンス』(ダイヤモンド社)でも紹介されています。法令上の制度ではなく、普通株式そのものに会社法上の優先的な内容が付くわけではありません。
ここでいう優先株式とは、剰余金の配当や残余財産の分配(会社を清算するときに残った財産の分配)について、普通株式より有利な内容を定めた種類株式をいいます(会社法108条1項1号・2号)。種類株式の基本は「種類株式とは?普通株式との違い、優先株式や議決権制限株式の例」で解説しています。
みなし優先株式では、まず投資家に普通株式を発行します。同時に、将来どのような場合にその普通株式を優先株式へ変更するのかを、投資条件を定める投資契約書や、株主どうしのルールを定める株主間合意書などで決めておきます。
会社が次の資金調達でA種優先株式(最初に発行する優先株式に付けることの多い名前)などを発行する場面を、この記事では「将来の優先株式ラウンド」と呼びます。みなし優先株式は、今回の資金調達と、将来の優先株式ラウンドを契約でつないでおく仕組みと考えると分かりやすくなります。全体の流れは次のとおりです。
普通株式を発行し、将来の転換条件を決める
株主間合意書
条件を満たせば、優先株式への変更手続を行う
※どのような場合に変更するか、何株を変更するかは、実際に締結した契約によって異なります。
経済産業省の「コンバーティブル投資手段」活用ガイドラインも、この方法を「みなし優先株式方式」として取り上げています。普通株式への投資をベースに、コンバーティブル・エクイティ(将来、株式につなげることを前提にした資金調達手段)の考え方を取り入れたもの、という位置づけです。
普通株式を優先株式に変えることを、この記事では一般的な呼び方に合わせて「転換」と表現します。
ただし、J-KISSの新株予約権が株式になる場合とは仕組みが異なります。みなし優先株式では、すでに発行されている普通株式について、その株式の内容を優先株式に変更する手続を行います。
関連する会社法・解説
2.なぜ「みなし優先株式」を使うのか?
みなし優先株式を使う意味は、今は普通株式で投資を受けながら、将来の優先株式ラウンドで、先に投資した投資家が不利にならないよう備えておくことにあります。
磯崎氏の『起業のエクイティ・ファイナンス』は、この方式の特長として次の4つを挙げています(説明は当事務所による要約です)。
シンプル
発行するのは普通株式なので、手続は比較的シンプルです。定款に種類株式の定めがない会社であれば、投資後も普通株式しかない状態が続くため、優先株式を発行した場合に必要となることがある種類株主総会(ある種類の株式の株主だけで開く株主総会)を開く必要もありません。
フレキシブル
優先株式への転換の条件は、定款ではなく契約で定めているため、必要なときは契約の当事者の合意で内容を変更できます。
債務超過になりにくい
株式による出資なので、調達額は借入金のように負債ではなく純資産に計上され、その分だけ債務超過(負債が資産を上回る状態)になりにくくなります。返済期限が来る仕組みでもありません。
次の優先株式に負けない
後のラウンドで優先株式が発行されたときに、先に投資した投資家の普通株式も同じ種類の優先株式に転換できるようにしておくことで、先行投資家の権利を守ります。
4つ目の「次の優先株式に負けない」を、少し補足します。
例えば、先に投資した投資家が普通株式を保有している間に、次のラウンドでベンチャーキャピタル(VC)等に優先株式が発行されたとします。その優先株式に「会社を清算するときは、普通株主より先に一定額の残余財産を受け取れる」という権利が付いていれば、残っている財産が十分でない場合、優先株主への分配が先に行われ、普通株主に分配できる財産が少なくなります。
つまり、先にリスクを取って投資した投資家が普通株主のままなのに、後から入った投資家だけが優先的な権利を持つという状態が生じ得ます。何も準備していない場合と、みなし優先株式を利用する場合の違いは、次の図のとおりです。
後続の優先株主だけに優先分配などの権利が付くため、先行投資家との間で経済的な権利に差が生じます。
契約で定めた条件を満たせば、先行投資家も後の優先株式ラウンドの条件につなげることができます。
一方で、『起業のエクイティ・ファイナンス』は注意点も挙げています。株主全員と契約を結ぶ必要があることや、次のラウンドが優先株式で行われなければ、この契約を結ぶ意味が小さいことなどです。経済産業省のガイドラインも、他の種類の株式への転換に株主全員の合意が必要となる点を、みなし優先株式方式のデメリットとして挙げています。株主の数が多い会社や、株主の足並みがそろわない会社では使いにくくなります。
3.最初から優先株式を発行しないのはなぜ?
将来どのような優先株式を発行するのか、投資を受ける時点ではまだ決まっていないことがあるからです。
もちろん、最初からA種優先株式などを発行することもできます。ただし、優先株式を発行するには、その内容を設計し、会社法108条2項・3項に従って定款に必要な事項を定める必要があります(定款については「定款とは?記載事項・定款変更・登記簿との違い」を参照)。優先株式を発行するときに決める内容には、例えば次のようなものがあります。
- 会社を清算するときに、普通株主より先にいくら受け取れるか
- 剰余金の配当を、普通株主より優先して受け取れるか
- 株主が会社に対して優先株式の取得を請求し、その対価として普通株式の交付を受けられる仕組み(取得請求権)を設けるか
- 株主総会で議決権を持つか
経済産業省のガイドラインも、優先株式について、交渉・設計の手間がかかること、定款の変更が必要となることが多いこと、株主総会とは別に種類株主総会が必要になる場合があることなどをデメリットとして挙げています。
ところが、スタートアップの早い段階の資金調達では、次のラウンドを主導する投資家や、そのときに発行する優先株式の条件がまだ決まっていないことがあります。
そこで、みなし優先株式では、今は普通株式を発行し、1株当たりの払込金額・株式数・転換の条件などを決めます。優先株式の具体的な内容は、将来のラウンドで決まるものに合わせます。「今、契約で決めること」と「将来のラウンドで決まること」を分けると、次のようになります。
- 1株当たりの払込金額例:1株500円
- 発行する株式数例:1,000株
- 転換の条件例:一定規模以上の優先株式による資金調達
今回の資金調達の条件として確定
優先株式へ転換
- 残余財産の分配や配当について、どう優先するか
- 取得請求権や議決権を持たせるか
- 何株を転換するか今決めたルールに従って計算する
会社と次のラウンドの投資家との交渉で決まり、定款に定める。みなし優先株主は、契約のルールに従ってその優先株式に転換される
なお、『起業のエクイティ・ファイナンス』では、2014年当時の目安として、エンジェル投資家(創業初期の会社に個人で投資する投資家)などからの数百万円から数千万円程度の投資ではみなし優先株式、ベンチャーキャピタルなどからのおおむね1億円以上の投資では優先株式を用いることが想定されています。
当事務所の見解
書籍では「エンジェル投資家からの小口の投資ならみなし優先株式、ベンチャーキャピタルからの1億円以上の投資なら優先株式」という使い分けが示されています。しかし2026年現在、当事務所が関わる案件では、ベンチャーキャピタル等が投資する場面でもみなし優先株式が使われる例が一定数あります。統計に基づくものではありませんが、「エンジェル投資家向けの仕組み」と決めつける必要はなく、投資家の種類や金額よりも、次のラウンドの条件がまだ決まっていないか、今回の手続を軽くしたいかによって選ばれていると考えています。
4.J-KISSではなく「みなし優先株式」を使うのはなぜ?
みなし優先株式とJ-KISSでは、投資家が投資の時点で株主になるかどうかが大きく異なります。
J-KISSは、投資時点では株式ではなく、将来一定の条件で株式を取得できる新株予約権を発行する資金調達方法です。そのため、J-KISSの投資家は、J-KISSに基づいて株式が交付されるまでは株主ではありません(仕組みは「J-KISSとは?仕組み・普通の増資との違い・発行から転換まで解説」で解説しています)。
これに対して、みなし優先株式では普通株式を発行するため、投資家は払込期日(払込期間を定めた場合は払込みをした日)に株主となります(会社法209条1項)。普通株式なので、原則として株主総会で議決権を行使できます。会社の側から見ると、投資家が早い段階から議決権を持つことになる点は、経済産業省のガイドラインでも留意点として挙げられています。
したがって、投資の時点で払込金額・株式数を確定させたい場合や、投資家が当初から株主になることを重視する場合には、J-KISSではなく、みなし優先株式が選択肢になります。最初から優先株式を発行する場合も含め、3つの方法を並べると次の表のとおりです。
| 比べる点 | 最初から優先株式 | みなし優先株式 | J-KISS |
|---|---|---|---|
| 今、発行するもの | 優先株式 | 普通株式 | 新株予約権 |
| 投資時点で株主になるか | なる | なる | ならない |
| 1株の価格・株式数 | 発行時に決める | 発行時に決める(転換の際に株式数が調整されることがある) | 最終的な転換価額・株式数は、この時点では確定しない |
| 発行時の登録免許税 | 資本金の増加に応じて課税+新たに種類株式の定めを設ける場合は3万円 | 資本金の増加に応じて課税 | 新株予約権の発行による変更登記1件につき9万円 |
| 株式の内容 | 発行前に内容を定める | 将来のラウンドの優先株式に合わせて変更を予定する | 次回の資金調達など、契約で定めた転換のきっかけに応じて決まる |
「転換価額」とは、J-KISSから交付される株式数を計算するための、1株当たりの基準額をいいます。「資本金の増加に応じて課税」は、増加した資本金の額の1000分の7(3万円に満たないときは3万円)です。みなし優先株式は、後の転換の登記で別に申請1件につき3万円がかかります(5章参照)。
コンバーティブル投資手段の全体像と、みなし優先株式方式の位置づけは「コンバーティブル投資手段とは?種類とJ-KISSとの関係」で整理しています。
また、みなし優先株式の公開ひな形「ANGELs」(6章で紹介します)のよくある質問では、普通株式による出資と新株予約権との違いとして、エンジェル税制(創業初期の会社に投資した個人に対する税の優遇制度)の取扱いや適用時期の違いも挙げられています。
エンジェル税制の要件を満たすかどうかは、会社や投資家の状況によって異なり、当事務所では判断していません。税理士・所轄税務署にご確認ください。
5.みなし優先株式は、どのように優先株式へ変わる?
契約で定めた条件を満たしても、普通株式が自動的に優先株式へ変わるわけではありません。株主の合意・同意に加え、必要に応じて定款変更などの株主総会の決議を行い、変更登記をします。
契約では、例えば「一定規模以上の優先株式による資金調達が行われた場合」など、転換のきっかけとなる条件を定めます。条件の呼び方や内容は契約ごとに異なるため、まず実際に締結した投資契約書・株主間合意書を確認します。
そのうえで、会社法上の手続を確認します。会社法には、発行済みの株式の一部だけを別の種類の株式に変える手続を直接定めた規定はありません。松井信憲『商業登記ハンドブック〔第5版〕』(商事法務)は、昭和50年4月30日民四第2249号回答(法務省民事局の先例)などを参照して、次の手続が必要になると整理しています。
- 新たな種類株式の定めを設ける必要があれば、その定款変更
- 株式の内容の変更に応じる個々の株主と、会社との合意
- 内容の変更に応じる株主と同じ種類の株式を持つ、他の株主全員の同意
- 損害を受けるおそれのある他の種類の株式がある場合は、その種類株主総会の特別決議(原則として、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立する決議)
内容変更の時点で普通株式しか発行していない会社では、転換する株主と会社との合意に加えて、それ以外の普通株主全員の同意が必要になります。結果として、その時点の普通株主全員の同意がそろうことになります。
実際に転換を行う段階では、おおむね次の順序で進めます。
-
転換条件に該当するか確認する
今回の資金調達が、契約で定めた転換の条件を満たすかを確認します。
-
転換先の優先株式と株式数を確認する
どの優先株式へ変更するのか、何株を変更するのかを、契約と新たな優先株式の内容から確認します。
-
定款変更の決議と、株主の合意・同意
新たに優先株式の定めを設ける場合には、その内容を定款に定めるため、株主総会の特別決議による定款変更を行います(会社法466条、309条2項11号)。あわせて、転換の対象となる株主と会社との合意と、他の普通株主全員の同意を得ます。ANGELsの書式では、これを「株式の内容の変更に関する株主全員の合意書・同意書」1通で行う形になっています。このほか、損害を受けるおそれのある種類の株式について、種類株主総会の特別決議が必要となる場合がないかも確認します(会社法322条1項、324条2項4号。「種類株主総会とは?必要となる場面と決議要件」参照)。
-
変更登記を申請する
発行する各種類の株式の内容や、発行済株式の種類・種類ごとの数が変わるため(会社法911条3項7号・9号)、変更が生じた日から2週間以内に変更登記を申請します(915条1項)。登録免許税は、この変更登記について申請1件につき3万円です(登録免許税法別表第一第24号(一)ツ)。同じ申請で新たな優先株式の発行による資本金の増加も登記する場合は、増加した資本金の額の1000分の7(3万円に満たないときは3万円)が別にかかります(同号(一)ニ)。定款変更と登記の関係は「定款変更で登記が必要になるケース・不要なケース」でも解説しています。
転換の条件は法律で一律に決まっているものではありません。
何を転換のきっかけとするか、何株を転換するかは、実際に締結した契約によって異なります。
6.公開されているひな形では、転換の条件や書式をどう定めている?
みなし優先株式には、無償で公開されているひな形「ANGELs(エンジェルズ)」(BAMBOO INCUBATOR)があります。ここまでの仕組みは、その書式で確かめることができます。
ANGELsは、普通株式とみなし優先株式を使った投資契約書とガイダンスのひな形です。みなし優先株式の書式には、投資契約書と、みなし優先株式に関する株主間合意書が含まれています。さらに、発行時の臨時株主総会議事録(募集株式の発行と、定款の附則を加える定款変更の2議案)と、転換時に使う「株式の内容の変更に関する株主全員の合意書・同意書」・臨時株主総会議事録もそろっています。
前の章で説明した「転換のきっかけとなる条件」について、ANGELsの株主間合意書では、一定の条件を満たす優先株式の発行を「適格株式発行」と定義しています。たとえば、払込金額の合計が1億円以上であることや、議決権を有すること、残余財産から払込金額相当額が普通株主に先立って分配されることなどを要件とする設計です。これはこのひな形上のルールであり、法律で決められた条件ではありません。
転換時の臨時株主総会議事録のひな形は、①定款変更、②新たな優先株式の発行、③発行済株式の一部の株式の内容変更を同じ株主総会で決議し、内容変更の日を新たな優先株式の払込期日と同じ日にする形になっています。
なお、ANGELsはエンジェルラウンド(創業初期にエンジェル投資家から資金を集める段階)での利用を念頭に作られたひな形で、他の場面で使うときは条項の調整が必要になることがあります。磯崎氏の『起業のエクイティ・ファイナンス』とは別に作られたものです。
7.転換するときに特に確認したい3つのポイント
転換の場面では、「契約上、転換できるか」だけでなく、何株をどの優先株式へ変更するのか、過去の資金調達と矛盾しないか、転換前にM&Aが起きた場合をどう扱うかまで確認します。
特に確認したいのは、次の3点です。
転換する株式数
常に「普通株式1株を優先株式1株へ変更する」とは限りません。例えば、転換先の優先株式の1株当たりの残余財産優先分配額(普通株主より先に受け取れる金額)が、みなし優先株式の1株当たりの払込金額より大きいとします。このとき同じ株式数のまま転換すると、普通株主に先立って分配される金額の合計が、先行投資家の払込総額を上回ることがあります。
そのためANGELsの株主間合意書では、1株を1株に転換することを原則としつつ、みなし優先株式の払込金額の総額を転換先の優先株式1株当たりの残余財産優先分配額で割った数を上限とし、上限を超える株式は普通株式のまま残す定めになっています。
たとえば、1株500円で1,000株(払込総額50万円)を引き受けた投資家が、1株当たりの残余財産優先分配額が2,000円のA種優先株式に転換する場合、上限は50万円÷2,000円=250株です。250株がA種優先株式になり、残りの750株は普通株式のまま残ります。実際の契約で転換株式数の決め方を確認し、計算します。
過去の資金調達の条件
過去に条件の異なるみなし優先株式やJ-KISSを複数回発行している場合、それぞれの契約で転換の条件が異なることがあります。過去の契約を並べ、各投資家についてどの株式へ何株転換するのかを整理します。条件によっては、転換先として別の種類の優先株式を設けることもあります。整理には資本政策表が役立ちます。
転換前にM&Aが起きた場合の取扱い
M&Aの時点でまだ優先株式へ転換していなければ、みなし優先株主は会社法上は普通株主のままです。その場合でも契約上、優先的な取扱いを反映できるよう、ANGELsの株主間合意書には、株式の譲渡による買収や一定の組織再編について、会社を清算したものとみなして対価などを分配する「みなし清算」の条項が設けられています。
株主の間で対価を分け直す仕組みは、税務上の問題が生じる可能性があります。磯崎氏の『起業のエクイティ・ファイナンス』も、みなし優先株式について税務上の論点があることを指摘しています。税務上の取扱いは当事務所では判断していませんので、税理士にご確認ください。
8.司法書士として実際に確認しているポイント
みなし優先株式は、発行のときは普通株式の増資ですが、転換のときに株主の同意と種類株式の手続が重なります。発行の段階から、転換の手続まで見据えて書類をそろえます。
当事務所で確認している事項の例です。会社の状況によって、ここに挙げていない事項の確認が必要になることもあります。
転換の時点の株主は誰か
定款・登記事項証明書・株主名簿で、転換の時点の株主全員を確認します。同意書の署名者と株主名簿が一致しているかを見ます。
今回の資金調達が条件を満たすか
投資契約書・株主間合意書の転換の条件と、今回の優先株式の内容や調達額を照らし合わせます。
何株を、どの種類に転換するか
- 1対1か、上限や調整の定めがあるかを確認し、株主ごとに計算する
- 転換の条件によってはA1種・A2種のように種類が分かれることがあるため、みなし優先株式の発行時の投資契約書・株主間合意書を確認し、定款変更案と照合する
定款変更案と決議の内容
新たな優先株式の内容を定める定款変更案、募集株式の発行、発行済株式の一部の内容変更の決議がそろっているかを確認します。
転換の日と払込期日の関係
内容変更の日、新たな優先株式の払込期日、同意書の日付が矛盾していないかを確認します。
変更登記と添付書面
株主総会議事録と株主リスト(株主の氏名・住所・持株数などを記載した登記の添付書面)に加え、株主の同意書と、同意をした株主についての株主リストなど、登記に必要な書面を整えて申請します。
株価の算定や税務・会計上の取扱いは、当事務所で判断するものではありません。必要に応じて、税理士・公認会計士等の専門家へご確認ください。
よくあるご質問
- みなし優先株式を発行するとき、優先株式の定款変更は必要ですか。
-
優先株式の内容を定める定款変更は、発行の時点では必要ありません。発行するのは普通株式なので、会社法上の株式発行の手続は、普通株式の第三者割当増資(特定の相手に新しい株式を引き受けてもらう増資)と同じです。非公開会社(すべての株式に譲渡制限がある会社)では、原則として株主総会の特別決議で募集事項(発行する株式の数や払込金額などの条件)を決めます(会社法199条2項、309条2項5号)。新たに優先株式の内容を定款に定める場合は、転換を行う段階で行います。なお、ANGELsの発行時の議事録ひな形では、発行する普通株式が将来優先株式に転換することを予定した株式であることを明確にするため、定款の附則に一文を加える議案も置かれています。
- 次の資金調達が普通株式だった場合、みなし優先株式はどうなりますか。
-
転換されるかどうかは契約の内容によります。ANGELsでは、普通株式による資金調達は「適格株式発行」に当たらないため、その資金調達を理由としては転換されず、普通株式のまま契約が続きます。また、ANGELsの株主間合意書には、新たに株主となる人を契約に参加させる定めがあります。新たな増資の前に、契約の定めを確認してください。
まとめ
みなし優先株式は、今は普通株式を発行し、その普通株式を、投資契約書や、既存の株主も加わる株主間合意書によって将来の優先株式ラウンドにつなげる資金調達方法です。
最初から優先株式を発行する方法とは「優先株式の内容をいつ決めるか」が、J-KISSとは「投資の時点で株主になるか」が大きく異なります。転換は自動では起こらず、株主の同意(内容変更の時点で普通株式しかない会社では、普通株主全員の同意)、必要な定款変更などの株主総会の決議、変更登記を経て行います。
みなし優先株式の発行・転換についてご相談ください
司法書士法人LSOでは、みなし優先株式の発行時の増資手続から、将来の優先株式への転換に伴う定款変更・議事録等の書類作成・変更登記まで対応しています。過去に発行したみなし優先株式の転換方法を確認したい場合もご相談ください。
関連するご案内
外部参考資料
- 松井信憲『商業登記ハンドブック〔第5版〕』(商事法務)2-3「株式に関する登記」■2「株式の内容の変更」
- 磯崎哲也『起業のエクイティ・ファイナンス 経済革命のための株式と契約』(ダイヤモンド社、2014年)第4章「優先株式の投資に備える『みなし優先株式』」
- BAMBOO INCUBATOR「投資契約書雛形『ANGELs』」
- 経済産業省「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン
本記事について
本記事は、2026年10月時点の会社法・登録免許税法、松井信憲『商業登記ハンドブック〔第5版〕』、磯崎哲也氏『起業のエクイティ・ファイナンス』第4章、経済産業省「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン、公開ひな形ANGELs(みなし優先株式)等を参考に、みなし優先株式の基本的な仕組みを会社法・商業登記の観点から整理したものです。転換の条件や必要となる手続は、実際に締結した契約や会社の株式構成によって異なります。
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