コンバーティブル投資手段とは?種類とJ-KISSとの関係を図解で解説

結論
コンバーティブル投資手段とは、投資家が株式の取得に先立って資金を供給し、将来、企業価値を評価しやすくなったタイミングなどで株式につなげる投資手段の総称です。経済産業省のガイドラインで用いられている整理上の呼び方であり、会社法にこの名前の制度があるわけではありません。
典型的には、資金供給の時点で将来の転換価額そのものを決めるのではなく、その価額を決めるための計算方法をあらかじめ定めておきます。
大きく、負債を用いないコンバーティブル・エクイティと、負債を用いるコンバーティブル・デット(ノート・ボンド・ローン)に分かれ、J-KISSは前者のうち「有償新株予約権型」に位置付けられる契約ひな形です。
1.コンバーティブル投資手段とは?
「企業価値を精緻に決めるのは後にする。でも資金は今調達する」という場面で使われる投資手段だと考えると、イメージしやすくなります。
コンバーティブル(Convertible)には「転換できる」という意味があります。経済産業省の「『コンバーティブル投資手段』活用ガイドライン」(令和2年12月28日公表)では、投資家が株式取得に先立って資金供給を行い、将来、企業価値評価の正確性が高まったタイミングで株式転換を行う新株予約権等の投資手段として整理されています。
通常の株式による資金調達では、今回の調達にあわせて1株当たりの払込金額や発行する株式数などを決めます。これに対してコンバーティブル投資手段では、将来株式につなげるための条件を先に定めて資金を受け入れ、企業価値を評価しやすくなった段階で株式につなげます。
図1|通常の株式増資と、コンバーティブル投資手段の違い
※ 資金供給時にどの法的形式を用いるかによって、投資家の地位も、必要な会社手続も変わります。詳しくは第5章をご覧ください。
2.なぜこのような投資手段が利用されるのか?
シード期では、企業価値を評価することが難しい一方で、開発や採用のための資金は先に必要になるという食い違いが起きるためです。
創業直後のスタートアップでは、売上や利益などの実績がまだ少なく、将来どこまで成長するかも見通しにくいため、現在の企業価値を精緻に評価することが難しい場合があります。経済産業省のガイドラインでも、シード期のスタートアップは、拙速な評価によって過少評価・過大評価が生じ、後の資金調達に支障が出る例が少なくないと指摘されています。
ガイドラインでは、通常の株式投資と比べた特徴として、次の3点が整理されています。
企業価値評価の先延ばしができる
これが本質的な特徴とされています。次の資金調達ラウンドや、シナジーの実現・PoCの実施といった事業上の条件を満たしたタイミングまで、精緻な評価を後ろにずらすことができます。
迅速なファイナンスにつなげやすい
企業価値評価や条件決定の一部を将来にずらすことで、手続がスピーディーになります。とくに有償新株予約権型では、転換まで投資家が株主にならないため、株主間契約等の交渉を次の株式資金調達時まで後ろにずらしやすいとされています(株式を用いる方式では、資金供給の時点で株主になります)。
インセンティブを柔軟に設計できる
株式転換の条件を自由に定められるため、次の株式資金調達だけでなく、PoC(アイデア実証)の実施などを転換のトリガーとする設計も考えられます。条件達成に向けて双方の関与を強める効果が期待されています。
つまりコンバーティブル投資手段は、単にJ-KISSを使うための仕組みではなく、企業価値評価と資金調達のタイミングのずれに対応するための投資手段として位置付けられています。
3.図解|コンバーティブル投資手段の代表的な類型
言葉が似ていて紛らわしいのですが、「資金供給の時点でどのような法的形式を用いるか」で整理すると分かりやすくなります。
いちばん大きな分かれ目は、負債の形をとるかどうかです。経済産業省のガイドラインでは、負債を用いないものをコンバーティブル・エクイティ(CE)、負債を用いるものをコンバーティブル・デット(CD)として整理しています。
図2|コンバーティブル投資手段の全体像
(経済産業省ガイドラインで紹介される、日本法上の代表的な類型)
- 有償新株予約権型(J-KISSはここ)
- みなし優先株式方式
- 無議決権種類株式方式
- コンバーティブル・ノート(負債証書)
- コンバーティブル・ボンド(社債)
- コンバーティブル・ローン(その他融資等)
(例:一定金額以上の増資、PoCの実施)
※ 経済産業省のガイドラインの整理を、当事務所で図にしたものです。会社法にこれらの名称の制度があるわけではなく、いずれも実務上の呼び方です。ガイドラインでは、負債側の起点として「新株予約権付債権」「負債証書」「社債」「その他融資等」が挙げられています。
※ みなし優先株式方式・無議決権種類株式方式では、資金供給の時点ですでに株式を発行しており、将来、あらかじめ定めた条件に従って株式の内容を変更することが予定されています。
コンバーティブル・エクイティ(CE)
新株予約権や株式等を用いて、将来の株式取得につなげる仕組みです。負債にならないため、貸借対照表上、負債が増えず、満期や利息の負担も生じないことが特徴として挙げられます。経済産業省のガイドラインでは、日本ではこの中の「有償新株予約権型」が中心と整理されています。
コンバーティブル・デット(CD)
まず負債の形で資金を供給し、将来、一定の条件で株式につなげる仕組みです。ガイドラインでは、負債証書を用いるものをノート、社債を用いるものをボンド、融資等を用いるものをローンとして整理しています。株式に転換されるまでは負債として計上されるため、債務超過や既存借入への影響に注意が必要とされています。
4.J-KISSはコンバーティブル投資手段のどこに位置するのか
J-KISSはコンバーティブル投資手段そのものではなく、有償新株予約権型コンバーティブル・エクイティのために無償公開された契約ひな形です。
経済産業省のガイドラインでは、日本のコンバーティブル投資手段が、負債型から出発して、貸借対照表の純資産の部に計上できる形へと進化してきた経緯が整理されています。
図3|日本における投資契約スキームの進化(経済産業省ガイドラインの整理)
(ゼロクーポン・無担保永久劣後債型)⓪から満期・利息を取り払う形。ガイドライン上、ほぼ利用されていないとされています。負債計上・満期利息なし
この④に当たる契約ひな形として、2016年に無償公開され、現在も広く使われているのがJ-KISSです。したがって、両者の関係は次のようになります。
図4|J-KISSの位置づけ
J-KISSでは、会社が融資を受けるのではなく、会社が有償のJ-KISS型新株予約権を発行し、投資家がこれを引き受けます。そのため、「コンバーティブル投資手段=J-KISS」ではありません。広いカテゴリーの中の、具体的な契約ひな形の一つです。
J-KISSにおける普通の株式増資との違い、キャップ・ディスカウントの決め方、発行から転換までの具体的な流れは、「J-KISSとは?仕組み・普通の増資との違い・発行から転換まで解説」で詳しく整理しています。
5.会社法上の手続と登記は、選んだ方式によって変わる
「コンバーティブル投資手段」という一つの会社法上の制度があるわけではないため、どの方式を選ぶかによって、必要な機関決定も、登記も、登録免許税も変わります。
新株予約権を用いるのか、株式を用いるのか、社債・融資等を用いるのかで、手続の重さがかなり違います。主な方式を並べると次のとおりです。
図5|方式別にみた会社手続・登記の違い
(非公開会社=すべての株式について譲渡制限のある会社を想定)
※ コンバーティブル・デットには、負債証書・社債・融資等を用いるさまざまな法的構成があり、上の欄は新株予約権付社債を用いる場合の一例です。融資等を用いる構成では、新株予約権の発行を伴わないこともあり、必要な手続はまったく異なります。
※ 機関設計(取締役会の有無、公開会社かどうか)、既存の種類株式の内容、定款の定めによっても必要な決議は変わります。上記は代表的な組合せの一例です。
「転換」は、行使だけとは限りません
将来、新株予約権を株式につなげる場面でも、あらためて会社手続と登記が必要になります。ここで注意したいのは、「転換」=「新株予約権の行使」とは限らないという点です。有償新株予約権型には、権利者が行使する方法のほかに、取得条項に基づいて会社が新株予約権を取得し、その対価として株式を交付する方法があり、実際のひな形では両方が組み合わされています。
図6|株式につながる2つの経路(J-KISS 2.0の発行要項を例に)
※ J-KISS 2.0(Version 2.01)の発行要項では、次回株式資金調達を行うことを決定した場合、会社が別に定める日の前日までに行使されなかった新株予約権を全て取得し、その対価として転換対象株式を交付する取得条項が定められています。支配権移転取引等の場面については、金銭を対価とする取得条項が別に定められています。実際の条件は、案件ごとの発行要項と契約書で確認が必要です。
いずれの経路でも、資本金の額が増加すれば変更登記が必要で、登録免許税は増加した資本金の額の1000分の7(3万円に満たないときは3万円)となります。どちらの経路で株式にするのかによって、作成する書類も登記の内容も変わります。発行の段階で、転換の場面まで見通して要項を確認しておくことが大切です。
司法書士として実際に確認しているポイント
登記だけを切り出して依頼を受けることもありますが、実際には次の点を先に確認しないと、後で登記が通らなかったり、条件と登記内容が食い違ったりします。
- 契約書と発行要項の内容が整合しているか。J-KISSでは、キャップ・ディスカウント・転換価額・転換条件といった主要な条件は新株予約権発行要項に定められています。個別の投資契約に定める事項と発行要項との間に齟齬がないかを確認したうえで、発行要項のうち会社法上の登記事項となる内容を正確に登記する必要があります。
- 有利発行に当たらないかの整理ができているか。有償の新株予約権であっても、払込金額が引受人に特に有利であれば、株主総会でその理由を説明する必要があります(会社法238条3項)。ひな形どおりかどうかではなく、条件の内容で判断されます。
- 登記の期間に間に合うか。新株予約権の発行による変更登記は、効力発生から2週間以内が原則です(会社法915条1項)。割当日から逆算して書類を揃えます。
- ストックオプションと名称を書き分けているか。同じ「新株予約権」でも、インセンティブ目的のものと資金調達目的のものが混在すると、後で内容の把握が難しくなります。「第1回CE型新株予約権」のように区別して登記する方法が、ガイドラインでも紹介されています。
- 転換時に発行する株式の種類を設計してあるか。J-KISS等では、転換で発行される株式は、ディスカウント等の影響で同じラウンドの株式と発行条件が異なるため、別の種類株式として設計・登記することが一般的です。定款変更が必要になる場面です。
- 募集する投資家の人数。50名以上の者に取得勧誘を行う場合などには、新株予約権であっても金融商品取引法上の「募集」に該当し、募集金額その他の条件によっては発行開示手続が必要となる可能性があります。人数の見込みは早い段階で共有していただいています(該当性の最終判断は弁護士等にご確認いただきます)。
主な根拠条文
J-KISS等の資金調達にも対応しています
司法書士法人LSOでは、J-KISS型新株予約権の発行・転換に伴う会社手続と商業登記のほか、J-KISSに近いコンバーティブル・エクイティ契約に基づく有償新株予約権による資金調達についても、会社法・商業登記の観点から対応しています。手続の流れと費用は、資金調達・資本政策の支援内容と料金表をご覧ください。
6.よくあるご質問
- コンバーティブル投資手段とは、J-KISSのことですか。
-
いいえ。コンバーティブル投資手段は総称であり、負債の形をとらないコンバーティブル・エクイティと、負債の形をとるコンバーティブル・デット(ノート・ボンド・ローン)に大きく分かれます。J-KISSは、そのうち有償新株予約権型コンバーティブル・エクイティのために公開された契約ひな形です。
- コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・デットの違いは何ですか。
-
負債の形をとるかどうかです。コンバーティブル・デットは負債証書・社債・融資等を用いるため、株式に転換されるまでは負債として計上され、類型によっては満期や利息が生じます。コンバーティブル・エクイティは新株予約権や株式等を用いるため、負債にはなりません。ただし、具体的な法的構成は個々の契約によって異なります。
- コンバーティブル投資手段は、シード期だけで使うものですか。
-
シード期に限られません。経済産業省のガイドラインでは、資金調達ラウンドの間をつなぐアーリー期以降のブリッジファイナンスや、事業会社とスタートアップのオープンイノベーションにおける活用も取り上げられています。後者では、次の資金調達ではなくPoCの実施などを転換のトリガーとする設計も紹介されています。
- 「転換」とは、新株予約権を行使することですか。
-
行使に限られません。有償新株予約権型では、権利者が新株予約権を行使する方法のほかに、取得条項に基づいて会社が新株予約権を取得し、その対価として株式を交付する方法があります。J-KISS 2.0(Version 2.01)の発行要項では、次回株式資金調達を行うことを決定した場合に、それまでに行使されなかった新株予約権を会社が全て取得し、転換対象株式を交付する取得条項が定められています。どちらの経路をたどるかで、作成する書類も登記の内容も変わります。
- コンバーティブル投資手段を使うと、登記は不要になりますか。
-
いいえ。新株予約権を発行すれば、その発行による変更登記が必要です(会社法911条3項12号、915条1項)。将来、株式へ転換した時点でも、資本金の額などの変更登記が必要になります。「登記が要らなくなる」のではなく、精緻な企業価値評価や株主間契約の交渉を後ろにずらせる、という点が特徴です。
7.まとめ|まずは全体像から押さえる
コンバーティブル投資手段は、企業価値評価と資金調達のタイミングのずれに対応するための投資手段の総称です。
- 投資家が株式取得に先立って資金を供給し、将来の一定のタイミングで株式につなげる仕組みです。
- 資金供給時には、転換価額そのものではなく、価額を決めるための計算方法と転換条件を定めます。
- 大きく、負債を用いないコンバーティブル・エクイティと、負債を用いるコンバーティブル・デットに分かれます。
- J-KISSは、有償新株予約権型コンバーティブル・エクイティのために公開された契約ひな形です。
- 投資家が資金供給の時点で株主になるかどうかも、方式によって変わります。「転換まで株主にならない」のは、有償新株予約権型やコンバーティブル・デットの特徴です。
- 株式につながる経路も、新株予約権の行使だけとは限りません。J-KISS 2.0のように、取得条項に基づいて会社が新株予約権を取得し、株式を交付する設計もあります。
- 会社法上の手続・登記・登録免許税は、選んだ方式によって変わります。名称ではなく、実際の法的形式で確認してください。
J-KISSそのものの仕組みを詳しく知りたい方は、J-KISSの発行から転換までの流れを解説した記事もあわせてご覧ください。
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司法書士法人LSOでは、J-KISS型新株予約権をはじめ、新株予約権等を用いた資金調達について、会社法・商業登記の観点から手続を整理しています。
関連するご案内
主な参考資料
経済産業省「『コンバーティブル投資手段』活用ガイドライン」(令和2年12月28日)/会社法(e-Gov法令検索)/登録免許税法(e-Gov法令検索)/Coral Capital「J-KISS」
本記事について
本記事は、経済産業省「『コンバーティブル投資手段』活用ガイドライン」を主な情報源として、コンバーティブル投資手段の基本的な考え方と代表的な類型を、会社法・商業登記の観点から整理したものです。同ガイドラインは令和2年12月28日時点の法令等に基づく資料であり、その後の法令改正や実務の変化は反映されていません。J-KISSの具体的な条件に関する記述は、Coral Capitalが公開するJ-KISS 2.0(Version 2.01)の投資契約書・発行要項に基づいています。個別の契約条件、必要な決議の内容、登記事項および登録免許税額は、実際の契約書・発行要項・定款・機関設計によって異なりますので、具体的な案件については個別にご確認ください。
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