社長の個人実印を会社実印にできる?兼用できる印鑑の大きさと注意点をわかりやすく解説

結論
社長(代表取締役)が個人の実印として使っている印鑑は、そのまま会社実印として法務局に届け出ることができます。会社名が彫られている必要もありません。
ただし、どんな印鑑でも届け出られるわけではなく、大きさに決まりがあります。1辺1cmの正方形に収まらず、1辺3cmの正方形に収まるものでなければなりません(商業登記規則9条3項)。
もう1つ気をつけたいのが、兼用することのリスクです。個人と会社の大事な書類に同じ印鑑を使うことになるため、なくしたり無断で使われたりすると、個人と会社の両方に影響が及ぶおそれがあります。当事務所では、会社を作ったばかりの時期などの一時的な使い方にとどめ、会社用の印鑑に切り替えることをおすすめしています。
1.個人の実印を会社実印にできる理由|商業登記規則9条
会社実印というと、外周に会社名、中央に「代表取締役之印」と彫られた丸い印鑑を思い浮かべる方が多いと思います。では、法務局に届け出る印鑑には、どのような条件があるのでしょうか。条件を定めているのは、商業登記規則9条3項・4項です。
商業登記規則9条3項・4項(印鑑の提出等)
3 印鑑の大きさは、辺の長さが一センチメートルの正方形に収まるもの又は辺の長さが三センチメートルの正方形に収まらないものであつてはならない。
4 印鑑は、照合に適するものでなければならない。
「照合」は、届け出た印影と、申請書などに押された印影を見比べて確かめることをいいます。出典:商業登記規則9条|e-Gov法令検索
条文が求めているのは、印鑑の大きさと、照合に適することの2つです。会社名や「代表取締役之印」といった文字を彫ることは求められていません。そのため、社長の個人の実印でも、この2つを満たせば会社実印として届け出ることができます。
本記事では、会社の代表者が法務局に届け出た印鑑を「会社実印」(法令上の言葉ではありません)、印鑑を紙に押した跡を「印影」と呼びます。
合同会社でも、会社を代表する社員(代表社員)が個人であれば、同じように、その人の個人の実印を会社実印として届け出ることができます。印鑑を届け出る人を、商業登記規則9条1項4号が「会社の代表者」と定めているためです。代表社員が法人の場合は、その法人が選んだ職務執行者が届け出るなど、扱いが異なります。
なお、2021年(令和3年)2月15日からは、登記をオンラインで申請する場合、印鑑の届出は原則として任意になりました。ただし、オンラインで申請する場合でも、司法書士などの代理人への委任状を書面で出すときは、その委任状に法務局に届け出た印鑑を押すため、届出が必要です(法務省「オンラインによる印鑑の提出又は廃止の届出について」)。書面で登記を申請する場合(商業登記規則35条の2)や、会社の印鑑証明書が必要な場合にも、届出が必要です(法務省「商業・法人登記 Q&A」)。届出が任意になった経緯は、会社実印がなくても登記はできる?印鑑提出の任意化で解説しています。
2.会社実印として届け出られる印鑑の大きさ|1cm超・3cm以内
1章の3項の基準は、1辺1cmの正方形に収まらず、1辺3cmの正方形に収まる大きさ、ということです。
法務局の印鑑(改印)届書の様式にも、「印鑑の大きさは、辺の長さが1cmを超え、3cm以内の正方形の中に収まるものでなければなりません」と書かれています。丸い印鑑なら、直径が10mmを超え30mm以内が目安です。直径で比べると、次の図のとおりです。
届け出られない
直径 約8mm
1cm四方の正方形に収まってしまう
大きさの条件を満たす
直径 約16mm
1cm四方からはみ出し、3cm四方には収まる
届け出られない
直径 約34mm
3cm四方の正方形からはみ出す
※比較のための模式図で、画面上の大きさは実寸ではありません。直径がちょうど10mmの丸い印鑑は1cm四方に収まるため届け出られず、ちょうど30mmなら3cm四方に収まるため大きさの条件を満たします。大きさを満たしても、欠けやかすれで照合に適さない印鑑は届け出られません。
個人の実印として登録できていても、小さすぎることがある
個人の実印として登録できる印鑑の条件は、市区町村ごとに決まっています。たとえば東京都港区は、「印影の大きさが一辺25ミリメートルの正方形に収まり、一辺8ミリメートルの正方形に収まらないもの」としています(港区「どんな印鑑でも印鑑登録できますか。」)。このような市区町村では、直径9mmほどの印鑑でも個人の実印になりますが、1cm四方に収まるため、会社実印としては届け出られません。
届け出る前に、印影が1cm四方・3cm四方の正方形にどう収まるかを確かめ、欠けやすり減りがないかも見ておきましょう。四角い印鑑や楕円の印鑑も、同じように正方形に収まるかどうかで判断します。
3.社長の個人実印を会社実印として使う場面
当事務所のご依頼では、次のような場面で、一時的に社長の個人の実印を会社実印として届け出ることがあります。ここに挙げたのは例です。
- 会社用の印鑑が設立日に間に合わない:個人の実印で設立の登記と印鑑の届出をし、会社用の印鑑ができたら改印を届け出ます。
- 事業承継のために先に作る会社(準備会社):他社の事業を譲り受けるために、先に受け皿となる会社だけを作ることがあります。本記事では、このような会社を「準備会社」と呼びます。「〇〇準備合同会社」のように、事業を譲り受けたあとに会社名を変える予定があると、すぐ変わる会社名で印鑑を作ることをためらう方もいらっしゃいます。そこで、会社名が決まるまでの間は、社長の個人の実印を会社実印として届け出ておくことがあります。
4.個人実印と会社実印を兼用するときの注意点
個人の実印を会社実印として届け出ることはできますが、1本の印鑑を個人と会社で兼用していると、次の3つの点に注意が必要です。
なくしたり、無断で使われたりしたときの影響が大きい
個人と会社の両方に影響が及びます。会社実印の改印と、市区町村での個人の実印の登録の廃止・再登録を、両方とも検討することになります。
会社実印を預けると、個人の実印も預けることになる
経理や総務の担当者に会社実印を預けると、社長が個人の不動産取引などに使う実印まで一緒に預けることになります。
個人と会社のどちらとして押したのか分かりにくい
契約書に会社名と「代表取締役」の肩書を書いておかないと、社長個人としての押印か、会社の代表者としての押印かを、後から確かめるのに手間がかかります。
5.個人の実印を会社実印として届け出る方法
手続は、会社用の印鑑を届け出るときと同じで、法務局の「印鑑(改印)届書」を使います。個人の実印を会社実印にするときは、届書の2か所に同じ印鑑を押すことになります。
法務局の届書の見本で、どの欄に押すかを示すと、次のとおりです。
印鑑(改印)届書
(注1)届出印は鮮明に押印してください
商号・名称
株式会社見本
本店
大阪市北区○○町○丁目○番○号
資格
代表取締役
氏名
山田 太郎
生年月日
昭和○年○月○日生
会社法人等番号
0000-00-000000
届出人(注3) ☑ 印鑑提出者本人 □ 代理人
住所
大阪市○○区○○町○丁目○番○号
氏名
山田 太郎
(注3)の印
市区町村に登録済の印鑑
①届出印の欄:会社実印として届け出る印鑑を押す
②届出人の印の欄:本人確認のため、市区町村に登録した個人の実印を押す
個人の実印を会社実印にするときは、①と②に同じ印鑑を押します
※法務省の印鑑(改印)届書の様式をもとに、上半分を抜き出して作った見本です。印鑑カードの引継ぎの欄や委任状の欄などは省略しています。記入内容は架空のものです。会社用の印鑑を届け出るときは、①だけが会社用の印鑑になります。
届書には、商号・本店と、届け出る人の資格・氏名・生年月日を書き、上の図のとおり2か所に押印します(印鑑(改印)届書の注記)。代理人が届け出るときは、届書の委任状の欄に、本人が市区町村に登録した実印を押します。
届書は、本店を管轄する法務局に提出します。書面で届け出るときは、作成後3か月以内の本人の印鑑登録証明書を添付します(商業登記規則9条5項1号)。設立などの登記の申請と同時に届け出る場合は、登記申請書に添付した印鑑登録証明書を援用できます(印鑑届書の注記)。会社の印鑑証明書を窓口や郵送で取る予定があるときは、あわせて印鑑カードの交付も請求しておきます(商業登記規則9条の4第1項)。
社長の個人の実印を会社実印として法務局に届け出ても、市区町村での個人の実印の登録はそのまま変わりません。証明書も別々で、個人の印鑑登録証明書は市区町村が、会社の印鑑証明書は法務局が発行します(商業登記法12条1項)。
6.司法書士として実際に確認しているポイント
社長の個人の実印を会社実印として届け出たいとご相談いただいたときは、まず兼用するリスクをお伝えします。そのうえで兼用される場合に、2・3の点を確認しています。
1
兼用するリスクをお伝えする
なくしたり無断で使われたりすると個人と会社の両方に影響が及ぶことなど、4章の注意点をご説明します。そのうえで、会社を作ったばかりの時期などの一時的な使い方にとどめることをおすすめしています。
2
誰の実印を届け出るか
兼用するのは、法務局に印鑑を届け出る代表取締役本人の実印です。代表取締役が2人以上いる会社では、どの代表取締役が届け出るかも確認します。
3
印影が大きさと照合の条件を満たすか
個人の実印をお預かりする前に、大きさと、欠け・かすれがないかを確認します。
会社の設立は、株式会社・合同会社の設立登記でご案内しています。
7.よくあるご質問
- 届け出た個人の実印を、あとから会社用の印鑑に変えられますか?
-
変えられます。会社用の印鑑ができたら、法務局の「印鑑(改印)届書」で、新しい印鑑を届け出ます(商業登記規則9条1項)。新しい印鑑も、2章の大きさの条件(同条3項)と照合に適すること(同条4項)を満たす必要があります。市区町村での個人の実印の登録は、そのままで構いません。
- 届け出た個人の実印をなくしたときは、法務局でどんな手続をしますか?
-
新しい印鑑をすぐに用意できるかで分かれます(法務省「商業・法人登記 Q&A」)。すぐに用意できるときは、改印を届け出ます。ただし、届書の届出人の欄には市区町村に登録した個人の実印を押すため(5章)、個人の実印と兼用していた場合は、先にお住まいの市区町村で新しい実印を登録しておく必要があります。すぐに用意できないときは、印鑑の廃止を届け出ます。印鑑カードの交付を受けているときは、印鑑カードの廃止もあわせて届け出て、原則としてカードを返納します(商業登記規則9条の5第5項)。印鑑カードを提示すれば、これらの届出に押印は要りません(同規則9条7項、9条の5第3項)。
8.まとめ
- 社長の個人の実印も、会社実印として届け出られる会社名の刻印は不要です。1辺1cmの正方形に収まらず、1辺3cmの正方形に収まる大きさで、照合に適する印鑑であることが条件です(商業登記規則9条3項・4項)。
- 兼用は一時的な使い方にとどめるのが安心設立日に会社用の印鑑が間に合わないときや準備会社などで使い、会社名が決まって口座開設や重要な契約が始まる前に、会社用の印鑑に改印することをおすすめしています。
- 兼用しても、個人の登録と会社の届出は別個人の印鑑登録証明書は市区町村が、会社の印鑑証明書は法務局が発行します。
関連するご案内・コラム
本記事について
本記事は、2026年(令和8年)11月時点の会社法・商業登記法・商業登記規則と、法務省・法務局の公表資料をもとに、司法書士法人LSOが、社長(代表取締役)の個人の実印を会社実印として届け出るときの基準と注意点を解説したものです。具体的な手続や必要書類は、会社の状況や管轄の法務局の取扱いによって異なる場合があります。特殊な印影の印鑑を届け出るときは、管轄の法務局に事前に確認しておくと確実です。
来所不要・全国対応。マイナンバーカードを利用したオンライン登記に対応しています
対応するスマートフォンとマイナンバーカードがあれば、委任状等への電子署名をオンラインで行っていただけます。登記申請は当事務所が行います。電子署名サービス「サインルーム(旧RSS-SR)」と専用アプリ「RSSモバイル」を利用します。案件によっては、書類の郵送等をお願いする場合があります(専用アプリ「RSSモバイル」のダウンロードはこちら)。初回相談無料です。
商業登記・企業法務 料金表を見る

