会社実印がなくても登記はできる?印鑑提出の任意化と電子署名の法的な位置づけ

監修:司法書士法人LSO 代表社員 金光康太

結論

令和3年2月15日、商業登記法第20条が削除され、登記所へ会社の代表者印(会社実印)を届け出る義務がなくなりました

これにより、オンラインで登記を申請する場合には、会社実印を押さずに商業登記の申請を進めることができます。代表者ご本人が申請する場合は申請情報に、司法書士が代理して申請する場合は電子委任状に、それぞれ所定の電子署名を行う形になります。

ただし「義務がなくなった」ことと「不要になった」ことは別です。書面の申請書や書面の委任状を用いる場合には、従来どおり登記所に提出した印鑑の押印が必要です。本稿では、制度がどう変わったのか、その法的な根拠とあわせて整理します。

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1. かつては「印鑑を届け出ること」が登記申請の前提でした

書面による商業登記の申請書には、申請人またはその代表者もしくは代理人の押印が必要です(商業登記法第17条第2項)。このうち、申請人またはその代表者が申請書に押印する場合、その印鑑はあらかじめ登記所に提出しておいた印鑑でなければなりません(商業登記規則第35条の2第1項)。また、書面の委任状には、会社の登記所届出印を押印します(同条第2項)。

かつては、この「印鑑の提出」自体が義務とされていました。改正前の商業登記法第20条は、登記の申請書に押印すべき者は、あらかじめ、その印鑑を登記所に提出しなければならない旨を定めていたためです。

そのため、株式会社を設立する際には、代表取締役が印鑑届書を提出して会社実印を登録することが、事実上の必須手続でした。「会社をつくるには、まず実印をつくる」という順序は、この規定に由来しています。

2. 令和3年2月15日、印鑑の提出義務がなくなりました

令和元年12月11日に公布された「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(令和元年法律第71号)により、商業登記法第20条は削除されました。施行日は令和3年2月15日です。取扱いは令和3年1月29日法務省民商第10号通達で示されています。

なぜ義務でなくなったのか

国会審議では、改正の理由として次の2点が説明されています。

  • オンライン申請では、電子証明書によって申請人の同一性を確認できるため、これに加えて印鑑の提出まで義務付ける意義が乏しくなっていたこと
  • 印鑑届書だけが書面での提出を要していたため、登記手続をオンラインだけで完結できなかったこと

つまり、押印文化の見直しという一般論というより、オンライン申請を最後まで電子で完結させるための改正であった、という位置づけです。

なお、その後、行政手続全般における押印の見直し(令和2年7月17日閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針2020」および「規制改革実施計画」)が進められ、商業・法人登記の申請書や添付書面についても、押印の要否が改めて整理されています。こちらは第20条の削除とは別の動きです。

「任意化」であって「押印の廃止」ではありません

ここが誤解されやすい点です。義務がなくなったのは印鑑を提出することであって、申請書への押印そのものではありません。書面で申請する以上、押印の要件は今も変わっていません。

表は横にスクロールしてご覧いただけます。

申請方法 印鑑の提出 必要な押印・電子署名
代表者本人によるオンライン申請 任意 申請情報に代表者が電子署名
電子委任状による代理申請 任意 代表者が電子委任状に電子署名/司法書士が申請情報に電子署名
書面による本人申請 必要 申請書に登記所届出印を押印
書面委任状による代理申請 必要 申請書に代理人が押印し、委任状に登記所届出印を押印

なお、オンラインで申請する場合でも、委任状以外の添付書面については、書面で作成して法務局へ郵送または持参する方法(別送)を利用できる場合があります。すべての添付書面を電子化しなければならないわけではありません。ただし、その書面に押印や印鑑証明書の添付が求められている場合は、その要件を満たす必要があります。

3. 会社実印の代わりになるのは「電子署名」です

(1) 電磁的記録として作成し、電子署名を付した書類を添付できます

定款、議事録、就任承諾書などが電磁的記録(電子データ)として作成されている場合には、その電磁的記録を登記の添付情報として提出できます(商業登記法第19条の2)。この場合、原則として、その電磁的記録の作成者による電子署名と、所定の電子証明書が必要です(商業登記規則第102条)。

注意していただきたいのは、紙の原本をスキャンしただけのPDFでは足りないという点です。スキャンしたPDFでは、紙面上の署名や押印が画像として表示されるにすぎず、電子署名を付した添付書面情報にはなりません。オンラインで添付するPDFには、その書面について必要となる作成者の所定の電子署名を付す必要があります。紙の原本を提出する場合は、法務局へ別送します。

(2) マイナンバーカードの電子証明書が使えます

登記の添付書面情報に用いることができる電子証明書は法務省が定めており、その中には、法務局が発行する商業登記電子証明書のほか、マイナンバーカードに搭載された公的個人認証サービスの署名用電子証明書が含まれています(法務省「電子署名に使用できる電子証明書」)。

この署名用電子証明書は、電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(公的個人認証法)に基づき、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が発行するものです。市区町村の窓口は、申請の受付や本人確認などを行います。役所での本人確認を経て発行されるという点で、印鑑登録と印鑑証明書の関係とよく似た仕組みです。

設立の場面では、これが特に大きな意味を持ちます。設立登記の前は、まだ会社の登記が存在しないため、商業登記電子証明書を取得することができません。そのため、代表取締役となる方個人のマイナンバーカードの署名用電子証明書を利用できることに実務上の意味があります。会社実印も会社の電子証明書もない状態から、設立登記を申請できるということです。

なお、設立登記の完了後は、代表者個人の署名用電子証明書などを用いて、商業登記電子証明書の発行をオンラインで請求することもできます。オンラインによる発行請求は、令和3年2月15日から可能となっています。登記所に印鑑を提出していなくても、所定の要件を満たせば取得できます。

(3) 電子署名の法的な効果は、2つに分けて理解します

電子署名の効果は、性質の異なる2つの側面から成り立っています。混同されがちなので、分けて整理します。

ひとつは、訴訟における推定効です。電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)第3条は、本人だけが行うことができる電子署名が行われた電磁的記録について、真正に成立したものと推定する旨を定めています。紙の世界で、本人の署名または押印がある私文書は真正に成立したものと推定される(民事訴訟法第228条第4項)のと対になる規定です。ただし、あらゆる電子署名にこの推定が働くわけではなく、本人だけが行えるよう符号や物件が適切に管理されているなど、同条の要件を満たす必要があります。

もうひとつは、登記手続上の取扱いです。商業登記規則の定めにより、一定の申請情報や添付書面情報については、所定の電子署名と電子証明書を用いることで、書面への押印や印鑑証明書の添付に代えることができます。こちらは登記実務上の取扱いであり、上記の推定効とは別の話です。

電子署名が「実印に相当する」と説明されることがありますが、これは分かりやすさを優先した表現です。法的な効果が実印と完全に同一という意味ではありません。

4. 就任承諾書などの押印・印鑑証明書はどうなったのか

会社実印とは別に、役員個人の実印による押印と印鑑証明書の添付が求められる場合があります(商業登記規則第61条第4項・第5項)。対象は会社の機関設計によって異なります。

  • 取締役会を設置していない株式会社:新たに就任する取締役の就任承諾書
  • 取締役会設置会社:新たに就任する代表取締役の就任承諾書

いずれも再任の場合は除かれるなど、印鑑証明書を要しない場合もあります。

これらの書面についても、就任する本人が電磁的記録として作成し、署名用電子証明書による電子署名を行えば、押印と印鑑証明書の添付に代えることができます。

なお、押印の要否は書面ごとに異なります。法務省が押印の要否の一覧を公表しており、たとえば株主リストや資本金の額の計上に関する証明書は、押印を要しない書面とされています。「登記書類にはすべて押印が必要」という理解は、現在では正確ではありません。

5. それでも会社実印を作成すべきか

制度上は任意でも、実務上は会社の代表者印を作成し、登記所に提出しておくことをおすすめしています。理由は次の2点です。

  • 法人の印鑑証明書が取得できません。印鑑を提出していない会社は、登記所発行の印鑑証明書を取得できません。金融機関での口座開設や融資、不動産取引、許認可申請などで、登記所に提出した代表者印の押印と法人の印鑑証明書を求められることがあります。
  • 届出印を要する書面申請が利用できません。印鑑を提出していない間は、登記所届出印の押印を要する書面申請や、書面委任状による代理申請を利用できません。ただし、必要になった時点で印鑑を提出すれば、その後は書面による申請も可能です。

逆に、実印の作成が間に合わないほど急いで設立したい場合には、印鑑がなくても設立登記を申請できるという点に実益があります。印鑑は設立登記の完了後に、あらためて書面で提出することができます。なおオンラインでの印鑑の提出は、オンラインによる登記申請と同時に行う場合に限られており、印鑑の届出だけを単独でオンライン提出することはできません(商業登記規則第101条第1項第2号)。

6. オンラインでご依頼いただく前の2つの確認

マイナンバーカードによる電子署名は難しいものではありませんが、実務では次の2点でつまずくことがあります。ご依頼の前にご確認いただけると、手続がスムーズです。

確認1:署名用電子証明書が有効か

  • 有効期間は、原則として発行日から5回目の誕生日までです。マイナンバーカード本体の有効期限などにより、それより早く満了する場合もあります。
  • 住所・氏名などに変更があると失効します。転居や結婚のあと更新されていないケースが少なくありません。
  • そもそも署名用電子証明書を発行していない場合もあります(カード受取時に希望しなかった場合など)。

確認2:署名用電子証明書のパスワードを覚えているか

電子署名を行うには、マイナンバーカードを受け取った際に窓口で設定した署名用電子証明書のパスワードが必要です。よくあるつまずきの一つです。

  • 半角英数字6文字以上16文字以下で、英字と数字の両方を含みます。英字は大文字です。
  • マイナンバーカードには複数の暗証番号があります。数字4桁のもの(利用者証明用電子証明書・住民基本台帳事務用など)とは別物ですので、お間違えのないようご注意ください。
  • 5回連続で間違えるとロックされます。市区町村の窓口で初期化・再設定できるほか、利用者証明用電子証明書の数字4桁のパスワードが利用できる場合には、専用アプリで事前予約のうえ、対応するコンビニ等のキオスク端末で初期化・再設定する方法もあります。

ロックされると、パスワードの初期化・再設定が完了するまで手続を進められなくなることがあります。心当たりのない方は、ご依頼前に一度ご確認ください。

7. 当事務所のオンライン対応について

司法書士法人LSOでは、会社設立をはじめとする商業登記について、オンラインでのご依頼に対応しています。お客様の電子署名には、電子署名サービス「サインルーム(旧RSS-SR)」を利用します。パソコン用のICカードリーダーは不要で、マイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォンへ、専用アプリ「RSSモバイル」をインストールしていただきます。

インストール後は、画面の案内に従って署名対象の書類をご確認いただき、署名用電子証明書のパスワードを入力したうえで、マイナンバーカードをスマートフォンで読み取っていただきます。ご不明な点は、お電話・LINE・Chatworkでサポートいたします。

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もっとも、すべてを電子で行うことが常に最善とは限りません。登記申請はオンラインで行い、会社の代表者印は別途登記所に提出する、といった組み合わせが適する場面もあります。ご事情に応じて、ご負担が最小となる進め方をご提案します。

また、オンラインでのご依頼についても、案件に応じ、犯罪による収益の移転防止に関する法律、司法書士法、会則その他の関係規程に基づき、本人確認および登記申請意思の確認を行います。署名用電子証明書は、電子署名を行った者の名義や、署名後に電子データが改変されていないことを確認するための有効な手段ですが、それだけで登記申請の意思や代表権限まで確認できるわけではありません。当事務所では、電子署名の確認に加え、オンライン面談その他の方法を組み合わせて、手続の内容とご本人の意思を確認しています。

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参考法令・資料