増資額が決まる前に減資の公告を出せる?増える資本金と同じ額を減らす方法と注意点

結論
資金調達で増える資本金の額がまだ決まっていなくても、「増資で増える資本金の額と同じ額を減らす」という形で減資を決め、先に官報公告を出す方法があります。
たとえば
資本金5,000万円の会社が最大1億円の増資をする場合に、8,000万円が払い込まれれば8,000万円を、1億円が払い込まれれば1億円を減らし、増資と同じ日に資本金を5,000万円に戻す、という使い方です。減らす額は、払込みの結果で決まります。
使うときの注意
条文で直接定められた方法ではないため、公告を出す前に、管轄の法務局へ文言を確認しておくのが無難です。
1.増資額が決まる前に減資を決めたいのはどんなとき?
資金調達の払込みが決算期末の近くにあり、決算期末の資本金をもとの額に戻したいのに、増える資本金の額が払込みまで分からないときです。
ここでいう減資は、資本金として計上している金額を減らす手続です。増資で受け取ったお金を出資者に返すという意味ではありません。
この記事で使う設例
- 取締役会を置き、発行するすべての株式に譲渡制限がある会社(非公開会社)です。発行しているのは普通株式だけとします。
- 決算期末は3月31日で、もとの資本金は5,000万円です。
- 募集株式を発行し、払込期日は2027年(令和9年)3月25日です。払い込まれる額は最大1億円で、応募の状況によって少なくなることがあります。
- 払い込まれた額は、全額を資本金に計上します(一部を資本準備金にする場合は、払い込まれた額と増える資本金の額は一致しません)。
- 払込期日と同じ日に減資の効力を生じさせ、決算期末の資本金を5,000万円に戻したいと考えています。
たとえば8,000万円が払い込まれた場合、資本金は次のように動きます。
※ 減らす額は、増えた資本金の額(ここでは8,000万円)と同じです。1億円が払い込まれれば1億円を減らします。
資本金をもとの額に戻したい理由として多いのは、税金の扱いです。増資の結果、資本金が1億円を超えると、法人税や法人事業税(外形標準課税)などで、資本金1億円以下の会社とは扱いが変わることがあります。『商業・法人登記500問』(神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介編著、テイハン)のQ255(311頁)の設問も、「税金対策のためにも」資本金を戻したいという場面です。このほか、会社法上の大会社となるのを避けるために、増資と同時に減資することもあります(加藤政也編『Q&A商業登記と会社法』(新日本法規出版)209頁)。
スタートアップが投資家に新しく株式を発行する場合、引受けや払込みの状況が固まるまで、増える資本金の額が決まらないことがあります。一方で、減資には債権者保護手続が必要で、会社は、官報への公告と、知れている債権者への個別の催告で、債権者が異議を述べることのできる期間を1か月以上定めなければなりません(会社法449条2項)。この手続が終わらないと、効力発生日が来ても減資の効力は生じません(同条6項)。
そのため、払込期日と同じ日に減資の効力を生じさせるには、増える額が決まる前に公告を出す必要があります。増資と同じ日に減資する手続の全体像は、「増資と同時に減資できる?資本金の減少をB/Sで図解」で解説しています。この記事では、増える額が決まっていない場合に絞って説明します。
2.減らす額を「増える資本金と同じ額」と決めてよい?
減らす額をこの形で定めてよいかを直接定めた条文はありませんが、実務では登記が受理された例があり、登記の実務書でも認める考え方が紹介されています。
会社法447条は、減資をするときに「減少する資本金の額」や効力発生日などを定めるよう求めています。ただ、減らす額を決議の時点で具体的な数字で書かなければならないとまでは書かれていません。この点が、この方法を考えるうえでのポイントです。条文を確認してみましょう。
会社法447条(資本金の額の減少)
1 株式会社は、資本金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 減少する資本金の額
二 減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額
三 資本金の額の減少がその効力を生ずる日
2 前項第一号の額は、同項第三号の日における資本金の額を超えてはならない。
3 株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、当該資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときにおける第一項の規定の適用については、同項中「株主総会の決議」とあるのは、「取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)」とする。
2項は、減らす額の上限を効力発生日の資本金の額としています。増資と同じ日に効力を生じさせる場合、効力発生日の資本金には、その日の増資で増えた額も含まれます(加藤政也編『Q&A商業登記と会社法』(新日本法規出版)209頁。『商業・法人登記500問』Q254(310~311頁)も同じ考え方です)。
『商業・法人登記500問』のQ255(311~312頁)は、増える額が決まらない場合に、増えた資本金の額と同じ額(上限の金額を示し、増えた額がそれを下回ったときはその額)を減らす公告文を設問で示し、回答で、この形の公告が官報に10例程度掲載され、いずれも登記が受理されていた(2023年春時点。半数以上はベンチャーキャピタルからの出資とみられる内容)と紹介しています。そのうえで、否定説があることにも触れつつ、減らす額を特定できれば足りることなどを、認める理由に挙げています。
当事務所の考え方
この方法を使うときは、公告を申し込む前に、公告と決議の文言を管轄の法務局に確認しておくのが安全だと考えています。決算期末の直前に効力を生じさせる減資は、登記ができなかったときにやり直す時間がないためです。
3.公告の書き方の例
設例のように資本金をもとの額に戻したいときは、減らす額を「その増加した資本金の額である金1億円(ただし、増加資本金額がこれを下回った場合は、その額)」のように、増資で増える額に連動させて書きます。
次の公告文は、設例に当てはめた例です。もとにした資料は、見本の下の注記のとおりです。
資本金の額の減少公告
当社は、払込期日を令和9年3月25日とする募集株式の発行が行われることを条件に、その増加した資本金の額である金1億円(ただし、増加資本金額がこれを下回った場合は、その額)を減少することにいたしました。
ただし、同時に株式の発行により増額いたしますので、効力発生日後の資本金の額は同日前を下回ることはありません。
そのため、株主総会の決議を経ずに決定しております。
この決定に対し異議のある債権者は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。
なお、最終貸借対照表の開示状況は次のとおりです。
掲載紙 官報
掲載の日付 令和○○年○○月○○日
掲載頁 ○○○頁(号外第○○○号)
令和9年2月15日
○○県○○市○○町○丁目○番○号
○○○○株式会社
代表取締役 ○○○○
※ 1段落目の減らす額の書き方は『商業・法人登記500問』Q255(311頁)の設問で示された公告文に、2段落目以降は加藤政也編『Q&A商業登記と会社法』(新日本法規出版)213頁の参考書式(募集株式の発行と同時に資本金及び資本準備金の額を減少する場合の公告)に、それぞれならっています。「最終貸借対照表の開示状況」の書き方は、最終事業年度の決算公告を官報でしている場合のものです。実際の文言は、官報販売所の文例や管轄の法務局への確認を踏まえて決めます。
「最終貸借対照表の開示状況」の部分は、会社の状況によって書く内容が変わります(会社計算規則152条)。決算公告やウェブサイトでの貸借対照表の開示をしていない会社では、最終事業年度の貸借対照表の要旨そのものをこの公告に載せます。最終事業年度がない会社(最初の事業年度の決算がまだ確定していない会社)では、その旨を書きます。スタートアップでは決算公告をしていない会社も少なくありません。その場合は要旨を載せる分だけ公告が長くなり、費用も増えるので、早めに準備します。
また、官報公告とは別に、知れている債権者には個別に催告しなければならず(会社法449条2項)、催告書にも減らす額を同じ書き方で記載します。定款で定めた公告方法が電子公告や日刊新聞紙の会社は、官報とあわせてその方法でも公告すれば、個別の催告を省略できます(同条3項)。電子公告による場合は、公告期間中、法務大臣の登録を受けた調査機関に調査を求める必要があります(会社法941条)。
増えた資本金と同じ額を減らし、増資と同じ日に効力を生じさせれば、減資後の資本金はもとの額を下回りません。そのため、株主総会ではなく取締役会の決議(取締役会のない会社では取締役の決定)で減資を決められます(会社法447条3項)。公告の見本に「株主総会の決議を経ずに決定しております」とあるのは、このためです。減らす額を予定の金額(設例なら1億円)で決めてしまうと、払込みが予定より少なかったときに減資後の資本金がもとの額を下回り、この特例が使えなくなります。なお、募集株式の発行そのものに必要な決議は、別に行います(加藤政也編『Q&A商業登記と会社法』(新日本法規出版)209~210頁)。
取締役会の議事録でも、減らす額は公告と同じ書き方で定めます。また、減らした額の一部でも資本準備金にするときは、公告にもその旨と額を書きます(加藤政也編『Q&A商業登記と会社法』(新日本法規出版)213頁)。
4.減らす額が確定する時期と登記の申請
減らす額は、払込期日に増える資本金の額が決まった時点で確定します。登記は、確定した金額で、効力が生じた日から2週間以内に申請します(会社法915条1項)。
登記を申請する時点では、減らす額はすでに確定しています(『商業・法人登記500問』Q255・312頁)。増える額と同じ額を減らして資本金が結果として変わらない場合でも、増資と減資の両方の効力が生じているため、登記すべき事項として、増資後の発行済株式の総数と資本金の額、減資後の資本金の額を、それぞれ同じ日付で記録します(加藤政也編『Q&A商業登記と会社法』(新日本法規出版)211頁)。
設例で8,000万円が払い込まれ、8,000万円を減らした場合の登記すべき事項は、次のようになります。
登記すべき事項の例(設例・8,000万円が払い込まれた場合)
「発行済株式の総数」○○株
「原因年月日」令和9年3月25日変更
「資本金の額」金1億3,000万円
「原因年月日」令和9年3月25日変更
「資本金の額」金5,000万円
「原因年月日」令和9年3月25日変更
登録免許税は、増資について増えた資本金の額の1,000分の7(3万円に満たないときは3万円)、減資について申請1件につき3万円です(登録免許税法別表第一24号(一)ニ・ツ)。この場合は、8,000万円×1,000分の7=56万円と3万円で、合計59万円になります。
主な根拠条文
- 会社法447条(資本金の額の減少)
- 会社法449条(債権者の異議)
- 会社計算規則152条(公告する計算書類に関する事項)
- 会社法309条2項9号(株主総会の特別決議)
- 会社法915条1項(変更の登記)
- 登録免許税法別表第一24号(一)(会社の登記の税額)
5.司法書士として実際に確認しているポイント
増える額が決まる前に減資の公告を出す方法をお手伝いするとき、当事務所で主に確認している点です。
- 公告と取締役会の議事録で、減らす額の書き方(払込期日・上限の金額)が同じになっているか
- 払い込まれた額を全額資本金にするのか、一部を資本準備金にするのか
- 一部を資本準備金にする場合、減らす額を「払い込まれた額と同額」と書いていないか(増える資本金の額は、払い込まれた額より少なくなります)
- 公告を申し込む前に、文言を管轄の法務局に確認する時間があるか
- 投資家との間で払込期日が動く可能性はないか(動けば、公告と決議のやり直しになります)
- 払込期間ではなく、払込期日で定めているか(払込期間だと、払込みをした日ごとに株式の発行の効力が生じます)
- 法人住民税の均等割や助成金の要件も含めて、増資と減資の組み合わせ(スキーム)を顧問税理士に確認したか
- 減資をしても、資本剰余金の額や前の事業年度の課税状況などによっては、税金の扱いが資本金1億円以下の会社と同じになるとは限りません
6.よくあるご質問
- 払込みがまったくなかった場合、減資はどうなりますか?
-
公告と決議では「募集株式の発行が行われること」を条件にしているため、払込みがまったくなく株式が発行されなかった場合は、条件を満たさないので、減資の効力は生じません。払込みをしなかった引受人は、株主となる権利を失います(会社法208条5項)。資本金も発行済株式の総数も変わらないため、変更の登記をすることもありません。なお、公告と決議は払込期日を特定して書いているので、払込期日を変えて募集し直すときは、減資の決議と公告もやり直すことになります。
- 減資を株主総会で決める場合も、同じ書き方で決められますか?
-
株主総会で決める場合も、定める事項は同じ会社法447条1項の事項で、減らす額を同じ形で定められます。447条3項の要件を満たす場合でも、登記実務では、株主総会で減資を決議することもできるとして取り扱われています(加藤政也編『Q&A商業登記と会社法』(新日本法規出版)213頁)。この場合は株主総会の特別決議が必要で(会社法309条2項9号)、公告の見本のうち「そのため、株主総会の決議を経ずに決定しております。」の一文は使えません。決議の時点で増える額が分からない点は変わらないため、公告と同じく、事前に法務局に確認しておくと安心です。
7.まとめ
- 増える額が決まる前でも、公告を先に出す方法がある「増える資本金の額と同じ額を減らす」形で減らす額を定め、払込みの結果で金額を確定させます。
- 条文はないが、実務で使われている方法官報への掲載と登記の受理の例があり、登記の実務書でも認める考え方が紹介されています。
- 同じ額を減らすなら、取締役(取締役会)で決められる増資と同じ日に効力を生じさせ、減資後の資本金がもとの額を下回らないため、会社法447条3項の特例が使えます。減らす額を予定の金額で決めると、払込みが少なかったときにこの特例が使えなくなります。
- 公告を出す前に、法務局へ文言を確認する条文で直接定められた方法ではないため、公告を出す前に、管轄の法務局へ文言を確認しておくのが無難です。
関連するご案内
本記事について
本記事は、2026年(令和8年)11月時点の会社法・会社計算規則・登録免許税法と、次の書籍の記述をもとに作成しています。公告や決議の文言は一例で、個別の事案で登記ができることを保証するものではありません。
参考資料:『商業・法人登記500問』(神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介編著、テイハン)Q254・Q255(310~312頁)/加藤政也編『Q&A商業登記と会社法-司法書士が押さえておきたいポイント-』(新日本法規出版、2022年)209~211頁・213頁
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