創業株主間契約とは?共同創業者が退任した場合の株式の取扱いを解説

監修:司法書士法人LSO 代表社員 金光康太
創業株主間契約とは、複数の創業者が株式を保有して会社を始める場合に、創業者の一人が退任したときの株式の取扱いなどを、あらかじめ定めておく契約です。契約では、主に「どのような場合に」「誰が」「何株を」「どのような価格で」譲り受けることができるのかを検討します。ただし、契約書に株式の譲渡について記載していても、退任と同時に当然に株式が移転するとは限りません。実際に株式を譲渡するときは、譲渡制限株式である場合の譲渡承認、株券発行会社である場合の株券の交付、株主名簿の名義書換えなど、その会社に必要となる手続を確認する必要があります。
こんにちは。司法書士の金光です。
「共同創業者が抜けることになったが、株式を買い取れるのか」「創業株主間契約を結んでいたのに、退任時にもめてしまった」というご相談をいただくことがあります。
急成長を目指す企業でこの契約が重要になる背景は、スタートアップ企業とは?経済産業省の資料から意味と特徴を考えるで解説しています。
今回は、創業株主間契約で決めておきたい事項と、実際に株式を譲渡するときに必要となる会社法上の手続を整理します。ひな形をそのまま使ったときに曖昧になりやすい点も取り上げます。
創業株主間契約とは
創業株主間契約は、複数の創業者が株式を保有する場合に、創業者間の権利義務や株式の取扱いを定める契約です。
複数人で会社を設立した場合、創業時には同じ目標を持っていても、その後に次のような事情が生じることがあります。
- 創業者の一人が会社を退職する
- 取締役を辞任または解任される
- 創業者同士の経営方針が合わなくなる
- 病気などにより会社への関与を続けられなくなる
- 創業者が別の事業へ移る
- 創業者が死亡する
創業者が会社を離れても、その人が保有する株式が当然に会社や他の創業者へ戻るわけではありません。退任後も株式を保有していれば、株主としての地位は残ります。議決権のある株式であれば、引き続き株主総会で議決権を行使することもできます。また、会社が成長すれば、その株式の価値が上昇する可能性もあります。
そこで、創業者の一人が会社を離れた場合の株式の取扱いを、あらかじめ整理しておくために創業株主間契約が利用されます。
なぜ創業時に契約を締結するのか
創業株主間契約は、創業者間で問題が生じてからではなく、会社設立時や創業者が株式を取得する段階で検討することが大切です。
例えば、AさんとBさんが共同で会社を設立し、Aさんが520株、Bさんが480株を保有していたとします。設立から1年後にBさんが会社を退任しても、あらかじめ合意がなければ、Bさんの480株はそのままBさんが保有します。Aさんが株式を買い取りたいと考えても、Bさんが売却に応じなければ、当然に買い取ることはできません。
また、会社が成長して株式の価値が上昇した後では、譲渡する株式数や価格について合意することが難しくなる場合もあります。創業者同士の関係が良好な段階で、一人が会社を離れた場合の取扱いについて話し合っておくことが重要です。
定款の株式譲渡制限とは何が違うのか
多くの非上場会社では、定款により、株式を譲渡する際に会社の承認が必要とされています。ただし、定款の株式譲渡制限と創業株主間契約は、役割が異なります。
定款の株式譲渡制限は、株式譲渡について会社の承認を必要とする制度です。これに対して創業株主間契約は、創業者が退任した場合などに、誰が、何株を、どのような条件で取得できるのかを、創業者間であらかじめ定めるものです。
定款に株式譲渡制限があっても、退任する創業者に株式を譲渡する義務が当然に生じるわけではありません。また、創業株主間契約で株式譲渡義務を定めていても、定款上、譲渡について会社の承認が必要とされている場合には、会社法および定款に従った承認手続も確認する必要があります。
譲渡承認を決定する機関は、原則として、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の株式会社では株主総会です。ただし、定款に別段の定めがある場合には、その定めに従います(会社法第139条第1項)。
なお、種類株式発行会社であっても、通常の株式譲渡承認だけを理由として、当然に種類株主総会が必要になるわけではありません。ただし、定款に当該事項について種類株主総会の決議を要する旨の定めがある場合や、株式譲渡に伴って会社法第322条の対象となる別の行為を行う場合などには、種類株主総会の要否も確認する必要があります。この点は種類株主総会とは?もあわせてご覧ください。
創業株主間契約で決めておきたい4つの事項
創業者が退任した場合の株式の取扱いについては、主に次の4点を検討します。
| 決めておきたい事項 | 主な検討内容 |
|---|---|
| 対象となる事由 | 役員の退任、従業員の退職、業務委託の終了など |
| 株式の譲受人 | 残る創業者、その指定する者、会社など |
| 対象となる株式数 | 全部を対象とするか、会社への関与期間に応じて減らすか |
| 譲渡価格 | 取得価額、時価、一定の算定方法など |
1.どのような場合を対象とするか
まず、どのような事情が生じた場合に、株式の譲渡を請求できるのかを定めます。単に「会社を辞めた場合」とだけ定めると、取締役を辞任した場合、従業員として退職した場合、業務委託契約が終了した場合などのうち、どこまでが対象になるのか分からないことがあります。
例えば、次のような事由を対象とすることが考えられます。
- 取締役その他の役員を退任した場合
- 従業員としての地位を失った場合
- 会社との業務委託契約が終了した場合
- 契約上定めた重大な違反行為があった場合
- その他、契約で定めた事由が生じた場合
特に、取締役と従業員を兼ねている創業者については注意が必要です。取締役を辞任しても従業員として会社に残る場合や、従業員を退職しても取締役として残る場合があります。そのため、次のいずれを「退任」とするのかを明確にします。
- 役員または従業員のいずれか一つの地位を失った時点
- 役員と従業員の両方の地位を失った時点
- 業務委託を含め、会社とのすべての関係が終了した時点
自己都合による退任と、病気や会社都合などによる退任とで、譲渡対象となる株式数や価格を変えることも考えられます。このような区分を設ける場合には、どのような事情がそれぞれに該当するのかについて、できるだけ客観的に判断できるように定める必要があります。
2.誰が株式を譲り受けるか
次に、退任する創業者の株式を誰が取得できるのかを定めます。例えば、次のような方法が考えられます。
- 残る創業者が取得する
- 複数の創業者が一定の割合で取得する
- 残る創業者が指定する者が取得する
- 一定の条件を満たす場合に会社が自己株式として取得する
複数の創業者が取得を希望する可能性がある場合には、誰が何株を取得するのかも定めておく必要があります。例えば、現在の持株割合に応じて配分する、各創業者の希望株式数に応じて配分する、特定の創業者に優先取得権を与える、当事者間の協議で決定する、といった方法が考えられます。
ただし、「協議で決定する」とだけ定めると、退任時に合意できない可能性があります。協議がまとまらない場合の配分方法も、あわせて検討しておくことが重要です。
会社が買い取る場合の注意点
まず前提として、創業株主間契約が創業者間だけを当事者とする契約である場合、その契約に会社を譲受人候補として記載しただけでは、会社に株式の買取義務が当然に生じるわけではありません。会社を契約当事者に加えるのか、会社にどのような権利を与える構成とするのかを含め、契約の当事者と権利義務の帰属を明確にする必要があります。
そのうえで、会社が退任する創業者との合意により、その株式を有償で自己株式として取得する場合には、契約上の定めとは別に、会社法第156条以下に基づく所定の機関決定その他の手続が必要です。
特定の株主から自己株式を取得する場合には、他の株主が、自らも売主に加えるよう請求できる機会を設ける手続などが必要になることがあります(会社法第160条第3項)。また、取得の相手方となる株主は、原則として当該決議について議決権を行使できません(同条第4項)。
もっとも、取得の相手方や取得原因によって例外があるため、実際の取得時には会社法第156条以下の手続を個別に確認する必要があります。また、会社が交付する金銭等については、分配可能額による制限も確認しなければなりません。
実際に会社が取得できるかどうかは、取得時点の会社の財務状況、取得方法、取得の相手方および会社の機関設計などを踏まえて確認する必要があります。
なお、株式を会社へ譲渡する創業者が取締役である場合には、株式譲渡契約の締結時期や取引内容に応じて、会社法上の利益相反取引に関する承認が必要となる可能性があります。自己株式の取得に関する決議だけで足りるとは限らず、退任の時期、契約締結日、譲渡実行日および会社の機関設計によって取扱いが異なるため、個別に確認が必要です。
3.何株を譲渡の対象とするか
退任する創業者が保有する株式の全部を譲渡の対象とするのか、一部を本人に残すのかを定めます。
保有株式の全部を譲渡対象とする設計のほか、会社への関与期間に応じて、譲渡請求の対象となる株式を段階的に減らしていく方法もあります。このような契約上の設計は、一般にリバースベスティングと呼ばれています。
創業者は既に株式を保有しているため、ストックオプションのように新たに権利を取得していく制度ではありません。創業株主間契約におけるリバースベスティングは、会社への関与期間が長くなるにつれて、退任時に譲渡を求められる株式が減っていく仕組みとして設計されます。ストックオプションにおけるクリフ・ベスティングとの違いは、ストックオプションのクリフとベスティングとは?もあわせてご覧ください。
リバースベスティングの具体例
例えば、創業者が480株を保有しており、契約で次のように定めたとします。
- 契約で定める起算日から48か月で、480株すべてを譲渡請求の対象から外す
- 起算日から最初の12か月間をクリフとする
- 契約上、12か月が経過したと判定される時点で、120株を譲渡請求の対象から外す
- その後は、契約上1か月が経過するごとに10株ずつ対象から外す
この契約例では、クリフ期間を経過する前に退任した場合、480株すべてが譲渡請求の対象となります。契約上の起算日から24か月が経過したと判定される時点で退任した場合には、240株が譲渡請求の対象から外れ、残る240株が譲渡請求の対象となります。
ただし、これは仕組みを説明するための一例です。何年間で、何株ずつ譲渡請求の対象から外すかについて、すべての会社に共通する基準があるわけではありません。実際の契約では、次の事項まで明確にする必要があります。
- ベスティングの起算日
- すべての株式が譲渡請求の対象から外れる時期
- クリフを設けるか
- 月単位、四半期単位、年単位のどれで計算するか
- 基準日当日の退任をどちらの期間に含めるか
- 月や年の途中で退任した場合をどう扱うか
- 1株未満の端数をどう処理するか
- 株式分割や株式併合があった場合にどう調整するか
契約書には、単に割合だけを記載するのではなく、起算日、計算期間、割合または算式、端数処理、株式分割・株式併合があった場合の調整方法を定め、退任時点の譲渡対象株式数を客観的に算定できるようにすることが重要です。
4.譲渡価格をどのように決めるか
譲渡価格については、次のような方法が考えられます。
- 創業者が株式を取得したときの価格
- あらかじめ定めた固定価格
- 直近の資金調達時の1株当たり価格を参考にした価格
- 契約で定めた算定方法による価格
- 当事者間の協議により決定する価格
- 第三者による株価評価をもとに決定する価格
どの方法を採用するかは、会社の成長段階、創業者の退任理由、株式の取得経緯などによって異なります。資金調達時に発行された株式と、創業者が保有する株式とで種類や権利内容が異なる場合には、資金調達時の1株当たり価格を、そのまま創業者株式の価格として用いることが適切とは限りません。
また、「当事者間で協議する」とだけ定めた場合、退任時に合意できず、株式譲渡を進められない可能性があります。「退任時の時価」と定めても、非上場株式には市場で公表される株価がありません。そのため、時価を基準とする場合には、次の事項も検討します。
- 退任日と実際の譲渡日のどちらを評価基準日とするか
- どの評価方法を用いるか
- 誰が評価するか
- 評価額について合意できない場合にどうするか
- 評価費用を誰が負担するか
創業時の取得価額や無償での譲渡を定めておけば、常に税務上問題が生じないというわけではありません。例えば、個人が別の個人から著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合には、時価と対価との差額に相当する金額を、譲渡した者から贈与により取得したものとみなされることがあります(相続税法第7条)。著しく低い価額に該当するかどうかは、個々の具体的な事情に基づいて判断されます。
一方、法人が譲受人となる場合や、法人へ株式を譲渡する場合には、これとは異なる税務上の論点が生じる可能性があります。また、契約上定める「時価」と、税務上の評価に用いられる価額が、常に同じになるとは限りません。
具体的な株価評価および税務上の取扱いについて、当事務所では判断していません。税理士等へご相談ください。
創業株主間契約で曖昧になりやすいポイント
創業株主間契約では、株式の譲渡について条項を設けていても、具体的な場面を想定すると、解釈が分かれることがあります。ひな形をそのまま使用するのではなく、各創業者の立場や会社の状況に合わせて、次のような点を具体化することが重要です。
| 曖昧になりやすい事項 | 確認しておきたいこと |
|---|---|
| 退任の意味 | 一つの地位を失った時点か、会社とのすべての関係が終了した時点か |
| ベスティングの起算日 | 会社設立日、業務開始日、株式取得日、契約締結日のいずれか |
| 譲渡対象株式数 | いつ、何株ずつ対象から外れ、いつ全株式が対象外になるのか |
| 期間の計算 | 基準日当日や、月の途中で退任した場合をどう扱うか |
| 株式数の端数 | 1株未満の端数をどのように処理するか |
| 複数の譲受人 | 複数人が取得を希望した場合、誰が何株を取得するのか |
| 譲渡価格 | 時価を誰が、いつを基準に、どの方法で算定するのか |
| 譲渡請求の期限 | 退任後、いつまで請求できるのか |
| 代金の支払時期 | 一括払いか分割払いか、いつ支払うのか |
| 必要書類への協力 | 譲渡承認、株主名簿、株券等の手続にどう協力するのか |
ベスティングの終了時点まで定めます
例えば、契約に「契約締結後1年未満は25%」「契約締結後1年以上は50%」とのみ定めた場合を考えます。
この定めだけでは、2年、3年、4年と会社への関与を続けても、本人が保有し続けられる割合は50%のままなのか、どこかの時点で100%になるのかが分かりません。リバースベスティングを設ける場合には、途中の割合だけでなく、すべての株式が譲渡請求の対象から外れる時点まで定めることが重要です。
起算日は具体的に定めます
創業株主間契約の締結日は、必ずしも創業者が会社への関与を始めた日と一致しません。例えば、会社設立前から事業開発を行っていた創業者について、契約締結日を起算日とするのか、実際に業務を開始した日を起算日とするのかによって、退任時の譲渡対象株式数が変わります。
起算日については、「会社への関与を開始した日」などの抽象的な表現だけではなく、具体的な年月日または客観的に特定できる基準を記載することが重要です。
「時価」と定めるだけでは足りない場合があります
非上場株式には、上場株式のように市場で公表される株価がありません。そのため、単に「時価で譲渡する」と定めるだけでは、売主と買主が異なる評価額を主張し、手続を進められなくなる可能性があります。
時価を採用する場合には、評価基準日、評価方法、評価を行う者、費用負担、評価額に合意できない場合の処理まで検討しておく必要があります。
創業者が死亡した場合の株式の取扱い
創業者が死亡した場合、その創業者が保有していた株式も相続の対象となります。
創業株主間契約に、創業者が死亡した場合の株式譲渡について定めることはあります。ただし、株式譲渡義務が相続人にどのように承継されるか、相続人が複数いる場合に誰が手続を行うか、遺産分割前の株式をどのように取り扱うかなどは、契約内容や具体的な相続関係によって異なります。
そのため、契約に条項を設ければ、必ず相続人から株式を取得できると断定することはできません。条項の効力や実行方法については、契約を作成する段階で弁護士へ確認することが重要です。
定款に基づく相続人等への売渡請求
譲渡制限株式について定款に所定の定めがある場合には、会社法第174条以下に基づき、相続その他の一般承継によって株式を取得した者に対し、会社がその株式の売渡しを請求できることがあります。
この請求を行う場合には、対象となる株式および相続人等について所定の株主総会決議を経たうえで、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内に請求する必要があります(会社法第176条第1項)。また、この株主総会において、売渡請求の相手方となる相続人等は、原則として議決権を行使できません(会社法第175条第2項)。会社による株式の取得であるため、分配可能額による制限も確認する必要があります。
この会社法上の制度と、創業株主間契約に基づいて残る創業者等が株式の譲渡を求める仕組みは、請求する者、株式を取得する者、要件および手続が異なります。いずれか一方で代用できるとは限らないため、契約書と定款の内容が矛盾しないように整理することが重要です。
退任しただけで株式が自動的に移転するのか
創業株主間契約では、一定の事由が生じた場合に、残る創業者が退任する創業者に対し、株式の譲渡を請求できる旨を定めることがあります。
契約の定め方によって手続は異なりますが、一般的には次のような流れが考えられます。
- 契約上の退任事由が生じる
- 契約に基づく譲渡請求を行う
- 譲渡する株式数と価格を確定する
- 必要な会社の承認手続を行う
- 株式譲渡に必要な書類を作成する
- 代金を支払い、株券発行会社である場合には、原則として株券を交付する
- 株主名簿の名義書換えを行う
譲渡承認については、契約内容および定款に応じて、譲渡前または譲渡後の適切な時点で必要な手続を行います。実務上は、譲渡の実行前に承認手続を済ませる形が多いものの、会社法上は株式取得後に株式取得者から承認請求が行われる場合もあります。
また、譲渡が承認されなかった場合には、予定していた譲受人への譲渡をそのまま進められないことがあります。承認請求の内容によっては、会社または指定買取人による買取手続へ移行することがあるため、不承認となった場合の対応も、契約の段階で確認しておくことが重要です。
実際にどの時点で株式譲渡契約が成立し、株式が移転するかは、創業株主間契約や譲渡時の書類の内容によって異なります。
また、株券発行会社では、原則として株券の交付がなければ株式譲渡の効力を生じません。そのため、「退任時に譲渡したものとみなす」と定めても、その契約条項だけで株券の交付に代えることはできません。会社法上必要となる手続についても、契約条項だけで省略できるとは限りません。
株券発行会社では株券の確認が必要です
株券発行会社の株式の譲渡は、自己株式の処分による場合を除き、株券を交付しなければ効力を生じません(会社法第128条第1項)。
そのため、株券発行会社では、次の点を確認する必要があります。
- 定款上、株券発行会社となっているか
- 対象株式について株券が実際に発行されているか
- 株券を誰が保管しているか
- 株券を紛失していないか
- 株券の交付をどの時点で行うか
公開会社でない株券発行会社は、株主から請求がある時までは株券を発行しないことができます(会社法第215条第4項)。そのため、定款上は株券発行会社であっても、実際には株券が発行されていない場合があります。その場合には、譲渡に先立って株券の発行が必要となることがあるため、登記事項証明書や定款だけでなく、実際の株券発行状況もあわせて確認します。
株式譲渡後は株主名簿を更新します
株式会社は株主名簿を作成し、株主の氏名または名称、住所、保有株式数、株式の取得日などを記載または記録します。
株式の譲渡は、株式を取得した者の氏名または名称および住所を株主名簿に記載または記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができません(会社法第130条第1項)。
そのため、株式譲渡の当事者間で代金の支払いや書類の受渡しが完了していても、株主名簿が従前のままになっていないか確認する必要があります。
創業株主間契約の締結に登記は必要か
創業株主間契約を締結しただけでは、通常、商業登記は必要ありません。
また、株主の氏名や保有株式数は株主名簿に記載する事項であり、通常の株式会社における株主の変更自体について、商業登記を申請するものではありません。
ただし、創業者の退任に伴って、取締役や代表取締役などに変更が生じる場合には、役員変更登記が必要になることがあります。また、株式譲渡とあわせて定款を変更する場合や、他の登記事項に変更が生じる場合には、その内容に応じて登記の要否を確認します。
退任時の株式譲渡以外に定めることがある事項
創業株主間契約では、退任時の株式の取扱いのほか、会社や創業者の状況に応じて、次のような事項を定めることがあります。
- 競業避止義務
- 秘密保持義務
- 知的財産権の帰属
- 創業者が死亡した場合の取扱い
- 株式を第三者へ譲渡する場合の事前通知や承認
- 共同売却参加権(タグアロング)
- 共同売却請求権または共同売却義務(ドラッグアロング)
- 契約の有効期間や終了事由
共同売却参加権(タグアロング)
他の株主が第三者へ株式を売却する場合に、自分が保有する株式の全部または一部についても、同じ買主への売却に参加できるよう求める権利です。対象となる株式数や売却条件は、契約によって異なります。
共同売却請求権(ドラッグアロング)
契約で定めた一定の条件が満たされた場合に、他の株主に対し、その保有株式を同じ買主へ売却するよう求める権利です。発動要件、対象となる株主・株式および売却条件は、契約によって異なります。
すべての創業株主間契約に、これらの条項を一律に盛り込む必要があるわけではありません。特に、競業避止義務、知的財産権の帰属、タグアロング、ドラッグアロング、違約金、相続人への効力などについては、当事者の権利義務に大きく影響します。
当事務所では、定款、登記、株主名簿、種類株式および会社法上の手続との整合性を中心に確認しています。契約条件そのものの設計、条項の有効性に関する法的意見、当事者間の交渉または紛争対応については、弁護士へのご相談をお願いしています。
司法書士として確認しているポイント
創業株主間契約に基づいて実際に株式を譲渡するときは、契約書だけでなく、定款、株主名簿その他の会社書類との整合性も確認する必要があります。
当事務所では、主に次の点を確認しています。
- 定款上、対象株式が譲渡制限株式か
- 株式譲渡を承認する機関がどこか
- 契約書上の株式数と現在の株主名簿が一致しているか
- 株券発行会社か、株券が実際に発行されているか
- 既存の投資契約や株主間契約に承認・通知条項がないか
- 会社を譲受人とする場合、自己株式取得の手続が必要か
- 会社が取得する場合に、譲渡人が取締役であることによる利益相反取引の確認が必要か
- 創業者の死亡時について、定款に相続人等への売渡請求の定めがあるか
- 創業者の退任に伴って役員変更登記が必要になるか
創業株主間契約の条項だけを確認するのではなく、現在の株主構成、定款、株主名簿、登記事項証明書、株券および既存の投資契約等を照らし合わせることが重要です。
よくあるご質問
- 創業株主間契約は必ず締結しなければなりませんか。
-
法律上、すべての会社に締結が義務付けられている契約ではありません。ただし、複数の創業者が株式を保有する場合には、創業者の退任後の株式の取扱いを整理するため、締結を検討することがあります。
- 定款に株式譲渡制限があれば、創業株主間契約は不要ですか。
-
定款の株式譲渡制限と創業株主間契約は役割が異なります。定款に譲渡制限があっても、退任する創業者に株式を譲渡する義務が当然に生じるわけではありません。
- 会社が退任した創業者の株式を買い取ることはできますか。
-
会社法上必要となる手続を行い、分配可能額等の要件を満たせば、会社が自己株式として取得できる場合があります。ただし、創業者間だけを当事者とする契約書に会社を譲受人として記載するだけでは、会社に買取義務が当然に生じるものではありません。譲渡人が取締役である場合には、利益相反取引に関する承認の要否もあわせて確認します。
- 創業株主間契約を締結すれば、退任時に株式は自動的に移転しますか。
-
契約の内容によって異なります。一般には、契約上の退任事由が生じた後、譲渡請求、価格の確定、必要な譲渡承認、株券の交付、株主名簿の名義書換えなどの手続を行います。
- 創業者が死亡した場合、相続人から必ず株式を買い取れますか。
-
創業株主間契約に、創業者の死亡時における株式譲渡の条項を設けることはあります。ただし、その効力や実行方法は、契約内容や具体的な相続関係によって異なります。また、定款に基づく相続人等への売渡請求制度とは別に検討する必要があります。
- 創業株主間契約のひな形をそのまま使用してもよいですか。
-
ひな形は、検討すべき条項を把握するための参考になります。ただし、退任の範囲、ベスティングの起算日、譲渡対象株式数、譲渡価格の算定方法、相続人への取扱いなどが、自社の状況に合っているとは限りません。具体的な場面を想定し、解釈が分かれる部分を残さないように検討することが重要です。
- 会社設立後でも創業株主間契約を締結できますか。
-
会社設立後でも締結できます。ただし、会社の価値が上昇した後や、創業者間の関係が変化した後では、対象株式数や譲渡価格について合意することが難しくなる場合があります。
創業株主間契約のまとめ
創業株主間契約は、共同創業者が会社を離れた場合の株式の取扱いを、あらかじめ整理しておくための契約です。契約を検討するときは、主に次の事項を明確にします。
- どのような場合に株式譲渡の対象となるのか
- 誰が株式を譲り受けることができるのか
- 何株を譲渡の対象とするのか
- 譲渡価格をどのように決めるのか
- いつまでに譲渡請求を行うのか
- 代金をいつ、どのように支払うのか
- 譲渡承認、株券、株主名簿等の手続をどう行うのか
ひな形に条項が記載されていても、退任の範囲、ベスティングの起算日、期間の計算、譲渡価格の算定方法などが不明確であれば、実際に退任が生じたときに解釈が分かれる可能性があります。各創業者の立場や会社の状況に応じて、具体的な場面を想定しながら契約内容を検討することが重要です。
また、実際の株式譲渡時には、創業株主間契約だけでなく、定款、株主名簿、株券、既存の投資契約等を確認し、必要な会社法上の手続や登記の要否を整理する必要があります。退任に伴うストックオプションの取扱いについては、ストックオプションは退職したら失効する?もあわせてご確認ください。
本文の主な根拠は、会社法第128条(株券発行会社の株式の譲渡)、同第130条(株式の譲渡の対抗要件)、同第139条(譲渡等の承認の決定等)、同第156条以下(自己株式の取得)、同第160条(特定の株主からの取得)、同第174条から第176条まで(相続人等に対する売渡しの請求)、同第215条(株券の発行)、同第322条(ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会)、同第356条・第365条(利益相反取引)、および相続税法第7条です。
司法書士法人LSOでは、現在の株主構成、定款、株主名簿、登記事項証明書等を確認し、株式譲渡に伴って必要となる会社法上の手続と登記の要否をご案内しています。創業株主間契約に基づいて実際に株式を譲渡する場合には、契約書と定款、株主名簿、株券および既存の投資契約等との整合性を確認し、譲渡承認手続や役員変更登記その他必要となる手続を整理します。詳しくは資金調達・資本政策の業務案内と投資契約書・株主間契約書の料金をご覧いただき、司法書士法人LSOへご相談ください。
監修者
司法書士法人LSO 代表社員 司法書士 金光 康太
会社設立、資金調達、種類株式、新株予約権・ストックオプション、株主総会、M&A・組織再編等の商業登記・企業法務を取り扱っています。IPO・内部統制実務士、バトンズ認定M&Aアドバイザー、smartroundアドバイザー。
詳細プロフィール(司法書士法人LSO 本体サイト)/司法書士法人LSOへのご相談はこちら
※本コラムの内容は掲載時点の法令等に基づいています。法律や制度は改正されることがあり、個別の案件では事情により結論が異なる場合があります。
来所不要・全国対応。マイナンバーカードを利用したオンライン登記に対応しています
対応するスマートフォンとマイナンバーカードがあれば、委任状等への電子署名をオンラインで行っていただけます。登記申請は当事務所が行います。電子署名サービス「サインルーム(旧RSS-SR)」と専用アプリ「RSSモバイル」を利用します。案件によっては、書類の郵送等をお願いする場合があります(専用アプリ「RSSモバイル」のダウンロードはこちら)。初回相談無料です。
商業登記・企業法務 料金表を見る


