適格組織再編とは?メリットと非適格との違いをわかりやすく図解

適格組織再編とは メリットと非適格との違いをわかりやすく図解
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結論

言葉の意味本記事でいう「適格組織再編」とは、合併・会社分割・株式交換・株式移転のうち、法人税法上の要件(適格要件)を満たすものをまとめて呼ぶ表現です。法人税法に「適格組織再編」という1つの定義があるわけではなく、「適格合併」「適格分割」「適格株式交換等」「適格株式移転」がそれぞれ定義されています。

共通するメリット組織再編が法人税法上の適格要件を満たすと、資産を第三者に売却していない再編の時点で、一定の譲渡損益や評価損益の計上を繰り延べるなど、税務上の特別な取扱いを受けられることがあります。ただし、含み益への課税がなくなるわけではありません。再編後にその資産を持つ会社でも、税務上の帳簿価額は時価より低いままなので、含み益は残ります。将来その資産を売却した際などに、その帳簿価額を基礎として譲渡損益が計算されます。つまり、課税のタイミングを将来へ繰り延べる仕組みです。

この記事の流れ本記事では、まず「課税の繰延べ」の考え方を確認し、次に「適格」の判定の流れと適格要件を、適格合併を例に確認します。そのうえで、非適格合併との違いを図解し、会社分割・株式交換等・株式移転の場合を紹介します。

1.適格組織再編とは?主なメリットは課税の繰延べ

「適格組織再編」とは、合併・会社分割・株式交換・株式移転のうち、法人税法上の要件(適格要件)を満たすものをまとめて呼ぶ表現です。会社法上の手続の種類ではなく、会社法の手続とは別に法人税法で判定した結果を表す言葉です(判定の流れと要件は第2章)。まず、適格組織再編にどのようなメリットがあるのかを理解すると、組織再編で「適格」かどうかがなぜ重要なのかが見えてきます。そこでこの章では、適格組織再編のメリットと、それが認められる理由を説明します。

本記事では、会社法上の組織再編のうち、吸収合併・新設合併、吸収分割・新設分割、株式交換、株式移転を扱います(会社法2条27号〜32号)。それぞれの制度の違いは、組織再編とは?合併・会社分割・株式交換などの違いで整理しています。

適格組織再編のメリットとは?

会社が持っている土地などの資産の中には、取得したときより値上がりしているものがあります。この値上がり分、つまり時価が税務上の帳簿価額を上回っている部分を「含み益」といいます。

合併や会社分割で資産が別の会社へ移る場合、税務上は原則として、その資産を時価で譲渡したものとして扱います。そのため、組織再編で資産を移しただけで、売却代金を受け取っていないのに、含み益に相当する譲渡益が計上され、法人税等の負担につながることがあります。

株式交換・株式移転では、子会社となる会社の資産は移転せず、その会社に残ったままです。ただし、非適格の場合には、一定の場合に、子会社となる会社が持つ一定の資産(時価評価資産)を時価で評価し直し、その評価益や評価損を所得の計算に反映します(評価益は益金の額に、評価損は損金の額に算入します。法人税法62条の9)。資産を売却していなくても、含み益に相当する評価益が所得に算入される場合があるという点では、合併・会社分割と共通します。

これに対し、組織再編が適格要件を満たすと、一定の譲渡損益や評価損益を再編の時点では計上しません。そのため、含み益について、再編の時点で税負担が生じることを避けられる場合があります。仕組みは再編の種類によって異なります。合併・会社分割では、移転する資産を、移転先の会社に税務上の帳簿価額で引き継ぐ(または譲渡する)ものとして所得を計算するため、再編の時点では譲渡益を計上しません。株式交換・株式移転では、適格であれば、法人税法62条の9による時価評価が行われないため、含み益は子会社となる会社の資産に残ったままになります。含み益がある場合には、これが適格組織再編の代表的なメリットです。制度ごとの違いは、第7章で整理しています。

「課税の繰延べ」とは?|課税関係を将来へ持ち越す

上で説明したように、再編の時点では一定の譲渡益や評価益を計上せず、その課税関係を将来へ持ち越すことを、「課税の繰延べ」といいます。含み益にかかわる課税関係をなくすのではなく、将来へ持ち越すという意味です。

適格組織再編でも、含み益は消えません。再編後にその資産を持つ会社でも、税務上の帳簿価額は時価より低いままなので、含み益もその会社に残ります。そして、将来その資産を売却したときなどに、その税務上の帳簿価額を基礎として譲渡損益が計算され、譲渡益が出れば、その時点で課税の対象となります。

なお、課税の繰延べは、すでに確定した税金の支払期限を延ばしてもらう制度ではありません。再編の時点では、そもそも一定の譲渡益や評価益を計上しない、という仕組みです。

数字で確認含み益に相当する譲渡益が「いつ」「どの会社で」計上されるのかは、第3章〜第5章で、B社が持つ土地の例を使って具体的な数字で追いかけます。第3章へ ↓

なぜ合併・分割などで繰延べが認められるのか

では、なぜ一定の組織再編では、このような課税の繰延べが認められているのでしょうか。財務省の「組織再編税制に関する資料」では、その基本的な考え方が次のように説明されています。

原則

資産が移転するときは、その譲渡損益に課税するのが原則であり、組織再編成でも同じです。

↓

繰延べ

再編の前後で経済実態に実質的な変更がない(移転した資産に対する支配が再編後も続いている)と認められる場合には、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べます。

つまり、組織再編によって法律上は資産が別の会社へ移っても、再編の前後でその資産に対する支配が続いていると認められる場合には、その時点では譲渡損益を確定させず、課税関係を後へ持ち越す、というのが組織再編税制の基本的な考え方です。

なお、これは制度の基本的な考え方(趣旨)の説明です。「経済実態に実質的な変更がないこと」や「支配が続いていること」が、すべての適格合併に共通する独立の要件として別に課されるという意味ではありません。適格かどうかは、法人税法・法人税法施行令に定められた各要件に基づいて判定します。

補足|適格合併では、繰越欠損金を引き継げる場合もあります
適格合併では、一定の要件のもとで、合併で消滅する会社の繰越欠損金(過去の赤字のうち、まだ所得と相殺していない部分)を、合併後の会社が引き継げる場合があります(法人税法57条2項)。非適格合併では引き継げません。ただし、資本関係やその継続期間などによって、引継ぎや利用が制限される場合があります。具体的な取扱いは税理士にご確認ください。本記事では詳しく扱わず、別のコラムで解説していきます。

では、どのような組織再編であれば、課税の繰延べが認められるのでしょうか。次の章で、適格かどうかの判定の流れと、適格要件の中身を確認します。

2.適格判定とは?会社法の手続と適格要件

組織再編が法人税法上の適格要件を満たすかどうかは、会社法ではなく法人税法の問題です。この章では、まず判定の流れを確認し、そのうえで適格合併を例に、適格要件の中身を見ていきます。

判定の流れ|会社法とは別に法人税法で判定

会社法上は、合併・会社分割などのうち、どの手続で組織再編を行うかを決めます。それとは別に、税務上は、その再編が法人税法上の適格要件を満たすかを確認します。たとえば合併であれば、会社法上は合併として手続を進め、税務上は、その合併が法人税法上の要件を満たすかを確認します。要件を満たせば税務上「適格合併」、満たさなければ「非適格合併」として取り扱われます。会社法と法人税法の関係を整理すると、次のとおりです。

会社法上の整理

合併・会社分割・株式交換・株式移転のどの手続で行うかを決める

↓

法人税法上の確認

予定している組織再編が適格要件を満たすかを確認する

↓

適格要件を満たす

税務上「適格」
(適格合併・適格分割など)

適格要件を満たさない

税務上「非適格」
(非適格合併など)

法人税法上の確認で「適格」となった合併・会社分割・株式交換・株式移転が、適格組織再編です。

なお、この図は会社法と法人税法の関係を示すための整理です。実務では、会社法上の手続を終えてから税務上の判定をするのではなく、組織再編を実行する前に、税理士等と適格要件を確認しながら、再編の方法・対価・契約の内容などを設計します。

税務上の適格判定・税額計算は、当事務所では判断していません
個別の再編が適格要件を満たすかどうか、税額がいくらになるかは、税理士へご確認ください。本記事は、組織再編が適格か非適格かで何が違うのかを理解していただくための一般的な説明です。

適格合併の要件を大きく2つの観点で整理

適格要件は1つではありません。何の組織再編を行うのか、当事会社の間にどのような資本関係があるのか、対価として何を交付するのかなどによって、確認する要件が変わります。ここでは、一般的な株式会社どうしの合併を前提に説明します。国税庁の質疑応答事例では、株式会社が行う適格合併について、次の①と②の両方を満たす必要があると説明されています(国税庁 質疑応答事例「いわゆる『三角合併』に係る適格要件について」)。

①

当事会社の関係ごとの要件|法人税法2条12号の8のイ〜ハ(完全支配関係・支配関係・共同事業)の類型ごとに定められた要件です。

②

合併の対価の要件|原則として、金銭など株式以外の財産を交付しないことです(同号の柱書き)。

以下、①と②を順に見ていきます。

①当事会社の関係ごとの要件

①の要件は、大きく次の3つに分けて確認します。

100%の関係など

完全支配関係がある場合(イ)

一方の会社が他方の会社の株式をすべて保有している場合などです。完全支配関係がある会社間の合併として、要件を確認します。

50%超の関係など

支配関係がある場合(ロ)

一方の会社が他方の会社の株式の50%を超えて保有している場合などです。従業者の従事や主要な事業の継続に関する要件なども確認します。

イ・ロに該当しない場合

共同で事業を行うための合併(ハ)

完全支配関係を基礎とするイ、支配関係を基礎とするロのいずれにも該当しない合併について、共同で事業を行うための合併として、政令(法人税法施行令4条の3第4項)で定める要件を満たすかを確認します。主な要件は、事業が相互に関連すること(事業関連性要件)、事業規模の割合がおおむね5倍以内であること、または消滅する会社の特定役員(社長・専務取締役など)のいずれかと、合併相手の会社の特定役員のいずれかとが、合併後の会社の特定役員となること(事業規模要件・特定役員引継要件)、従業者のおおむね80%以上が合併後も業務に従事すること(従業者引継要件)、事業が合併後も続くこと(事業継続要件)、消滅する会社に支配株主がいる場合の株式の継続保有(株式継続保有要件)などです。

なお、法人税法上の「支配関係」「完全支配関係」には、一方の会社が他方の会社の株式を直接保有する関係だけでなく、一定の間接保有や、同じ者との間にこれらの関係がある法人どうしの関係(たとえば同じ親会社を持つ会社どうし)も含まれます(法人税法2条12号の7の5・12号の7の6)。

②合併の対価の要件|何を交付するか

合併では、消滅する会社(被合併法人)の株主に、その会社の株式と引き換えに、合併後の会社(合併法人。吸収合併では存続する会社、新設合併では新しく設立される会社)の株式などを交付するのが一般的です。これを「合併の対価」といいます(何も交付しない「無対価合併」もあります)。

法人税法2条12号の8の柱書きは、合併法人または合併親法人(合併法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係として政令で定める関係がある法人)のうち、いずれか一の法人の株式以外の資産が交付されないことを求めています。つまり、消滅する会社の株主に、金銭など株式以外の財産を交付しないことが、原則として②の要件です。具体的には、次のとおりです。

○

株式だけを交付する

合併後の会社の株式だけ、または合併親法人(合併後の会社を直接・間接に100%保有する、法令で定める親会社)の株式だけ(いわゆる「三角合併」)を交付する場合

②対価要件:満たす
○

何も交付しない(無対価合併)

ただし、適格合併になる場面は限られます(下の補足2)

②対価要件:満たす
×

金銭なども交付する

株式の代わりに金銭を交付する場合や、株式と一緒に金銭を交付する場合(配当などの除外があります。下の補足1)

②対価要件:原則満たさない

補足1配当として交付する金銭、合併に反対する株主の買取請求に基づく対価、合併の直前に合併法人が被合併法人の株式の3分の2以上を保有している場合にほかの株主へ交付する金銭などは、②の判定から除外されます(法人税法2条12号の8の括弧書き)。

補足2無対価合併でも、親会社が株式をすべて保有する子会社を吸収合併する場合や、同一の者による完全支配関係などがある会社どうしで、合併の前後で株主の持分関係が実質的に変わらない一定の場合には、適格合併となり得ます(法人税法施行令4条の3第2項〜第4項)。無対価であることだけで適格になるわけではなく、法令上の適格要件を満たす必要があります。

ここまでの①と②の整理は、あくまで適格合併の大まかな地図です。実際には①と②の両方を満たす必要があり、細かな要件は法人税法施行令4条の3などで確認します。また、会社分割・株式交換等・株式移転には、それぞれ別の適格要件が定められています。

では、合併が適格になると、実際に何が変わるのでしょうか。次の章から、具体的な数字を使って確認します。

3.具体例|含み益4,000万円の土地を持つB社

ここからは、適格合併と非適格合併の違いを、1つの例で確認します。比較の中心は、B社が持っている土地です。

B社は、税務上の帳簿価額1,000万円、時価5,000万円の土地を持っています。この土地には、4,000万円の含み益があります。このB社をA社が吸収合併すると、B社は消滅し、土地を含むB社の権利義務をA社が承継します。

A社

合併法人(存続する会社)

+

B社

被合併法人(消滅する会社)

B社が持つ土地

税務上の帳簿価額1,000万円

時価5,000万円

含み益4,000万円

↓ B社をA社に吸収合併

合併後のA社

B社の権利義務(土地を含む)をすべて承継し、B社は消滅します

このモデルケースの前提
A社とB社の間に、法人税法上の完全支配関係・支配関係はないものとします。この合併が適格合併となる場合は、共同で事業を行うための合併としての適格要件(第2章の「共同で事業を行うための合併(ハ)」)をすべて満たしているものとします。また、B社の現預金500万円・負債500万円は、時価と税務上の帳簿価額に差がないものとします。株主側の課税、繰越欠損金、資産調整勘定などは、ここでは扱いません。

合併前のB社を、簡略化した貸借対照表(B/S)で示すと、次のとおりです。金額は、法人税の所得を計算するときに使う税務上の帳簿価額です(会計上の帳簿価額と一致しないこともあります)。実際の会計上の貸借対照表を再現したものではありません。B/Sの読み方は、貸借対照表(B/S)とは?で解説しています。

合併前|B社の説明用・簡略B/S(税務上の帳簿価額ベース)

資産

現預金500万円

土地1,000万円

負債・純資産

負債500万円

純資産1,000万円

土地の税務上の帳簿価額 1,000万円 / 時価 5,000万円 / 含み益 4,000万円

ここで押さえる数字は、税務上の帳簿価額1,000万円・時価5,000万円・含み益4,000万円の3つだけです。

今回は、B社の土地を第三者へ売却する場面ではなく、B社をA社が吸収合併する場面です。それでも、この合併が非適格か適格かによって、この4,000万円を合併の時点で譲渡益として計上するかどうかが変わります。

では、具体的に何が違うのでしょうか。次の章で比べます。

4.非適格と適格で4,000万円はどうなる?

第3章のB社の土地(税務上の帳簿価額1,000万円・時価5,000万円・含み益4,000万円)について、合併が非適格となる場合と適格となる場合を比べます。まず結論を示し、次に根拠となる条文、最後に具体的な処理を確認します。

結論|合併の時点で4,000万円を計上するかどうか

非適格合併では、4,000万円の含み益を、合併の時点でB社の譲渡益として計上します。適格合併では、合併の時点ではその譲渡益を計上せず、1,000万円の税務上の帳簿価額をA社へ引き継ぎます。

見るポイント 非適格合併 適格合併
B社の土地の扱い 時価5,000万円で譲渡したものとする 税務上の帳簿価額1,000万円でA社に引き継いだものとする
B社の合併時の譲渡益 4,000万円 計上しない
A社が受け入れる土地の税務上の価額 5,000万円 1,000万円
含み益4,000万円 合併の時点で表面化する 表面化せず、A社へ持ち越される

なお、上の4,000万円は「税額」ではなく「譲渡益」です。実際の法人税等の負担は、その事業年度の他の益金・損金や繰越欠損金など、個別の事情を含めて計算されます。

根拠|法人税法62条と62条の2

この違いは、合併で資産が移るときの扱いを定めた法人税法の2つの条文から生じます。原則を定めているのが62条、適格合併の場合を定めているのが62条の2です。まず、62条1項の前段です。

法人税法62条1項(前段の抜粋)

内国法人が合併又は分割により合併法人又は分割承継法人にその有する資産又は負債の移転をしたときは、当該合併法人又は分割承継法人に当該移転をした資産及び負債の当該合併又は分割の時の価額による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。

出典:e-Gov法令検索「法人税法」62条1項。「合併の時の価額」は、合併の時点の時価のことです。

次に、適格合併の場合を定めた62条の2第1項です。冒頭の「前条第一項及び第二項の規定にかかわらず」のとおり、適格合併では、62条の原則に代えてこの規定が適用されます。

法人税法62条の2第1項

内国法人が適格合併により合併法人にその有する資産及び負債の移転をしたときは、前条第一項及び第二項の規定にかかわらず、当該合併法人に当該移転をした資産及び負債の当該適格合併に係る最後事業年度終了の時の帳簿価額として政令で定める金額による引継ぎをしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。

出典:e-Gov法令検索「法人税法」62条の2第1項。「内国法人」は、ここでは合併で消滅するB社を指します。

具体的に確認|B社とA社で何が起こるか

2つの条文をB社の土地に当てはめます。それぞれ、1B社側で何が起こるか、2A社が土地をいくらで受け入れるか(簡略化したB/S)の順に見ていきます。

ケース1非適格合併の場合

1B社(被合併法人)
土地を合併時の時価5,000万円でA社へ譲渡したものとして、所得を計算します(法人税法62条1項)。

時価5,000万円
− 税務上の帳簿価額1,000万円
= 4,000万円の譲渡益

この譲渡益は、B社の最後事業年度(合併の日の前日を含む事業年度)の所得の計算に含めます(法人税法62条2項)。事業年度の途中で合併により解散した会社の事業年度は、合併の日の前日に終了します(法人税法14条1項2号)。

2A社(合併法人)
この単純な例では、A社は土地を時価5,000万円を基礎とする価額で受け入れることになります。A社がB社から受け入れる部分を簡略化したB/Sで示すと、次のとおりです。

合併後|A社がB社から受け入れる部分(説明用・税務上の価額ベース)

資産

現預金500万円

土地5,000万円

負債・純資産

負債500万円

差額(純資産相当)5,000万円

土地は時価5,000万円で受け入れ。含み益4,000万円は、合併の時点でB社の譲渡益として表面化

このモデルケースで非適格合併となった場合のデメリット

土地を第三者に売って代金を得たわけではないのに、4,000万円の譲渡益がB社の最後事業年度の所得に含まれ、法人税等の負担が生じることがあります。このB社の法人税を納める義務は、合併後はA社が引き継ぎます(国税通則法6条)。

ケース2適格合併の場合

1B社(被合併法人)
土地を時価で譲渡したものとはせず、税務上の帳簿価額でA社へ引き継いだものとして所得を計算します(法人税法62条の2第1項)。

B社の税務上の帳簿価額1,000万円を
A社へ引き継ぐ

合併の時点では、土地の譲渡益を計上しません。

2A社(合併法人)
土地を時価5,000万円に評価し直すのではなく、B社の税務上の帳簿価額を引き継ぎます。A社がB社から受け入れる部分を簡略化したB/Sで示すと、次のとおりです。

合併後|A社がB社から受け入れる部分(説明用・税務上の価額ベース)

資産

現預金500万円

土地1,000万円

負債・純資産

負債500万円

差額(純資産相当)1,000万円

土地は税務上の帳簿価額1,000万円のまま引継ぎ。含み益4,000万円は表面化せず、A社へ持ち越し

このモデルケースで適格合併となった場合のメリット

合併の時点では4,000万円の譲渡益を計上しないため、土地を売って代金を得ていない段階で、この含み益について法人税等の負担が生じることを避けられます。

B/Sの注記上の2つのB/Sは、A社がB社から受け入れる部分だけを取り出した概念図です。違いは土地の行(5,000万円か1,000万円か)だけで、その差が含み益の4,000万円です。B社の最後事業年度の法人税等の未払分、合併の対価との差額(資産調整勘定など)、資本金等の額・利益積立金額の内訳は省略しています。

参考非適格合併で合併法人が移転資産を時価を基礎とする価額で受け入れる考え方は、国税庁の質疑応答事例「非適格合併による資産の移転と譲渡損益の繰延べ」でも確認できます(同事例は、合併法人の「本来の取得価額(時価)」と説明しています)。ただし、同事例は100%グループ内の非適格合併を扱うもので、完全支配関係・支配関係のない本記事のモデルケースとは前提が異なります。

この比較図の前提
制度の違いを見やすくするため、完全支配関係のないA社・B社の合併に単純化しています。完全支配関係がある内国法人の間では、非適格合併であっても、一定の資産(譲渡損益調整資産)の譲渡損益を繰り延べる別の規定(法人税法61条の11)が関係する場合があります。そのため、100%グループ内の合併を「非適格合併なら必ず含み益がその場で課税される」と単純化することはできません。

5.4,000万円はどこへ?課税の繰延べを追う

適格合併になっても、土地の4,000万円の含み益は消えていません。時価より低い税務上の帳簿価額1,000万円とともに、課税関係がA社へ持ち越されています。

適格合併で起きていることを一言でまとめると、次のとおりです。

4,000万円の含み益を非課税にする
のではなく
時価より低い1,000万円の税務上の帳簿価額を
A社へ引き継ぐ

そのため、将来その土地を売却したときは、引き継いだ1,000万円の帳簿価額を基準に譲渡益を計算します。

合併後、A社がこの土地を6,000万円で第三者へ売却したとします。土地は減価償却をしない資産で、他の税務上の調整もない単純な例として、次の図で比べます。

非適格合併

合併前帳簿価額1,000万円/時価5,000万円
合併時(B社)5,000 − 1,000 = 4,000万円の譲渡益
A社の土地の税務上の価額5,000万円
後日6,000万円で売却(A社)6,000 − 5,000 = 1,000万円の譲渡益

合計 4,000万円 + 1,000万円
= 5,000万円

適格合併

合併前帳簿価額1,000万円/時価5,000万円
合併時(B社)譲渡益を計上せず、帳簿価額を引継ぎ
A社の土地の税務上の帳簿価額1,000万円
後日6,000万円で売却(A社)6,000 − 1,000 = 5,000万円の譲渡益

合計 0円 + 5,000万円
= 5,000万円

この単純な例では、土地について最終的に計上される譲渡益の合計は、どちらも5,000万円です。違うのは、いつ、どの会社で譲渡益を計上するかです。

これが、第1章で説明した「課税の繰延べ」です
すでに確定した税金の納付期限を延期する制度ではありません。合併の時点では譲渡損益を計上せず、時価より低い税務上の帳簿価額を合併後の会社へ引き継ぐことで、課税のタイミングを将来へ持ち越す仕組みです。

適格合併なら、結局税金はかからない?

そういう意味ではありません。少なくとも本記事で扱う適格合併の例では、4,000万円の含み益が永久に非課税になるわけではありません。上の例では、合併の時点で4,000万円を計上しない代わりに、A社が土地を1,000万円の税務上の帳簿価額で引き継ぐため、後日6,000万円で売却したときに5,000万円の譲渡益が生じます。

「最終的な税額が必ず同じ」という意味でもありません
上の例は、土地の譲渡益をいつ計上するかだけを切り出したものです。実際の税負担は、各事業年度の損益、繰越欠損金、税率その他の事情によって変わり得ます。

6.適格合併で誤解されやすい点

ここまでは、適格合併を例に、非適格合併との違いと課税の繰延べを見てきました。適格組織再編の税務上の効果は再編の種類によって異なりますが、適格合併について誤解されやすい点と答えは、次の表のとおりです。

疑問 答え(適格合併の場合)
適格合併なら含み益は消える? 消えません。時価より低い税務上の帳簿価額を合併後の会社が引き継ぐことで、課税関係が合併後へ持ち越されます。
税金の支払期限を延ばす制度? 違います。合併の時点では、移転する資産の譲渡損益を計上しない仕組みです。
実務上のメリットは? 売却代金を得ていない合併の時点で、移転する資産の含み益が譲渡益として表面化し、税負担につながることを避けられる場合があります。
適格合併なら必ず有利になる? そうとはいえません。基本は課税の繰延べで、含み損のある資産では、合併の時点で譲渡損も計上しないことになります。実際の影響は個別の事情によって異なります。

このように、適格合併では、資産を第三者へ売却していない合併の時点で、その含み益が譲渡益として表面化することを避けられる場合があります。適格合併は、適格組織再編の税務上の効果を理解するための代表的な例です。

では、合併以外の組織再編が適格になると、何が変わるのでしょうか。次の章で、会社分割・株式交換等・株式移転を順に見ていきます。

7.分割・株式交換等・株式移転が適格の場合

本記事では適格合併をモデルケースにしましたが、会社分割・株式交換等・株式移転にも、法人税法上の適格要件と、適格要件を満たした場合の税務上の取扱いが、制度ごとに定められています。

4つの制度について、法人税法上の呼び方と、それぞれが適格になった場合の主な税務上の効果をまとめると、次のとおりです。

合併

適格合併

本記事のモデルケースです。合併で消滅する会社は、移転する資産・負債を、合併後の会社(合併法人)に税務上の帳簿価額で引き継いだものとして所得を計算するため、合併の時点では移転資産の譲渡損益を計上しません(法人税法62条の2第1項)。要件としては、当事会社の関係(完全支配関係・支配関係・共同事業)ごとの要件と、対価の要件を確認します。

会社分割

適格分割

会社法上の吸収分割・新設分割が、法人税法上の適格要件を満たし、「適格分割」(法人税法2条12号の11)となる場合です。適格分割では、分割型分割と分社型分割で規定が分かれますが、いずれも帳簿価額による処理(分割型分割は引継ぎ、分社型分割は譲渡)が定められており、分割の時点では移転資産の譲渡損益を計上しません(62条の2第2項・62条の3)。

個別コラムを準備中

株式交換など

適格株式交換等

法人税法の「株式交換等」には、会社法上の株式交換のほか、全部取得条項付種類株式の取得・株式の併合・株式売渡請求によって完全支配関係(100%の親子関係)となる一定の場合も含まれます(法人税法2条12号の16)。株式交換等が非適格となる場合には、一定の場合に、完全子法人となる会社が持つ時価評価資産の評価益の額を益金の額に、評価損の額を損金の額に算入しますが(法人税法62条の9)、適格であれば、この時価評価は行われません。

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株式移転

適格株式移転

新しく完全親会社を設立する株式移転についても、法人税法上の適格要件(法人税法2条12号の18)があります。株式交換等と同じく、株式移転が適格であれば、62条の9による時価評価は行われません。

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このように、制度ごとに仕組みは異なりますが、再編時の課税関係をそのまま確定させず、一定の課税を繰り延べる仕組みが設けられている点に共通性があります。適格合併・適格分割・適格株式交換等・適格株式移転について、具体的にどのような要件を確認するのかは、制度ごとの個別コラムとして順次公開していきます。

本記事のB/S図は「適格合併」の説明例です
合併・会社分割では、資産・負債の移転そのものが問題になります。

一方、株式交換等・株式移転は、完全子法人となる会社の事業用の資産・負債そのものを、合併のようにほかの法人へ承継させる手続ではありません。財務省の「組織再編税制に関する資料」でも、株式交換等・株式移転は、非適格の場合に時価評価による課税が行われる仕組みとして整理されています。

そのため、本記事の「土地をB社からA社へ移す」図をそのまま当てはめることはできません。

8.根拠法令・公式資料

「適格合併」「適格分割」などは実務上だけの呼び方ではなく、法人税法に類型ごとに定義された用語です。本記事で参照した条文と公式資料は、次のとおりです。

根拠法令

あわせて、国税庁・財務省の次の資料を参照しています。

補足|個別の案件では否認規定にも注意
適格要件とは別に、組織再編成に係る行為又は計算について法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)が問題となる場合があります。具体的な適用の判断は、税理士等にご確認ください。

9.司法書士として実際に確認しているポイント

当事務所が組織再編のご依頼で確認することが多い点の例です。案件によっては、ここに挙げていない事項を確認することもあります。

  • 再編の方法と全体スケジュール|どの制度を使うかを前提に、株主総会などの決議、必要な場合の債権者保護手続、効力発生日、登記申請までの日程を、できるだけ早い段階で整理するようにしています。
  • 契約・計画の記載と税務上の前提|合併契約・分割契約(計画)などに記載する再編の対価や効力発生日が、ご依頼者と税理士等の間で確認・整理された税務上の前提と食い違っていないかを、できるだけ確認するようにしています。
  • 効力発生から登記までの整合性|契約・計画、決議、公告・催告、効力発生日、登記の申請内容が、一続きの手続として整合しているかを確認するようにしています。
当事務所の考え方
組織再編では、税理士等と確認・整理された税務上の前提と、会社法上の手続とを、早い段階からそろえて進めることが大切だと考えています。

組織再編の登記のご依頼については、M&A・事業承継・組織再編支援でご案内しています。

税務上の適格判定・税額計算は、税理士へご確認ください
当事務所では、税務上の適格判定や税額計算は行っていません。税理士等と確認・整理された税務上の前提を踏まえて、会社法上の手続と商業登記の段取りを組み立てます。

よくあるご質問

100%グループ内の合併なら、必ず適格合併になりますか

必ずとはいえません。完全支配関係があるという資本関係だけで決まるのではなく、法人税法2条12号の8や法人税法施行令4条の3に定める要件を確認する必要があります。なお、合併の対価に関する要件には法律上の除外もあるため、「金銭を交付したら必ず非適格合併」とも一概にはいえません。要件の全体像は、第2章で説明しています。具体的な適格判定は、税理士にご確認ください。

組織再編が適格要件を満たすかどうかは、司法書士に判断してもらえますか

当事務所では、税務上の適格判定や税額計算は行っていません。その組織再編が適格要件を満たすかどうかは、税理士にご確認ください。当事務所は、税理士等と確認・整理された税務上の前提を踏まえて、会社法上の手続と商業登記を担当します。

組織再編が適格か非適格かで、会社法の手続や登記は変わりますか

適格・非適格という税務上の判定それ自体によって、会社法に別の手続が設けられているわけではありません。ただし、再編の対価や当事会社の関係など、再編の具体的な内容によって、必要な会社法上の手続や登記する事項が変わることがあります。

まとめ|適格判定と共通するメリット

  • 会社法上は合併・会社分割などとして手続を行い、その再編が法人税法上の適格要件を満たすかを、税務上別に判定する
  • 「適格合併」「適格分割」「適格株式交換等」「適格株式移転」は、法人税法2条に定義されている
  • 適格要件は、再編の種類・当事会社の資本関係・再編の対価などによって異なる
  • 組織再編が法人税法上の適格要件を満たすと、資産を第三者へ売却していない再編の時点で、一定の譲渡損益や評価損益の計上を繰り延べるなど、税務上の特別な取扱いを受けられることがある
  • その仕組みは、合併・会社分割では移転資産を移転先の会社に税務上の帳簿価額で引き継ぐ(または譲渡する)ものとして扱い、株式交換等・株式移転では法人税法62条の9による時価評価が行われない、というように再編の種類によって異なる
  • ただし、いずれの場合も含み益そのものが消えるわけではない。再編後も、その資産を持つ会社では税務上の帳簿価額が時価より低いまま残るため、含み益に対する課税関係が将来へ持ち越される(課税の繰延べ)。本記事では、この仕組みを適格合併の例で確認した

会社分割・株式交換等・株式移転の具体的な適格要件は、制度ごとの個別コラムとして順次公開していきます。

合併・会社分割・株式交換・株式移転をご検討の会社へ

税理士等と確認・整理された税務上の前提を踏まえ、会社法上のスケジュール、決議、契約・計画、債権者保護手続、商業登記を整理します。手法が確定していない段階でもご相談いただけます。

司法書士法人LSO 代表社員 司法書士 金光康太

執筆・監修

金光 康太(かなみつ こうた)

司法書士(司法書士法人LSO 代表社員)

大阪・梅田の司法書士。スタートアップ・ベンチャー企業の資金調達、種類株式、ストックオプション、M&A・組織再編、IPO準備に伴う商業登記を中心に取り扱っています。U30堺市起業家輩出プログラムSIPメンター(2024年度・2025年度)。

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本記事について

本記事は、2026年10月時点の会社法・法人税法・法人税法施行令と、国税庁・財務省の公表資料をもとに、会社法上の組織再編と法人税法上の適格・非適格の基本的な違いを、制度を単純化して説明したものです。組織再編税制では、本記事で扱う合併・会社分割・株式交換・株式移転のほか、現物出資・現物分配・株式分配などについても税務上の取扱いが定められていますが、本記事では扱っていません。B/S図・計算例は、適格合併における税務上の帳簿価額の引継ぎの考え方を示す概念図であり、実際の会計上の貸借対照表や個別案件の税額計算を示すものではありません。完全支配関係がある法人間の譲渡損益の調整、繰越欠損金、株主側の課税、資産調整勘定、株式交換等・株式移転に関する時価評価その他の規定により、実際の課税関係は異なる場合があります。税務上の適格判定・税額計算は税理士に、会計処理は公認会計士等にご確認ください。当事務所は、会社法上の手続・商業登記を中心に対応しています。

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