非公開会社の株主総会の招集手続④|委任状と議決権行使書面は何が違う?

非公開会社の株主総会の招集手続④ 委任状と議決権行使書面は何が違う 代理行使と書面投票の違いを解説
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結論

委任状と議決権行使書面は、どちらも株主本人が株主総会に出席しない場合に、その意思を決議に反映させるための書類ですが、会社法上は別の制度で、誰が議決権を行使するのかが違います。

① 委任状(議決権の代理行使)
株主が代理人を立て、代理人が株主総会に出席して議決権を行使します会社法310条1項)。書面投票の採否にかかわらず原則として使え、委任状を同封すること自体で招集通知の期限が変わったり、法定の書類が増えたりすることはありません。

② 議決権行使書面(書面投票)
株主本人が、賛否を記載した書面を会社に提出して議決権を行使します会社法311条1項)。招集を決めるときに書面投票を認めた株主総会でだけ使えます(会社法298条1項3号)。採用すると、非公開会社でも招集通知は2週間前までになり、原則として株主総会参考書類と議決権行使書面の交付が必要です(電子提供措置をとる会社には特則があります)。

委任状に議案ごとの「賛成・反対」欄があっても、それだけで書面投票になるわけではありません。株主数の少ない非公開会社では、委任状方式が使われています。

1.委任状と議決権行使書面|「誰が議決権を行使するか」が違う

委任状は代理人が、議決権行使書面は株主本人が議決権を行使する制度です。この違いが、招集期間や必要書類を決め、議事録の書き方にも関わります。

本シリーズでは、株主総会の基本を前提に、第1回から第3回で招集期間・発信日・通知の方法を整理してきました。第4回は「株主が総会に出席できないとき、どうやって議決権を行使するのか」を扱います。

株主本人が出席しない場合の議決権行使には、いくつかの方法があります。本記事では、そのうち実務で混同されやすい2つを比べます。1つは、株主が代理人を立てる議決権の代理行使会社法310条1項)で、その代理権を証明する書面が「委任状」です。もう1つは、株主本人が書面で投票する書面による議決権行使会社法311条1項)で、その投票用紙が「議決権行使書面」です。実務では「書面投票」とも呼びます。

次の表で、2つの制度の違いを確認します。

確認事項 委任状
議決権の代理行使
議決権行使書面
書面投票
議決権を行使する人 代理人(総会に出席) 株主本人(書面を提出)
使える株主総会 書面投票の採否にかかわらず原則として使える 招集の決定で書面投票を認めた株主総会だけ
招集通知の期限 変わらない(非公開会社は原則1週間前まで) 非公開会社でも2週間前まで
この方法を使うこと自体で増える書類 委任状(代理権を証明する書面)以外に、法定の追加書類は原則なし(実務では議案説明資料を同封) 株主総会参考書類+議決権行使書面(原則)
出席議決権への算入 代理人を通じて行使された分を算入 書面で行使した分を算入(311条2項)
総会後の保管 3か月間、本店に備置き(310条6項) 3か月間、本店に備置き(311条3項)

2つの制度の違いは、条文の主語に表れています。310条は「株主は、代理人によって」、311条は「議決権行使書面に必要な事項を記載し…株式会社に提出して行う」と定めています。次の条文です。

会社法310条1項・2項(議決権の代理行使)

株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。この場合においては、当該株主又は代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない。

2 前項の代理権の授与は、株主総会ごとにしなければならない。

会社法311条1項・2項(書面による議決権の行使)

書面による議決権の行使は、議決権行使書面に必要な事項を記載し、法務省令で定める時までに当該記載をした議決権行使書面を株式会社に提出して行う

2 前項の規定により書面によって行使した議決権の数は、出席した株主の議決権の数に算入する。

出典:会社法310条会社法311条|e-Gov法令検索。311条1項の「法務省令で定める時」は本記事の第6章で扱います。

この記事で扱う範囲
電磁的方法による議決権行使(電子投票。会社法312条)と、株主総会参考書類に何を書くかは、本記事では扱いません。参考書類など株主に渡す資料は第5回で整理します。取締役会設置会社の定時株主総会で必要になる計算書類・事業報告の提供も、本記事の対象外です。

なお、株主総会を開かずに株主全員の書面同意で決議する決議の省略(書面決議)会社法319条1項)は、これらとは別の制度です(よくあるご質問を参照)。

2.サンプルで確認|「賛成・反対」欄のある委任状は書面投票?

代理人を指定して議決権の行使を委任する書面であれば、議案ごとの賛否欄があっても、それは議決権の代理行使(会社法310条)です。会社法311条の書面投票は、招集を決めるときに書面投票を認めると定めた株主総会でしか成立しないので、賛否欄を付けただけで書面投票に変わることはありません。

非公開会社、とくにスタートアップでは、VCや事業会社などの投資家株主が毎回の株主総会に出席できるとは限りません。投資家は多数の投資先を持つことが多く、各社の定時株主総会の時期が重なりやすいためです。そこで、招集通知と一緒に議案ごとの賛否欄を付けた委任状を送り、投資家には賛否を記入して返送してもらい、当日は代表取締役などが代理人として議決権を行使する、という方法が広く行われています。次のような文面をよく見かけます。まず招集通知の抜粋、次に同封する委任状の例です。

招集通知の記載例(抜粋)

定時株主総会招集ご通知

目的事項
第1号議案 取締役○○○○選任の件
第2号議案 定款一部変更の件
当日ご出席いただけない場合には、同封の議案説明資料をご検討のうえ、委任状に必要事項をご記入いただき、令和○年○月○日までにご返送くださいますようお願いいたします。

同封する委任状の例

委任状

私は、○○○○を代理人と定め、令和○年○月○日開催の株式会社○○定時株主総会における議決権の行使を委任します。

第1号議案 取締役○○○○選任の件
賛成 ・ 反対
第2号議案 定款一部変更の件
賛成 ・ 反対
令和○年○月○日
株主 ○○○○

※制度の違いを説明するための簡略化したサンプルです。書面投票を採用しない場合でも、役員選任や定款変更など一定の議案については、会社法施行規則63条7号により「議案の概要」を招集の決定事項として定める必要があり、書面や電磁的方法で招集通知を発するときは、会社法299条4項によりその内容を通知に記載・記録します。書式は定款、議案、代理人の資格などに応じて調整します。

この例では、株主本人が議案ごとに賛否を書き込んでいます。それでも、紙に賛否が書いてあるかではなく、代理人が株主総会に出席して議決権を行使する仕組みになっているかが決め手です。株主が書いた賛否は、代理人への指図(このとおりに投票してほしいという指示)であって、会社に対する投票そのものではありません(金子登志雄『総務・法務担当者のための会社法入門』(中央経済社)第1章第4話も、この方法を書面投票方式ではなく委任状方式だと整理しています)。流れは次のとおりです。

株主が、代理人を指定した委任状を会社に提出する(賛否欄があれば、それは代理人への指図)会社が、委任状で代理権を確認し、代理人を出席者として受け付ける代理人が、株主総会に出席して議決権を行使する

サンプルの委任状に入っている3つの要素
この流れが成り立つのは、書面が委任状として成り立っているからです。サンプルの委任状には、次の3つが入っています。

  • 代理人の指定:「○○○○を代理人と定め」
  • 委任の文言:「議決権の行使を委任します」
  • 対象となる株主総会の特定:「令和○年○月○日開催の…定時株主総会」

会社法310条1項が求めるのは「代理権を証明する書面」で、この3つを要件として列挙しているわけではありません。ただ、代理権の有無と範囲を確認できるよう、実務上は少なくともこの3点を明示しておくのが安全です。代理人欄が空欄のときに誰を代理人とするかも、あらかじめ文面で決めておきます。

もう1つ、サンプルの招集通知では議案の説明資料を「議案説明資料」と呼んでいます。これを「株主総会参考書類」と呼んでよいのかという論点と、書面投票を採用した場合に交付する株主総会参考書類に何を書くかは、シリーズ第5回で扱います。

3.代理人は誰にする?|定款で確認する

会社法自体は代理人の資格を制限していません。ただし、定款で代理人の資格を制限している場合があり、定款に定めがなくても、招集を決めるときに代理権(資格を含む)の証明方法や代理人の数などを定めることがあります。「社長を代理人にすればよい」と決めつけず、定款と招集の決定内容を先に確認します。

定款で代理人が「株主」に限られていないか

会社法310条1項は「株主は、代理人によってその議決権を行使することができる」と定めるだけで、代理人の資格には触れていません。一方、定款で代理人を株主に限っている会社は少なくありません。次は、非公開会社の定款によく見られる定め方の例です。

定款の定め(例)

(議決権の代理行使)

第○条 株主又はその法定代理人は、他の株主を代理人として議決権を行使することができる。この場合は、株主総会ごとに代理権を証明する書面を提出しなければならない。

2 株主は、前項の代理権を2名以上の者に行使させてはならない。

この定めがある会社では、株主でない者(株主でない社長や議長、当社の従業員など)を代理人にした委任状は、定款上の資格を満たさないのが原則です。まず定款の文言を確認し、株主でない人を代理人にする必要がある場合は、個別の検討が要るので事前にご相談ください。定款例の第1項後段と第2項は、会社法310条2項(株主総会ごとの授与)と同条5項(代理人の数の制限)に対応しています。

実務では誰を代理人にしているか

当事務所が関与する非公開会社で見る限り、定款で代理人を株主に限っている会社では、株主でもある代表取締役(創業者)を代理人に指定する例が多く見られます。代表取締役本人が株主であることを確認したうえで、委任状の代理人欄にその代表取締役個人の氏名をあらかじめ記載しておけば、欠席する株主は賛否を記入して返送するだけで済み、代理人の資格を株主ごとに確認する手間もかかりません。

4.委任状の作り方と出し方|提出方法・押印・返送期限

委任状は書面で提出するのが原則で、会社の承諾があれば電磁的方法でも提出できます。押印は会社法上の要件ではなく、返送期限も一律には法定されていません。

提出方法と押印

委任状は書面で提出するのが原則です(会社法310条1項)。会社の承諾があれば、書面の記載事項を電磁的方法(メールやウェブ上のアップロードなど電子的な方法)で提供することもできます。この場合、書面を提出したものとみなされます(会社法310条3項、会社法施行令1条)。

招集通知を電磁的方法で受け取ることを承諾している株主から、委任状もメール等で出したいと求められた場合、会社は正当な理由がなければ拒めません(会社法310条4項)。この承諾については、シリーズ第3回で解説しています。株主管理ツールで委任状を回収する場合の位置づけは、まとめで触れます。

押印について、会社法は委任状への押印を求めていません。定款や招集の決定で代理権の証明方法を定めている場合は、その内容に従います。金子登志雄『総務・法務担当者のための会社法入門』(中央経済社)第1章第4話は、会社指定の委任状用紙である限り株主本人からの委任と推定されるため、届出印かどうかにこだわらないのが実務だと説明しています。押印の有無よりも、株主本人から出されたものだと後から確認できる形(返送の記録、送信元メールアドレスの記録など)を残すほうが、後の確認に役立ちます。

返送期限はどう決まる?

議決権行使書面には法定の行使期限がありますが(本記事の第6章)、委任状にはそれに当たる一律の提出期限がありません。会社法310条1項は、代理権を証明する書面を会社に提出することを求めるだけで、いつまでに提出するかは定めていません。招集通知に書く「○月○日までにご返送ください」という期限は、主に、総会前に委任状を確認して出席議決権数を集計するための実務上の期限です。

そのため、返送期限を過ぎたという理由だけで、総会当日に代理人が持参した有効な委任状を当然に受け付けない、という取扱いには注意が必要です。期限後の委任状や当日会場で提出される委任状にも対応できるよう、受付の手順を事前に決めておきます。賛否欄が空欄のまま返送された委任状についても、「賛否の指示がない場合は代理人に一任する」など、取扱いを委任状の文面で明確にしておきます。

なお、代理権を証明する方法、代理人の資格・人数その他の代理人による議決権行使に関する事項は、定款に定めがない場合には、株主総会の招集を決めるときに定めることができます(会社法298条1項5号、会社法施行規則63条5号)。

5.書面投票(議決権行使書面)|採用すると招集手続はこう変わる

書面投票は、欠席株主用の投票用紙を1枚足すだけの制度ではありません。採用すると、招集の決定・招集期間・通知方法・交付書類・招集手続省略の可否まで変わります。

書面投票を採用するには、株主総会の招集を決めるときに「株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができる」旨を定めます(会社法298条1項3号)。取締役会設置会社では取締役会の決議で決定します(会社法298条4項)。取締役会を置かない会社では、取締役が1名ならその取締役が、2名以上なら定款に別段の定めがない限り取締役の過半数で決定します(会社法348条2項・3項3号)。採用した場合に変わることを、次の表にまとめます。

確認事項 書面投票を採用した株主総会
招集期間 非公開会社でも株主総会の日の2週間前までに招集通知を発します(会社法299条1項)。
招集通知の方法 書面で行います(会社法299条2項1号)。株主の承諾を得れば電磁的方法でも発することができます(会社法299条3項)。この承諾はシリーズ第3回で解説しています。
交付する書類 原則として、招集通知に際して株主総会参考書類と議決権行使書面を交付します(会社法301条1項)。会社法299条3項の承諾をした株主に電磁的方法で招集通知を発するときは、交付に代えて記載事項を電磁的方法で提供できます(会社法301条2項。株主の請求があれば書面を交付します)。電子提供措置をとる会社には特則があります(会社法325条の3・325条の4第3項)。議決権行使書面の記載事項は会社法施行規則66条1項で決まっています(参考書類の内容はシリーズ第5回で扱います)。
招集手続の省略 株主全員の同意による招集手続の省略(会社法300条)はできません(同条ただし書)。
議決権行使書面の行使期限 原則は株主総会の日時の直前の営業時間の終了時。会社が別の期限を定めるときは、招集通知を発した日との関係で制約があります(本記事の第6章)。
総会後の備置き 提出された議決権行使書面を株主総会の日から3か月間本店に備え置きます(会社法311条3項)。

交付書類の根拠は次の条文です。

会社法301条1項(株主総会参考書類及び議決権行使書面の交付等)

取締役は、第二百九十八条第一項第三号に掲げる事項を定めた場合には、第二百九十九条第一項の通知に際して、法務省令で定めるところにより、株主に対し、議決権の行使について参考となるべき事項を記載した書類(以下この款において「株主総会参考書類」という。)及び株主が議決権を行使するための書面(以下この款において「議決権行使書面」という。)を交付しなければならない。

会社法298条1項3号(株主総会の招集の決定)

三 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨

出典:会社法301条会社法298条|e-Gov法令検索

議決権行使書面に何を書くか

議決権行使書面の記載事項は会社法施行規則66条1項で決まっています(同条は、301条1項の「法務省令」に当たる条文です)。主な記載事項は次のとおりです。

  • 各議案についての賛否を記載する欄(棄権の欄を設ける場合は棄権を含む)
  • 賛否の記載がない議決権行使書面が提出された場合の取扱いを招集の決定で定めたときは、その内容(例:賛成の表示があったものとして扱う)
  • 議決権の行使の期限
  • 議決権を行使すべき株主の氏名または名称と、行使することができる議決権の数

なお、同一の株主総会について、上の2番目から4番目までの事項を招集通知の内容としている場合は、議決権行使書面に重ねて記載する必要はありません(会社法施行規則66条5項)。

押印欄は記載事項に含まれていません。書面投票では、会社が株主ごとに氏名と議決権数を印字した用紙を交付し、株主が賛否を記入して返送する、という形が基本です。

招集期間の数え方はシリーズ第1回、書面通知と電磁的方法の関係はシリーズ第3回で解説しています。

6.行使期限の落とし穴|期限を日時で定めるなら発送日に注意

ここからは、書面投票を実際に採用する会社向けの注意点です。委任状との違いだけを確認したい方は、まとめへ進んでいただいて問題ありません。書面投票を採用する場合、招集通知の期限(2週間前まで)とは別に、議決権行使書面の行使期限にも法令上の制約があります。期限を「前日の午後5時」のように株主総会より前の日時で定めるなら、その分だけ招集通知の発送日を早める必要があります。

原則の期限=株主総会の日時の直前の営業時間の終了時

会社法311条1項は、議決権行使書面を「法務省令で定める時までに」提出するとしています。この法務省令が会社法施行規則69条です(同条の冒頭に「法第三百十一条第一項に規定する法務省令で定める時は」とあります)。

会社法施行規則69条(書面による議決権行使の期限)

法第三百十一条第一項に規定する法務省令で定める時は、株主総会の日時の直前の営業時間の終了時(第六十三条第三号ロに掲げる事項についての定めがある場合にあっては、同号ロの特定の時)とする。

会社法施行規則63条3号ロ(招集の決定事項)

ロ 特定の時(株主総会の日時以前の時であって、法第二百九十九条第一項の規定により通知を発した日から二週間を経過した日以後の時に限る。)をもって書面による議決権の行使の期限とする旨を定めるときは、その特定の時

出典:会社法施行規則69条会社法施行規則63条|e-Gov法令検索。63条は、会社法298条1項5号の「法務省令で定める事項」を定める条文です。

9月18日(金)に株主総会を開く場合の例

本シリーズの基本例と同じく、9月18日(金)午前10時に株主総会を開く場合で考えます。「特定の時」を定めなければ、行使期限は前日17日(木)の営業時間終了時で、招集通知は2週間前の9月3日(木)までに発すれば足ります。営業時間の終了時をそのまま期限とするなら、「特定の時」を定める必要はありません。

これに対して、営業時間の終了時とは別に、期限を「9月17日(木)午後5時」と定める場合、この時は招集通知を発した日から2週間を経過した日以後でなければなりません。9月3日(木)に発した場合の数え方は、次のとおりです。

  • 発した日(9月3日)は数えません(民法140条
  • 翌4日から暦に従って2週間を計算し、17日(木)の終了時に満了します(民法141条・143条)
  • 「経過した日」は、その翌日の18日(金)です

17日午後5時はこれより前なので、条件を満たしません。発送を1日早めて9月2日(水)に発すれば、「経過した日」が17日(木)となり、17日午後5時を期限にできます。2つの発送日を並べると次のとおりです。

9月3日(木)発送17日午後5時の期限は使えない
9月2日(水)発送株主総会の日まで中15日。17日午後5時の期限が使える
9月17日(木)午後5時定めた行使期限

期間の数え方の基本はシリーズ第2回で解説しています。

7.書面投票が義務になる会社|株主1,000人以上の基準

株主が1,000人以上の会社は、原則として書面投票を採用しなければなりません。それ以外の会社は、採用するかどうかを選べます。

会社法298条2項は、株主(決議事項の全部について議決権を行使できない株主を除きます)の数が1,000人以上である場合には、書面投票を認める旨を定めなければならないとしています。ただし、この人数の対象となる株主の全部に対し、金融商品取引法にもとづいて、株主総会の通知に際し委任状の用紙を交付して議決権の代理行使を勧誘している会社は、この義務の例外とされています(同項ただし書、会社法施行規則64条)。上場会社で問題になることの多い例外です。

株主が1,000人に満たない会社では、書面投票を採用するかどうかを会社が選べます。非公開会社で株主が1,000人以上になることはまれなので、実際には選べる場合がほとんどです。選べる場合の考え方は、まとめに整理しました。

8.司法書士として実際に確認しているポイント

当事務所では、委任状や議決権行使書面を単独で見るのではなく、招集の決定から議決権行使、議事録までが一連の手続としてつながっているかを確認します。

  1. 株主名簿と議決権数今回の株主総会で議決権を行使できる株主は誰か、基準日を定めているか。委任状・議決権行使書面の名義と株主名簿が一致しているか。
  2. 現行定款代理人の資格(株主に限るか)と人数の制限。雛形の定款をそのまま使い、制限に気づいていない例があります。
  3. 欠席株主の行使方法委任状方式か、会社法298条1項3号の書面投票か。書面投票なら、招集を決めた取締役会議事録(取締役会を置かない会社では取締役の決定書)に、書面投票を認める旨が記載されているか。行使期限を「特定の時」に定めるなら、その定めも記載されているか。
  4. 招集スケジュールと同封書類委任状方式なら原則1週間前まで(取締役会を置かない会社で定款により短縮している場合はその期間。電子提供措置をとる場合など、別の理由で2週間前までになることがある)、書面投票なら2週間前まで。書面投票では参考書類・議決権行使書面の有無と、行使期限が発した日から2週間を経過した日以後になっているか。
  5. 当日の出席者の資格株主本人か、法人株主の代表者か、代理人か。代理人なら委任状の提出があり、定款上の資格を満たしているか。
  6. 議事録との整合と備置き出席株主数と議決権数に、代理出席と書面行使が正しく含まれているか(会社法311条2項)。当事務所では、議事録の出席株主数を「○名(うち委任状による出席○名)」のように書き分け、書面投票を採用した総会では書面による行使分も区別して記載しています。代理権を証明する書面(電磁的方法で提供された場合はその事項を記録した電磁的記録)と議決権行使書面を、株主総会の日から3か月間本店に備え置く体制があるか(会社法310条6項・311条3項)。

株主総会の招集通知・委任状・議事録は、その後の資金調達や議事録整備・法務DDで確認対象になることが多くあります。招集通知・委任状・議事録を相互に整合させておくことが、後日の手戻りを防ぎます。株主総会の招集通知や委任状の作成支援は、株主総会・取締役会の運営支援でご案内しています。

よくあるご質問

委任状を同封すると、招集通知は2週間前までに発する必要がありますか。

いいえ。委任状による代理行使を利用することだけを理由に、招集通知の期限が2週間前までになることはありません。非公開会社で招集通知が2週間前までになるのは、別の理由があるときです。たとえば、書面投票・電子投票(会社法298条1項3号・4号)を採用した株主総会や、電子提供措置をとる場合(会社法325条の3第1項・325条の4第1項)などです。電子提供措置はシリーズ第3回で解説しています。

議決権行使書面を全株主から回収すれば、株主総会を開催しなくてもよいですか。

それだけでは、株主総会を開催しなくてよいことにはなりません。書面投票は、実際に開催される株主総会について投票する制度です。総会を開かずに決議を成立させるには、議決権を行使できる株主全員が提案に書面または電磁的記録で同意するという、会社法319条1項の「決議の省略」の要件を別に満たす必要があります。

書面投票を採用した株主総会でも、株主は委任状で代理人を出席させられますか。

できます。議決権の代理行使(会社法310条)は、書面投票を採用しているかどうかにかかわらず認められています。ただし、同じ株主について議決権行使書面の提出と委任状による代理行使が重なった場合の取扱いは、機械的に決められるものではありません。定款、招集を決めたときの定め、委任状が出された時期、当日の出席状況などを確認して判断します。判断に迷う場合は、株主総会の前にご相談ください。

まとめ|「どの紙を使うか」より「誰が議決権を行使するか」

欠席株主がいるときは、「委任状を送るか、議決権行使書面を送るか」から考えるのではなく、誰が、どの方法で議決権を行使するのかを先に決めます。そうすれば、必要な招集手続と書類は自然に決まります。

非公開会社で選ぶときの目安は、次のとおりです。

場面 向いている方法 理由
株主が数名〜数十名で、欠席株主は代理人に任せてよい 委任状方式 招集期間は原則1週間前のまま。書面投票を採用しない限り会社法301条の参考書類・議決権行使書面の交付義務はない。ただし役員選任や定款変更など一定の議案では「議案の概要」を招集の決定事項として定める必要がある(会社法施行規則63条7号
欠席株主本人に賛否を直接示してもらう必要がある(代理人を立てにくい、株主数が多い) 書面投票の検討 株主本人が投票できる。ただし2週間前までの招集、参考書類・議決権行使書面の作成、行使期限の管理が必要

実務の傾向として、金子登志雄『総務・法務担当者のための会社法入門』(中央経済社)第1章第4話は、上場会社では議決権行使書面方式、非上場会社では委任状方式が通常だと説明しています。株主数の少ないスタートアップについても、smartroundの「スタートアップの株主総会マニュアル」が、書面投票・電子投票を実務上採用することはほとんどない、と説明しています。

smartroundなどの株主管理ツールで委任状を回収する場合も、会社法上の整理は変わりません。委任状を電磁的方法で提出してもらうには、会社法310条3項により会社の承諾が必要です。利用するシステムや提出方法が同項と会社法施行令1条の要件を満たしているかを確認します。代理人の資格は、ツールの設定ではなく定款で決まります(本記事の第3章)。

次の第5回では、株主に渡す資料(株主総会参考書類)を扱います。

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司法書士法人LSO 代表社員 司法書士 金光康太

執筆・監修

金光 康太(かなみつ こうた)

司法書士(司法書士法人LSO 代表社員)

大阪・梅田の司法書士。スタートアップ・ベンチャー企業の資金調達、種類株式、ストックオプション、M&A・組織再編、IPO準備に伴う商業登記を中心に取り扱っています。U30堺市起業家輩出プログラムSIPメンター(2024年度・2025年度)。

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本記事について

本記事は、2026年9月時点の会社法および公表資料等をもとに、公開会社でない株式会社(本記事では「非公開会社」といいます。)の株主総会における委任状(議決権の代理行使)と議決権行使書面(書面による議決権行使)の違いを一般向けに整理したものです。具体的な取扱いは、会社の機関設計、定款、株主構成、議案、種類株式の有無その他の事情によって異なります。

主な根拠法令・参考資料

  • 会社法298条1項3号・4号・5号、同条2項・4項(株主総会の招集の決定)、299条1項・2項・3項・4項(株主総会の招集の通知)、300条(招集手続の省略)、301条1項・2項(株主総会参考書類及び議決権行使書面の交付等)、310条(議決権の代理行使)、311条(書面による議決権の行使)、312条(電磁的方法による議決権の行使)、319条1項(株主総会の決議の省略)、325条の3(電子提供措置)、325条の4第1項・3項(株主総会の招集の通知等の特則)、348条2項・3項(業務の執行)
  • 会社法施行令1条(書面に記載すべき事項等の電磁的方法による提供の承諾等)
  • 民法140条・141条・143条(期間の計算)
  • 会社法施行規則63条3号・5号・7号(招集の決定事項)、64条(書面による議決権の行使について定めることを要しない株式会社)、66条1項・5項(議決権行使書面)、69条(書面による議決権行使の期限)
  • 金子登志雄『総務・法務担当者のための会社法入門』(中央経済社)第1章第4話「株主総会の招集通知と同封書面」
  • smartround「スタートアップの株主総会マニュアル」、smartround株主総会機能に関する公式案内

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