株式譲渡制限の承認機関は誰にする?「当会社」・株主総会・取締役会・代表取締役と変更登記

株主総会・取締役会の運営支援
株式譲渡制限の承認機関は誰にする?「当会社」・株主総会・取締役会・代表取締役と変更登記
結論
株式譲渡制限の承認機関について、「どの会社でもこれが正解」という決め方はありません。
定款を「当会社の承認を受けなければならない」としておけば、定款に別段の定めがない限り、取締役会を置いていない会社では株主総会、取締役会設置会社では取締役会が承認の可否を決定します(会社法139条1項)。そのため、機関設計が変わっても、株式譲渡制限規定について「当会社」という定款・登記上の文言を原則としてそのまま維持できる点は大きな利点です。
一方、「代表取締役の承認」とする定款・登記実務も存在し、これを認める立案担当者・実務家の見解がありますが、特に取締役会設置会社において、代表取締役等の下位機関へ承認の可否に関する自由な裁量まで与えられるかについては、これに否定的な有力説もあります。そのため当事務所では、承認機関を代表取締役とすることは原則としてお勧めしていません。
当事務所では、法律上可能な書き方だけでなく、その会社が実際に間違えずに運用できるかまで含めて承認機関を検討しています。
株式譲渡制限の「承認機関」とは
譲渡制限株式の譲渡には会社の承認が必要ですが、その「会社の承認」を実際にどの機関が決定するのかは、会社法139条1項と定款の定めで決まります。
株式会社は、その発行する株式を譲渡により取得することについて会社の承認を要する旨を、定款で定めることができます(会社法107条1項1号・2項1号、108条1項4号)。この定めのある株式が譲渡制限株式です(会社法2条17号)。
株主(又は取得者)から譲渡等承認請求を受けた会社は、承認するか否かを決定しなければなりません(会社法136条、137条1項)。その決定を行う機関について、会社法139条1項は次のように定めています。
図1|定款が「当会社の承認」のとき、誰が承認するか
株主総会
普通決議(定款に別段の定めがない場合)
取締役会
取締役会決議
会社法139条1項本文の原則。ただし、同項ただし書により定款で別段の定めを置くことができます。
したがって、株式譲渡の場面で「社長が了承しているから大丈夫」「取締役全員が知っているから大丈夫」とは判断できません。まず現在の定款に何と書かれているか、そのうえで現在の会社が取締役会設置会社かどうかを確認する必要があります。
「当会社の承認」と書くメリット
「当会社の承認」という書き方の利点は、定款上で承認機関を固定していないため、機関設計を変更しても譲渡制限規定の文言を変えずに済むことです。
定款では、次のような規定をよく見かけます。法務局が公開している登記申請書の記載例でも、この形式が使われています。
(株式の譲渡制限)
当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を受けなければならない。
松井信憲『商業登記ハンドブック〔第5版〕』(商事法務)33頁も、譲渡制限に関する定款の規定振りは会社法107条2項1号イの文言に従い「当会社の承認を要する」旨で足り、承認機関が139条1項のとおりである限り、これを定款に定める必要はないとしています。
設立当初に取締役会を置いていない会社であれば「当会社の承認」は株主総会の決議を意味し、その後に取締役会を設置すれば取締役会の決議を意味することになります。会社法139条1項の原則となる承認機関が、機関設計に応じて変わるためです。
譲渡制限規定について「株主総会→取締役会」の変更登記が不要になる
ここが実務上の大きな利点です。定款・登記が「株主総会の承認を受けなければならない」と明記されている場合、取締役会を設置しただけで、この文言が自動的に「取締役会の承認」へ書き換わるわけではありません。
これに対し、もともと「当会社の承認」としていれば、取締役会を設置しても株式の譲渡制限に関する規定そのものの文言は変わりません。
ここで不要になるのは、あくまで譲渡制限規定についての変更登記です。取締役会を設置・廃止すること自体については、その機関設計に関する定款変更と登記が別途必要になります。
逆に、取締役会設置会社が確認的に「取締役会の承認を要する」と定款に書いている場合、同書33頁は、将来、取締役会を置く旨の定めを廃止する定款変更をするときや解散の決議をするときは、株式譲渡承認機関に係る定款の規定も併せて変更することになると指摘しています。
「当会社」「株主総会」「取締役会」はどう違う
承認機関の定め方は、法律上どれが可能かだけでなく、その会社が実際にどう運用するかまで含めて決める必要があります。
図2|定款の書き方 4パターンの比較
- 承認機関
- 取締役会非設置なら株主総会/取締役会設置なら取締役会(会社法139条1項)
- メリット
- 株式譲渡制限規定については、機関設計を変更しても「当会社」という文言の変更・変更登記を原則として要しない
- 注意点
- 今どの機関が承認するのかを、社内で正しく把握しておく必要がある
- 承認機関
- 株主総会。取締役会非設置会社では139条1項本文による原則的な承認機関。取締役会設置会社で株主総会とする場合は同項ただし書の別段の定め
- メリット
- 定款を読めば誰が承認するか分かる。運用を誤りにくい
- 注意点
- 譲渡等承認請求から原則2週間以内に決定内容を通知する必要があるため、株主数が少ない、全株主の同意により招集手続を省略しやすいなど、短期間で株主総会の意思決定を行いやすい会社で運用しやすい
- 承認機関
- 取締役会(取締役会設置会社では原則どおり。確認的に定めることも可)
- メリット
- ボードで株式の移動を管理できる
- 注意点
- 取締役会を廃止するとこの定めは効力を失い、株主総会が承認機関になると解されている
- 承認機関
- 代表取締役等(139条1項ただし書の別段の定めとして、これを認める見解がある)
- メリット
- 会議体を開かずに機動的な判断ができる
- 注意点
- 下位機関へ自由な裁量を与えることには否定的な有力説がある。当事務所では、これから設計する定款では原則としてお勧めしていない(後述)
いずれも一長一短であり、株主構成・機関設計・バックオフィス体制によって適切な選択は変わります。
「当会社」は柔軟性を重視する設計
会社法実務に慣れたCFO・法務担当者がいて、定款と機関設計をきちんと管理できる会社であれば、「当会社」という規定は使いやすい定め方です。法令上、取締役会の設置が義務付けられていない会社であれば、将来の取締役会の設置・廃止にも対応しやすい定め方といえます。
あえて「株主総会」と明記する意味もある
一方で、取締役会非設置会社について、あえて「株主総会の承認を受けなければならない」と書くことにも実務上の意味があります。定款を読めば誰が承認するのかが分かるからです。
なお、取締役会非設置会社では、株主総会は会社法139条1項本文による原則的な承認機関です。これに対し、取締役会設置会社で、同項ただし書により株主総会を承認機関とする場合には、別の注意点があります。
会社は譲渡等承認請求の日から原則2週間以内に決定の内容を通知する必要があります(会社法139条2項、145条1号)。
江頭憲治郎『株式会社法〔第8版〕』(有斐閣)240頁は、取締役会設置会社について、この2週間という期間と株主総会の招集期間との関係を指摘しています。公開会社でない株式会社では招集通知の発送は原則として総会の1週間前までで足りるのに対し(会社法299条1項)、公開会社では2週間前までに発する必要があります。そのため、招集手続の省略について株主全員の同意(会社法300条)を得られない場合には、適時に不承認の決議を行うことが困難になる、という趣旨です。
法律上柔軟な定款が、必ずしもその会社にとって運用しやすい定款とは限りません。ここが、当事務所が定款変更・各種変更登記のご相談で重視しているところです。
「株主間の譲渡は承認不要」とする設計もある
承認機関の選び方とは別に、承認そのものを不要とする範囲を定款で決めることもできます。会社法107条2項1号ロ・108条2項4号により、「譲受人が株主である場合には、会社が承認したものとみなす」旨を定めれば、株主以外の者へ譲渡する場合に限って承認を要するという設計が可能です(相澤哲ほか編著『論点解説 新・会社法 千問の道標』(商事法務)Q84)。
これに対し、譲渡人である株主の資格や譲渡する株式数で承認の要否を区別することについては、株主平等の原則との関係で議論があります(『商業登記ハンドブック〔第5版〕』34頁)。
「代表取締役の承認」と書けば、代表取締役だけで決められるのか
代表取締役が承認する旨の定款・登記実務は存在し、これを認める立案担当者・実務家の見解があります。一方、特に取締役会設置会社において、取締役会より下位の代表取締役等へ承認の可否に関する自由な裁量まで与えられるかについては、これに否定的な有力説もあります。当事務所では、この見解の対立が残ることを踏まえ、これから設計する定款で承認機関を代表取締役とすることは、原則としてお勧めしていません。
立案担当者は「代表取締役でも可能」とする
会社法の立案担当者による『論点解説 新・会社法 千問の道標』63頁(Q85)は、139条1項ただし書の「別段の定め」について、代表取締役や取締役が判断するものとすることや、取締役会設置会社において株主総会の決議によるものとすることを定めることができると説明しています。登記上も、会社の承認を要する旨だけでなく、代表取締役の承認を要する旨など具体的な承認機関を登記することができるとされています。
もっとも、同書は同時に、139条1項が認めているのは「株式会社としての決定」をどの機関で行うかを定款で定めることであり、株式会社の決定とはいえないような決め方(まったくの第三者が定めるものとするなど)はできないとしています。『商業登記ハンドブック〔第5版〕』33頁も同旨です。
ただし「承認基準を定めて委ねる形のみ」という有力説がある
他方で、江頭『株式会社法〔第8版〕』240頁は、譲渡制限株式の制度は本来は株主が自分の仲間を選択する形が望ましく、取締役会が決定機関とされているのは時間的制約を考慮したものであるとしたうえで、取締役会よりさらに下位の機関を決定機関とすることを法は想定しておらず、代表取締役・執行役等に委ねるのであれば、承認の可否につき一定の基準を定め、その基準に従って個々の承認請求を処理させる形のみが認められるとの見解を示しています。
『商業登記ハンドブック〔第5版〕』33頁(注1)も、この見解を有力なものとして紹介しています。
つまり、「代表取締役の承認」と定款・登記に記載できることと、代表取締役に承認の完全な自由裁量を与えてよいかは、別の問題として整理する必要があります。
登記実務上の取扱い
『商業登記ハンドブック〔第5版〕』35頁は、定款の1項で「当会社の承認を要する」とし、2項で「前項の承認は、代表取締役が行う」とする場合について、厳密には登記すべき事項は1項のみであるものの、承認機関を明示した従来の登記の在り方等を勘案し、登記実務上、1項及び2項を登記事項とした申請も受理して差し支えないとして取り扱われていると説明しています。
当事務所の考え方
以上を踏まえ、当事務所では、これから定款を設計する場合、承認機関を代表取締役とすることは原則としてお勧めしていません。会社法139条1項本文のとおり株主総会又は取締役会としておけば、承認権限の範囲について後から争いになる余地が小さく、議事録という形で承認の記録も残るためです。
機動性を優先して代表取締役等へ判断を委ねたい場合には、承認の可否についての基準をあらかじめ定めておくなど、上記の有力説に沿った設計を検討します。
この論点については見解が分かれています。既存の定款が直ちに無効になるという趣旨ではありません。すでに「代表取締役の承認」と定めている会社について、直ちに定款変更が必要になるわけではなく、重要な株式移動の場面で権限の範囲や承認基準を確認しておく、という趣旨です。
譲渡当事者が取締役のとき|特別利害関係取締役に注意
取締役会を承認機関とする場合、譲渡人又は譲受人が取締役であるときは、その取締役が決議に加われるかを確認する必要があります。
会社法369条2項は、特別の利害関係を有する取締役は取締役会の議決に加わることができないと定めています。
江頭『株式会社法〔第8版〕』239頁は、株式譲渡承認について、取締役が譲渡人・譲受人のいずれである場合も、当該決議につき特別の利害関係人に該当すると解すべきとの見解を示しています。
例えば、取締役Aが自己の保有株式を第三者Bへ譲渡し、その譲渡を取締役会で承認するという場合、Aがその決議に通常どおり参加してよいかを検討しなければなりません。議決に加われないとすると、Aを除いた取締役で定足数・決議要件を満たすかという問題も生じます。
忠実義務との関係
同書239頁は、取締役会による譲渡承認の判断について、取締役は承認の判断につき善管注意義務・忠実義務を負うと解すべきであるとしています。会社法355条も、取締役が法令・定款及び株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならないと定めています。
もっとも、譲渡当事者であることが直ちに忠実義務違反になるという意味ではありません。取締役会が承認機関である場合は、まず会社法369条2項の特別利害関係取締役の問題として整理するほうが明確です。
代表取締役が承認機関で、その代表取締役本人が譲渡するとき
定款・登記が「前項の承認は代表取締役が行う」となっており、その代表取締役自身が譲渡人になる場合、形式的には「自分の株式譲渡を、自分自身で会社として承認する」ことになります。
定款上の承認権者である代表取締役自身が譲渡人又は譲受人となる場合について、自己承認が当然に無効となる、又は法律上当然に株主総会の承認が必要になるとする明文の規定はありません。一方で、自らの利害が直接関係する株式譲渡について代表取締役自身が会社として承認することには、会社法355条の忠実義務との関係で問題が生じ得るとの実務上の見解があります。
そのため当事務所では、「代表取締役の承認と書いてあるので、本人が自分で承認すれば終わり」とは処理せず、現在の定款、機関設計、代表取締役の人数、株主構成、過去の運用等を確認します。そのうえで、必要に応じて、承認機関に関する定款変更の要否を確認したうえで株主総会を承認機関とする方法や、他の代表取締役による対応等を検討し、後から譲渡承認の有効性について疑義が生じにくい方法を選びます。
特に創業者株式の大きな移動、VCが関係する株式譲渡、M&Aでは、後日の法務デューデリジェンスで「この株式譲渡は適切な機関で承認されていたのか」という指摘を残さないことが重要です。M&A・事業承継・組織再編の場面では、この確認が取引そのもののスケジュールに影響することもあります。
承認機関を間違えたときのリスク
承認機関を誤った場合には、その決定が会社法139条1項に基づく有効な決定といえるかを確認する必要があります。
実務上は、次のような処理が問題になりやすくなります。
- 定款に別段の定めがない取締役会設置会社なのに、株主総会の決議だけで承認したものとして処理していた
- 取締役会非設置会社なのに、取締役数名の了解だけで処理していた
- 取締役会を廃止したのに、定款の「取締役会の承認を要する」という規定をそのままにしていた
いずれの場合も、会社として有効に承認・不承認の決定をしたといえるかが問題になります。承認する場合であっても、株主名簿の名義書換や、その後の資本政策の前提が揺らぎます。承認を拒否したいと考えていた事案では、後から決定の効力を争われる余地が残ります。
承認を得ないでした譲渡の効力
株券発行会社における株券の交付など、株式譲渡自体の効力要件を満たしていることを前提に(会社法128条1項)、会社の承認を得ないままされた譲渡制限株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間では有効であると解されています(最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁。いわゆる相対説)。江頭『株式会社法〔第8版〕』243頁も同旨です。
つまり、承認手続を欠いても当事者間の売買契約が当然に無効になるわけではない一方、会社は譲受人を株主として取り扱う必要がありません。譲渡制限株式の取得者は、会社法136条・137条1項の承認を受けているなどの場合でなければ、株主名簿の名義書換を請求できないためです(会社法134条)。このような承認手続の不備は、株主名簿上の株主と実際の株式譲渡の経緯が一致しなくなる原因の一つです。
承認機関を変更するときの定款変更と登記
承認機関を変更する定款変更は、株式会社全体の定款変更としては原則として株主総会の特別決議によります。もっとも、種類株式発行会社では、変更内容や定款の定め等に応じて種類株主総会その他の手続も別途確認します。
例えば「株主総会の承認を受けなければならない」としている会社が「当会社の承認を受けなければならない」へ変更する場合、定款変更が必要です。この定款変更は、原則として株主総会の特別決議によります(会社法466条、309条2項11号)。
『論点解説 新・会社法 千問の道標』63頁も、承認機関の変更は、会社法110条・111条2項に定める定款変更の特則の対象とはならないとしています。110条は取得条項に関する定款変更について株主全員の同意を、111条2項は種類株式に譲渡制限等を設ける定款変更について種類株主総会の決議を求めるものであり、承認機関の変更はいずれにも当たりません。
これに対し、発行する全部の株式について新たに譲渡制限の定めを設ける定款変更は、議決権を行使することができる株主の半数以上であって当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数による、いわゆる特殊決議が必要です(会社法309条3項1号)。反対株主の株式買取請求(会社法116条1項1号)にも留意します。
決議要件の整理
・承認機関の変更・譲渡制限の廃止 → 特別決議(309条2項11号)
・譲渡制限を新たに設定 → 特殊決議(309条3項1号)+反対株主の買取請求
そして、「株式の譲渡制限に関する規定」は登記事項であるため(会社法911条3項7号)、登記されている内容を変更した場合には変更登記も必要です。登記すべき事項は、定款と登記事項との整合性を確認して作成します(松井信憲『商業登記ハンドブック〔第5版〕』34〜35頁)。登記記録上は「株式の譲渡制限に関する規定」欄に記録されます(平成18年3月31日民商782号通達)。
手続の流れ
-
現在の定款と登記を確認する
定款と登記記録の「株式の譲渡制限に関する規定」が一致しているかを確認します。過去の変更が登記に反映されていない例もあります。
-
変更後の規定を決める
現在の機関設計だけでなく、将来の取締役会設置・廃止、株主構成、資金調達の予定も踏まえて決めます。
-
株主総会で定款変更を決議する
原則として特別決議によります。種類株式発行会社では、変更内容や定款の定めに応じて種類株主総会その他の手続が必要かを別途確認します。
-
変更登記を申請する
登記事項に変更が生じた場合、本店の所在地において原則として2週間以内に変更登記を申請します(会社法915条1項)。
-
定款・株主名簿等を更新する
登記だけで終わらせず、社内保管の最新定款や株主総会・取締役会の議事録、株主名簿も変更後の内容へ更新します。
登録免許税
株式の譲渡制限に関する規定の変更登記は、商業登記の課税区分では「登記事項の変更」(区分ツ)に当たり、登録免許税は3万円です。同じ区分に属する他の変更登記と同時に申請する場合、その区分についての税額が加算されない取扱いとなります。実際に申請する登記事項と課税区分は、個別に確認します。
司法書士として実際に確認しているポイント
株式譲渡や承認機関の変更をご相談いただいた場合、定款の一条だけを見るのではなく、現在の会社の状態と過去の運用をあわせて確認します。
- 現在の定款と登記記録の譲渡制限規定が一致しているか。承認機関について別段の定めがあるか
- 現在が取締役会設置会社かどうか。取締役会を廃止したのに「取締役会の承認を要する」という規定が残っていないか
- 過去の株式譲渡について、承認機関の議事録が実際に残っているか
- 譲渡等承認請求から2週間以内に、決定内容の通知が行われていたか
- 譲渡当事者に取締役が含まれていないか(特別利害関係取締役の検討)
- 投資契約・株主間契約上、事前承諾や通知が必要とされていないか
当事務所がスタートアップ企業の資料を確認していると、定款に「当会社の承認」とあるにもかかわらず、取締役数名の了解だけで処理していた、株主総会を開催せず代表取締役が承認したものとしていた、正式な承認決議をせず株主名簿だけを書き換えていた、といったケースを見ることがあります。
これは「当会社」という規定自体が問題なのではなく、その規定を運用する会社側が、誰の承認を取る必要があるのかを把握できているかどうかの問題だと考えています。
VC等から資金調達している会社では、会社法上の譲渡承認とは別に、創業株主間契約や投資契約・株主間契約上、投資家の事前承諾や通知が必要とされていることもあります。「会社法上の承認を取ったからすべて終わり」とは限りません。
株式の評価額の算定、譲渡に伴う課税関係(みなし譲渡課税等)、会計処理については、当事務所では判断していません。税務は税理士、会計は公認会計士等へご相談ください。当事務所がお引き受けするのは、会社法上の手続と登記に関する部分です。
よくあるご質問
- 「当会社の承認」としている会社が取締役会を設置したら、定款変更が必要ですか。
-
譲渡制限規定の文言自体を変更する必要はありません。承認の決定機関が会社法139条1項により株主総会から取締役会へ変わります。もっとも、取締役会を設置すること自体に伴う定款変更と登記は別途必要です。
- 定款に「株主総会の承認」と書いている会社が取締役会を設置したら、自動的に取締役会の承認になりますか。
-
なりません。定款で株主総会を承認機関として明示している以上、それは会社法139条1項ただし書の別段の定めとして有効に存続します。取締役会を承認機関としたい場合は、別途、定款変更と変更登記が必要です。
- 承認機関を変更する定款変更は、どの決議によりますか。
-
承認機関の変更や譲渡制限の廃止は、原則として株主総会の特別決議によります(会社法466条、309条2項11号)。承認機関の変更には会社法110条・111条2項の適用がないため、特殊決議は不要とされています。これに対し、全部の株式について新たに譲渡制限を設定する定款変更は、会社法309条3項1号の特殊決議が必要で、反対株主の株式買取請求にも留意します。種類株式発行会社では、別途、種類株主総会等の要否を確認します。
- 会社の承認を得ないで株式を譲渡したらどうなりますか。
-
株券発行会社における株券の交付など、株式譲渡自体の効力要件を満たしていることを前提に(会社法128条1項)、会社の承認を得ないままされた譲渡制限株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じませんが、譲渡当事者間では有効と解されています(最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁)。会社は譲受人を株主として取り扱う必要がなく、名義書換にも応じないことになります(会社法134条)。
まとめ
- 「当会社の承認」なら承認機関は機関設計で決まる定款に別段の定めがない限り、取締役会非設置会社では株主総会、取締役会設置会社では取締役会が承認機関になります(会社法139条1項)。
- 柔軟さの裏返しに、社内での把握が必要「当会社」は機関設計の変更に対応しやすい一方、今どの機関が承認するのかを社内で正しく把握しておく必要があります。
- 「代表取締役の承認」は原則として避けるこれを認める定款・登記実務がある一方、下位機関へ自由裁量の承認権限を与えられるかについては否定的な有力説があります。当事務所では、これから設計する定款では原則としてお勧めしていません。
- 譲渡当事者が取締役なら369条2項を確認する取締役会決議における特別利害関係取締役の問題として整理し、定足数・決議要件も確認します。
- 承認を得ない譲渡は会社との関係では効力を生じない株式譲渡自体の効力要件を満たしていることを前提に、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間では有効と解されています(相対説)。
定款は、最も柔軟な文言を選べばよいというものではありません。株主構成、機関設計、バックオフィス体制、今後の資金調達を踏まえ、その会社が実際に間違えずに運用できるかまで考えて設計することが大切です。
本記事について
本記事は、2026年8月時点の法令および公表資料等をもとに作成しています。本文で紹介した学説上の議論には、解釈が分かれる論点が含まれます。法令や実務の取扱いは変更されることがあります。具体的な手続にあたっては最新の情報をご確認のうえ、会社法上の手続と登記については司法書士、税務については税理士、会計については公認会計士等へご相談ください。
主な参考文献:江頭憲治郎『株式会社法〔第8版〕』(有斐閣)239頁以下/松井信憲『商業登記ハンドブック〔第5版〕』(商事法務)32〜35頁/相澤哲・葉玉匡美・郡谷大輔編著『論点解説 新・会社法 千問の道標』(商事法務)63〜64頁
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